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Back Stage|新音楽監督 尾高忠明と切り開く新時代への期待|福山 修

新音楽監督 尾高忠明と切り開く新時代への期待

text by 福山 修(Osamu Fukuyama)

大阪フィルハーモニー交響楽団は戦後すぐの1947年1月、空襲によって見渡す限り焼け野原となった大阪で、満州から帰り着いたばかりの朝比奈隆を中心に集まった演奏家たちによって「関西交響楽団」という名称で生まれました。「打ち続いた悲しみと不幸の中で、殊更に光明と希望を想わせるこの美しい季節に、新しい交響楽団の誕生を音楽を愛する人々に告げる事の出来るのは、何と言う大きな喜びであろう」。初の演奏会となった同年4月26日「第1回定期演奏会」で朝比奈がプログラムに寄せた挨拶文の冒頭です。その後、1960年に現在の名称となった大阪フィルは、関西財界の支援を仰ぎながら経済的苦難を乗り越え、朝比奈が2001年12月に没するまで実に54年もの間、朝比奈を常任指揮者・音楽総監督として演奏を重ね、ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナーといった、ドイツ・オーストリアの作曲家をレパートリーの中心に据えて、重厚でダイナミックなサウンドを身に着けました。これは世界的に見ても例の無い指揮者とオーケストラの長きに渡る関係であり、結果、大阪フィルはその個性を伸ばし、独自のスタイルを確立して行きます。

(C)飯島隆

そしてそのDNAは、朝比奈亡き後も大植英次音楽監督、井上道義首席指揮者に受け継がれ、今年4月に尾高忠明がバトンを受け取って、大阪フィルは新たな時代を迎えました。
3代目の音楽監督となった尾高はこれまで何度も大阪フィルに客演しており、数々の作品を素晴らしい演奏に導いてくれましたが、中でも忘れられない演奏が2004年1月定期のブルックナー/交響曲第9番です。ブルックナーは朝比奈隆と大阪フィルのトレードマークと言える作曲家であり、それだけに他の指揮者が大阪フィルでブルックナーを振る機会はほとんどありませんでした。2001年に朝比奈が逝去した後も、しばらくはブルックナーを封印したほどです。そうした中、3年を経て、初めてブルックナーを指揮したのが尾高でした。多くのファンの注目を集めたその日の演奏は、それまでの尾高の冷静沈着なイメージとは打って変わり、何かにとり憑かれたような激しい指揮で、巨大な響きが聳え立つ圧倒的なブルックナー演奏となり、終演後、会場は興奮と絶賛の拍手に包まれたのでした。朝比奈とは違うブルックナー。しかしその音は紛れもなく大阪フィルの渾身の響きであり、尾高の確信に満ちた指揮から生まれる、純粋で力強い感動的なブルックナーでした。それは当時、朝比奈ロスで沈んでいた私たちに、再び自信と希望が蘇るエポックメイキングな演奏であったと同時に、尾高への信頼と共感が揺るぎないものになった瞬間でした。

(C)飯島隆

そしてもう一つ、忘れることの出来ない演奏がエルガーです。ブルックナーとは逆に、大阪フィルが一度も演奏したことの無かったエルガーの交響曲(未完の第3番はペインによる補筆完成版)を尾高が3作とも定期で取り上げてくれました。演奏する前は、経験のないエルガーのシンフォニーを、どこまで高いレヴェルで演奏できるのか挑戦するような気持ちでしたが、明確な指揮によって引き出されたエルガーの音楽が、オーケストラと呼応し、どの曲も初めてとは思えない完成度と充実した演奏になったのです。後に尾高がその成功について「大阪フィルには朝比奈先生と共にブルックナーで育んだ強靭な響きがあり、それがエルガーを演奏する上で大きな力になった」と語っていましたが、まさかブルックナーがエルガーの演奏にこのような形で結びつくとは思いもよりませんでした。

このように長い年月をかけ、尾高と積み重ねてきた信頼関係が今回の音楽監督就任に結びついたことは私たちにとって大きな喜びであり、なにか運命的なものを感じずにはいられません。
そして就任一年目の今年、尾高と掲げたテーマが「原点回帰」です。大阪フィルの原点といえるブルックナーの交響曲から、最も得意とする第8番を4月定期の就任披露で取り上げ、翌5月からはオーケストラの原点ともいえるベートーヴェンの交響曲全曲演奏をスタートさせました。しかしこれは単に原点に戻るということではなく、大阪フィルの個性を更に磨き発展させるために一度自らの原点を確認し、そこへ尾高と大阪フィルの新たな語法を積み重ねていくことが、次の進化に繋がると考えたからです。

どうかこれからの大阪フィルにご期待ください。
尾高忠明新音楽監督と共に、朝比奈隆と築いた原点を大切にしながら、より力強く、より深い感動を皆さまにお届けできるオーケストラを目指して、大阪フィルは進化しつづけてまいります。

福山 修(大阪フィルハーモニー交響楽団演奏事業部長)

(2018/10/15)

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公演情報
★ベートーヴェン交響曲全曲演奏会 Ⅳ・Ⅴ
2018年11月15日(木) 19:00開演
フェスティバルホール
指揮:尾高忠明
ベートーヴェン/交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
ベートーヴェン/交響曲 第7番 イ長調 作品92
A席6,000円 B席4,500円 C席3,000円 BOX席7,000円
詳細:http://www.osaka-phil.com/schedule/detail.php?d=20181115

2018年12月29日(土)・30日(日) 17:00開演
フェスティバルホール
指揮:尾高忠明
独唱:安藤赴美子(S)加納悦子(A)福井 敬(T)与那城 敬(B)
合唱:大阪フィルハーモニー合唱団(合唱指導:福島章恭)
ベートーヴェン/交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱付」
A席6,000円 B席4,500円 C席3,000円 BOX席7,000円
詳細:http://www.osaka-phil.com/schedule/detail.php?d=20181229

★第524回定期演奏会
2019年1月17日(木)・18日(金) 19:00開演
フェスティバルホール
指揮:尾高忠明
独奏:神尾真由子(Vn)
武満 徹/トゥイル・バイ・トワイライト
ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
エルガー/交響曲 第1番 変イ長調 作品55
A席6,000円 B席5,000円 C席4,000円 BOX席7,000円
学生席(3階)1,000円
詳細:http://www.osaka-phil.com/schedule/detail.php?d=20190117

★第51回東京定期演奏会
2019年1月22日(火) 19:00開演
サントリーホール
指揮:尾高忠明
独奏:神尾真由子(Vn)
武満 徹/トゥイル・バイ・トワイライト
ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
エルガー/交響曲 第1番 変イ長調 作品55
S席6,000円 A席5,000円 B席4,000円 C席3,000円
詳細:http://www.osaka-phil.com/schedule/detail.php?d=20190122

お問合せ:大阪フィル・チケットセンター 06−6656−7711