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アップデイトダンス No. 119 「ロミオとジュリエット」|瀬戸井厚子

アップデイトダンス No. 119 「ロミオとジュリエット」
update dance #119 Romeo and Juliet

 

カラス・アパラタス B2ホール 2026年5月4日(公演は4月25日〜5月5日)
2026/5/4 KARAS APPARATUS /B2Hall
Text by 瀬戸井厚子(Atsuko Setoy)
Photos by Akihito Abe, Shunki Ogawa/写真提供:KARAS

 

演出・照明:勅使川原三郎
アーティスティックコラボレーター:佐東利穂子
出演:勅使川原三郎 佐東利穂子

 

1年がかりで6作品を上演するという~シェイクスピア全集~シリーズの第1作で、新作初演。公演案内には、「怪物物語」を「ダンスにする夢」。シェイクスピアの戯曲を怪物物語と捉える。何が怪物なんだろう、運命とか、それを支配する者とかのことか、などと考えながら地下の小さなホールへ。

客電が落ちて、でも舞台も明るくはならない。暗い舞台の上に、横たわる人間の姿が、見えてくる。動きだす。出演者は二人だけなのだから、ストーリー展開を追うのではないことは当然で、劇の最終場面から始まるのかな、と思ったが、そうでもないようだ。動きだした二人の人物は、物理的には同一空間内の、しかも触れ合ってしまう範囲内に近々と存在し動いているように見えはするが、一人ひとりそれぞれの別の時空に生息しているらしい。

だからしばらく二人に邂逅はない。各自の空間を身にまとって動いていく彼と彼女には、すれ違う時でも、互いが見えることはない。しばしのこの彷徨の間、音楽が「歌っていない」と感じた。ソロ・ピアノの音が彼女の、弦楽合奏の音が彼の、それぞれ基調音のように感じられたが、両方とも、なぜか歌っていない。彼も彼女も、相手を探し求めていて、ようやく出会う……けれど、それが求めている相手だと認識できない。彼は彼女の髪を摑んで突き放すという乱暴まではたらく。この戯曲を「皮肉と矛盾の物語」と捉える勅使川原氏ならではの表現なのだろう。

そんな出会いの過誤、認識の齟齬を経て、闇ばかりを共有してきた二人は、ついに互いに求め合う者としての到達点に辿り着く。すると音楽が俄然、歌いだすのだ。同じ光を浴び、共に時空を分かち合い、愛がそれを要求するなら死も進んで選び取る二人。死は終焉ではない。愛が死を貫いて超え出た向こう、再びの愛が光輝満ちて蘇る。清澄そのもののソプラノが歌う《Morgen!》(リヒャルト・シュトラウス)は美しさ極まり、二人の姿を見つめ続けてきた観客の胸は共振する。

この上演で賛嘆したのは繊細精緻な照明の見事さであった。音楽・照明・人の動きが文字通りの渾然一体となり、観客の耳目をひたと捉えて離さずに導いていく。操作は電子制御なのだろうか。とにかく凄いものを見た、と深く印象に刻まれた。

5月にはルーマニアでクライオヴァ国際シェイクスピア・フェスティバル2026に参加上演するこの作品。KARASの力強い発信ぶりが頼もしい。次のアップデイトダンスは7月の『ハムレット』。11年ぶりの改作上演とのこと。「ぼくがやるのは解釈や理解ではなく、物語を文学から解放し想像すること。こっちの方から遠くのあっちに何かを投げ返すことだ。書かれたことと書かれていないことの間を探り、謎を見つけて形を与える。それがぼくがやれることだ。」(勅使川原三郎「時々日記」2026.04.20より)。投げ返される何かを、受け取りたい。

 

使用楽曲:リヒャルト・シュトラウス《モルゲン》
ショスタコーヴィッチ《ピアノ協奏曲2番》
クセナキス《オリエント オキシデント》
バッハ 《ピアノ協奏曲5番 ラルゴ》
リスト《愛の夢》 ほか

 

photo by Akihito Abe

photo by Akihito Abe

photo by Akihito Abe

photo by Shunki Ogawa

(2026/6/15)

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瀬戸井厚子(Atsuko Setoy)
フリーランスの編集者として人文社会系の図書編集に携わる。
演劇集団・合唱団に所属して舞台活動も続けている。