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五線紙のパンセ|《光よ、灯火の息吹よ》《ゲンブリ奇想曲》《リラ》|浦部雪

《光よ、灯火の息吹よ》《ゲンブリ奇想曲》《リラ》

Text by 浦部 雪(Yuki Urabe): Guest

先月の記事で今月は2作品をご紹介するというように書きましたが、掲載を考えていた2作品に関連したものを含めた計3作品について書こうと思います。

3)
光よ、灯火の息吹よ (2025)
Venne la luce, un soffio della luce
編成: イングリッシュ・ホルン、ヴィオラ
初演: ルツェルン・フェスティバル・アカデミー in JAPAN 2025
2025年11月29日 ハクジュホール
佐竹真登(Ehr.)、迫田圭(Va.)の各氏による

https://youtu.be/R_HkPJJQIbU
演奏は上述のもの

KAJIMOTOと文化庁による若手音楽家育成プロジェクトの一環として行われた演奏会に向けて書かれた作品。
同年8月にスイスのルツェルン・フェスティバルへと石川健人さん、中瀬絢音さん、田中弘基さん(以上作曲)、齋藤友香理さん(指揮)、そしてメンターとしてご同行された桑原ゆうさん、小室敬幸さんらと共に行き、フェスティバルの作曲アカデミーを見学する貴重な機会をいただきました。
ルツェルン・フェスティバルには個人的に以前も何度か行ったことがありましたが、講習会の中へのアクセスはそれまで叶いませんでしたので大変ありがたく、そこでそれぞれが大胆に内面をさらけ出すプレゼンテーションをしそれに対し真摯に言葉を交わし合う世界中から集まった受講生の侃侃諤諤の様には大きな刺激を受けました。それと共に期間中に行われたLucerne Festival Contemporary Orchestraとジョナサン・ノットさんによるコンサートのためのリハーサルも見学させていただいたのですが、ノットさんのまるで魔法のような指揮によってブーレーズの『Répons』を奏するオーケストラが文字通り踊っていたことを鮮明に記憶しています。そういう風にブーレーズを聞けるとは全く想像していませんでしたので、本当に強烈な衝撃でした。
この11/29のハクジュホールでのコンサートは、ルツェルン・アカデミーの作曲セミナーに受講生として参加していた作曲家の中から4名を我々が現地で選び、そこに日本から派遣された我々4名の聴講生とメンターである桑原ゆうさんと藤倉大さん(ルツェルン・フェスティバル委嘱作曲家、メンターとしてイギリスから参加)の作品の計10作品を並べて演奏するというものでした。
8月にルツェルンへ行っていた時、1日だけ空いていたフリーの時間を使い、日帰りで以前の留学先であるミラノへとFlixbusで行きました。その目的こそがサンタンブロージョ教会を訪ねることで、ルツェルンへと日本から発つ前からこの作品を書こうということが頭の中にあり、そのためになんとしてでもヨーロッパ滞在中にミラノへ行くことを決めていたのです。
聖アンブロージョとは4世紀に活躍しミラノ司教を務めた聖人で、つまりは6世紀に活躍した聖グレゴリオよりも先の時代を生きた聖人でした。留学中ももちろん教会を訪れたことはありましたが、改めて見る教会の空気と美しさと響き、そして最奥に眠る聖アンブロージョの遺骨は、過去から未来へ長い時間続いていくそこで生きる人々の力強い営みを感じさせるのには、短く局所的な滞在ではありましたがあまりにも十分なものでした。その聖アンブロージョの作曲したと言われている‟Deus Creator Omnium”が宙に霧散していきまた最後に形を取り戻していくというこの作品の構造はその教会の中で見つかった種から育ったもので、その後書き上げるまでは多くの時間はかからなかったように記憶しています。

https://www.youtube.com/watch?v=3Lz4iklIQGo&list=RD3Lz4iklIQGo&start_radio=1

ハクジュホールでの本番では、佐竹さん迫田さんのお二人には本当に感動的な演奏をしていただきました。教会で歌われる聖歌をイメージした作品でしたから、ハクジュホールの豊かな響きも大きな助けとなり、空気をたくさん含んだ温かい演奏に思わず胸が熱くなる思いでした。作品の途中で長く続くホワイトノイズを多く含む場面、そしてその後に聖歌が段々と霧が晴れるように聞こえてくる音の景色は、霧の出た夜に乱反射した月からの光を見て不意に感じた長大な時間の経過と人の作った歴史に思いを重ねて見えてきたものでした。

Venne la luce, un soffio della luce p2

Venne la luce, un soffio della luce p4

Venne la luce, un soffio della luce p12

4)
ゲンブリ奇想曲 (2024)
Capriccio guembrese
編成:チェロ
委嘱:北嶋愛季
初演:バロックチェロ×モダンチェロ 2台のチェロによる独奏演奏会
2024年6月30日 J:COM浦安音楽ホール
同氏による

https://youtu.be/EGLSGNXY0Fo?si=9TQy9Bkliah20sW9
北嶋愛季 チェロ独奏演奏会 Vol.2 2024年7月6日愛知県江南市永正寺蔵ホール

5)
リラ – 大アンサンブルのための (2025)
Lila for large ensemble
編成:フルート(アルトフルート)、オーボエ(イングリッシュホルン)、B♭クラリネット(バスクラリネット)、ファゴット、3カルカバ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
初演: 浦部雪作曲個展
2025年12月19日 トーキョーコンサーツ・ラボ
内山貴博(Fl.)、大木雅人(Ob.)、西村薫(Cl.)、坪谷陸(Bn.)、安藤巴、岡田満里子、沓名大地(Perc.)、田中里奈(Vn.)、永田薫(Va.)、北嶋愛季(Vc.)、山本昌史(Cb.)の各氏による

https://youtu.be/PzwjHi4UN-o
演奏は上述のもの

この二つの作品は「連作」というほどに密接な繋がりがあるわけではないのですが、モロッコのグナワという人々の持つ文化からモチーフをもらっているため、同じ枠組みに属する作品と言えます。そのために2作品をまとめてここに書き記したいと思います。

