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Pick Up (2024/9/15)|プロムジカ使節団 ALL BACH Vol.1 CANTATAS|大河内文恵

プロムジカ使節団 ALL BACH Vol.1 CANTATAS
Promusica Baroque Academy BACH Vol.1 CANTATAS

2024年8月1日 としま区民センター 多目的ホール
2024/8/1 Toshima Civic Center Multipurpose Hall
Text by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
Photos by 村尾碧/写真提供:あきんどクリエイション合同会社

<出演>        →foreign language
圓谷俊貴(指揮)

ソプラノ  隠岐彩夏 小林恵 吉田美咲子
アルト   中嶋俊晴 村松稔之 高橋幸恵
テノール  荏原孝弥 金沢青児 小堀勇介
バス    加耒徹 黒田祐貴 山本悠尋

リコーダー   宇治川朝政 井上玲
ヴァイオリン  池田梨枝子 秋葉美佳
ヴィオラ    深沢美奈 中島由布良
チェロ/ヴィオローネ  山本徹
ヴィオラ・ダ・ガンバ  福澤宏 深沢美奈
ドゥルツィアン 長谷川太郎
オルガン    新妻由加

舞台監督 深畑一徳
調律   牧田啓介

プレトーク:
中川郁太郎 佐野旭司 圓谷俊貴

<曲目>
ヨハン・セバスティアン・バッハ:カンタータ第106番《神の時こそ、いと良き時》BWV 106
  ソプラノ:隠岐彩夏 アルト:高橋幸恵 テノール:荏原孝弥 バス:山本悠尋(2c)  加耒徹(3b)
平川加恵:マルティン・ルターによるコラール“復活の生贄”による協奏的組曲
  ソプラノ:隠岐彩夏 バス:加耒徹

~~休憩~~

J.S. バッハ:カンタータ第161番《来たれ、汝甘き死の時よ》BWV 161
  アルト:中嶋俊晴 テノール:小堀勇介
カンタータ第4番《キリストは死の縄目にとらわれ》BWV 4
  ソプラノ:吉田美咲子(4) 小林恵(7) アルト:村松稔之 テノール:金沢青児 バス:黒田祐貴

 

演奏会が終わって、「さあ、これから健康に気をつけて長生きしなければ!」と思ったのは初めてである。プロムジカ使節団はコロナ禍真っ只中の2021年に旗揚げ公演をおこない、年々の活動の幅を広げてきている演奏団体である。これまでは比較的少人数の公演中心で、大規模な作品は他の団体への出演協力という形が多かったが、このほど大きなプロジェクトを開始した。

ALL Bach Cantataというシリーズは、これから20年かけて「J.S.バッハのカンタータ作品の全曲演奏をすること、世界に認められるバッハ演奏団体となること」という目標を掲げており、本日が第一歩となる。

この団体の特徴は、主宰・芸術監督の圓谷が元々声楽家で、現在は鍵盤楽器奏者および指揮者として活動しているところにある。古楽団体の代表者には、広い見識が求められるが、声楽と器楽の両方に通じていることは大きな強みである。

演奏会の前には30分のプレトークが設けられており、当時の死生観やルターの思想、象徴などの観点からプログラムのテーマが掘り下げられ、ピッチの選択や楽器編成についてその理由を交えながら説明された。30分で説明するには詰めこみ過ぎた感もあるが、この公演にかける思いや準備の周到さが伝わってきて、客席の期待値が上がる。

各曲について詳しくは取り上げないが、それぞれのソリストの起用が悉く適切であったこと、随所でリコーダーの巧さが光り、元の楽譜に指定があったのではないかと思うほどドゥルツィアンの響きがぴったりであったこと、そして通奏低音群の見事な職人技など、思わず涙ぐんだり、ほほうと感心したりと聴き手の情緒が忙しかった。バッハのカンタータという一見地味なプログラムがこれだけ面白く聞けるとは想像していなかった。

さらにこの団体の大きな特徴を挙げるとすれば、1つは、主にモダンの作品を歌っている声楽家が含まれていることである。バロック以前の作品の演奏会では、多くは古楽を専門にしている歌手で、両方を歌える歌手も一部にみられるものの、モダンのレパートリーを専門とする歌手が入ることは珍しい。バロックのレパートリーは古楽の歌手でという先入観を取り払うこと、古楽の世界をそれが専門でない演奏家の中にも広げることを視野に入れているのではないかと思われる。

もう1つは、新曲をプログラムに入れることである。平川氏の「マルティン・ルターによるコラール“復活の生贄”による協奏的組曲」は、本日の最後に演奏されたカンタータ第4番で用いられるコラールの基となった聖歌の旋律を用いて作曲されている。いわゆる現代曲ではなく、圓谷の注文によりバロック様式で書かれたという。とはいえ、随所にロマン派的な響きがしており、ロマン派の作曲家がバロック様式で書いたという体で現代の作曲家が書いたという二重構造のように筆者には聴こえた。

メンデルスゾーンやシューマンを思わせる抒情みあふれる旋律や、通奏低音楽器の扱いなどからロマン派的要素が感じられ、それがあることでモダンのアンサンブルでも演奏できる汎用性が生まれている。一方、声楽の部分はバロック音楽そのものであるし、拍子の変わり目の独特な揺らぎはバロックやルネサンスの音楽を思わせる。バッハのカンタータの間で演奏するために作曲された作品ではあるが、おそらく他の文脈でも充分成立すると思われる。終曲の疾走感で客席が沸いたことがそれを証明している。

パンフレットに記載された、長谷川及び山本による論考を見るにつけ、学術性と演奏の確かさを両立させるメンバーが揃っていることがこの団体の強みであろう。パンフレット冒頭のメッセージで圓谷はこのプロジェクトを航海に喩えているが、日本の古楽界の黒船になりそうな勢いである。

(2024/9/15)

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<performers>
Soprano: Ayaka OKI Megumi KOBAYASHI Misako YOSHIDA
Alto: Yoshiharu NAKAJIMA Toshiyuki MURAMATSU Sachie TAKAHASHI
Tenor: Takaya EHARA Seiji KANAZAWA Yusuke KOBORI
Basso: Toru KAKU Yuki KURODA Yukihiro TAMAMOTO

Flauto dolce: Tomokazu UJIGAWA Rei INOUE
Violin: Rieko IKEDA Mika AKIBA
Viola: Mina FUKAZAWA Yura NAKAJIMA
Violoncello/ Violone: Toru YAMAMOTO
Viola da gamba: Hiroshi FUKUZAWA Mina FUKAZAWA
Dulcian: Taro HASEGAWA
Organo: Yuka NIITSUMA
Conductor: Toshiki TSUMURAYA

<program>
Johann Sebastian BACH: Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit BWV 106
Kae HIRAKAWA: Suite Concertante on Choral by Martin Luther “Victimae laudes”

–intermission—

J.S. BACH: Komm, du Süße Todesstunde BWV 161
   Christ lag in Todes Banden BWV 4