始まりは長く仲良くしている北嶋愛季さんからの委嘱によります。チェロソロのための短めの作品で、チェロでやってみたいと思っていることをやってほしいというリクエストを受けました。そのようなリクエストを受けたものの、なかなかチェロでやってみたいことというものがすぐに思い付かずしばらく考え込んでしまったのですが、調べ物の末に辿り着いた「グナワ」からこの作品が生まれることになります。近年は《Rainbow Serpent》をはじめとして、異国やその文化への自分なりのアクセスを試みる作曲をすることが多く、この作品群もまさにその範疇のアプローチで書かれたものです。
「グナワ」は主にモロッコに暮らす、西アフリカにルーツを持つ歴史的・宗教的・文化的共同体を指す言葉です。彼らの文化には、スーフィズムの影響を受けたイスラムと、西アフリカ由来の先祖崇拝や精霊信仰が融合した独特な宗教体系が見られ、とりわけ興味深いのはそれによる彼らの音楽文化です。より正確に言えば、それは単なる音楽ではなく、宗教儀礼や治療の実践を含む総合的なもので、その中心にあるのが「Lila(リラ、アラビア語で「夜」の意)」と呼ばれる夜通し行われる儀式に伴う音楽です。この2作品は、まさにそのLilaの音楽や儀礼的要素から着想を得たものになっています。

https://www.youtube.com/watch?v=PG1pJcaUYH0

Capriccio guembrese p3

Capriccio guembrese p6

チェロソロのための《ゲンブリ奇想曲》は、Lilaでも使われるゲンブリという楽器、それをもって奏でられる音楽をチェロで模した作品です。

https://www.youtube.com/watch?v=28W3XKqIKp8

チューニングを通常の5度調弦ではなく、下からC-G-C-Gにした、ただそれだけのことで全くチェロのような音に聞こえなくなったというのが実際の演奏を聞いた上で最初に感じた印象で、これは予想よりも遥かに際立ったこの作品特有の性質となりました。そのチューニングで、さらに音選びもペンタトニックしか使わないというだけで、全く西洋音楽の枠組みを飛び出した楽器にすら見えるというのは非常に興味深いことです。且つそれでも、例えば三味線のような調弦などのコンディションが同じ他の国由来のものには全く聞こえないというのは、音階や調弦だけでは到底規定され得ない、その文化の固有性たらしめるものの存在の妙を感じさせました。

Lila p1

Lila p36

Lila p122

ゲンブリやカルカバという鉄製のカスタネットを用いて行われる儀式「Lila」は、音楽、歌、舞踊、香などを通して精霊との接触による心身の癒しを目的とすると言います。その儀式の中で長時間音楽と共に踊り続ける人は「トランス」へと導かれますが、その状態こそにこの大アンサンブルのための《Lila》は焦点が当てられています。カルカバが休みなく執拗に一定のリズムを奏で続ける中、同型反復をしながら少しずつ形を変えていく音の洪水の中に身を置くと時間感覚が曖昧になり、まさに異様な精神の体験をしたように感じます。「個展」での本番の演奏家の皆さんから発せられる茹だるような熱気は今思い返しても鳥肌が立つほど、言ってしまえば恐怖すら思わせるものでした。その極限のトランス状態の獲得のためにはどうしてもカルカバが、それも複数必要だったのは疑いのないことでした。
結果として、様々なご縁の末にグナワと強い接点を持つ稲垣力さんと映画監督の栗村実さんとの出会いがあり、カルカバを貸していただくことで演奏の実現に漕ぎ着けることができました。そしてお二人とはそれだけではないこの先の様々な展開への希望も感じることができています。まだはっきりとしたことは書けませんが、こうして音楽を通して新たな縁が続いて広がっていくことに感謝を思うばかりで、このような展開が起こるとは《Capriccio guembrese》を書き始める時には夢にも思っていませんでした。
音楽によって新たな縁が生まれ、そこからまた新しい世界を知る。そして、その経験がさらに次の縁へとつながっていく。その連鎖の中に自分がいることで、自身が音楽によって生かされているということを強く実感します。今回のメルキュール・デザールとのご縁も、まさにその一つです。このような機会を与えてくださり、今回3本の記事を書かせていただくきっかけを作ってくださった齋藤俊夫さんに心より感謝を申し上げ、これをもって筆を置きたいと思います。

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浦部 雪
1991年千葉生まれ。東京芸術大学作曲科卒業後ミラノ国立音楽院作曲科、ミラノ市立音楽院指揮科、ミュンヘン音楽大学作曲科にて学ぶ。作曲を安良岡章夫、野平一郎、ガブリエレ・マンカ、イザベル・ムンドリー、指揮を杉山洋一の各氏に師事。
指揮者としては日本をはじめ、イタリア、ベルギー他様々な場所で新作初演等に携わる。2021年サントリーホール・サマーフェスティバルにおいてマティアス・ピンチャー氏のアシスタントを務める。サントリーホール・チェンバーミュージック・ガーデンや紅葉坂プロジェクト等に出演。
作曲家としては芸大フィルハーモニー、Ex Novo Ensemble、低音デュオなどにより作品が演奏される。2025年12月に自身の作品個展を開催。東京芸術大学在学中に長谷川良夫賞を受賞。
公式ウェブサイト
https://sites.google.com/view/yuki-urabe/