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Pick Up (20/2/15)|勅使川原三郎、愛知県芸術劇場芸術監督就任で|丘山万里子

勅使川原三郎、愛知県芸術劇場芸術監督就任で
Saburo Teshigawara as “Aichi Prefectural Art Theater Artistic Director”

Text & Photos by 丘山万里子(Mariko Okayama)

勅使川原三郎が愛知県芸術劇場芸術監督に就任、記者会見を東京でも開く、との知らせを受け、出かけてみた。
1999年彼の初演出オペラ『トゥーランドット』をオーチャードで観て、説明過剰だが眼には鮮烈、の印象。「音に余計な振り付けはいらない・・・でもセット、照明は従来にないセンスに溢れていたからいろいろそぎ落とせば音楽も生き生きするだろう」と評に書いた。
それから20年、彼は藤倉大『ソラリス』台本も手がけ(筆者は見損なった)、この度は芸術監督としてその才を振るうという。
オペラ&ダンスや音楽&ダンスはもはや珍しくもなく、これに映像が加わって百花繚乱の今日、多分野収容の総合文化センター芸術監督としていかなるメッセージが発せられるか、が筆者の興味。
メモしたことだけ挙げておく。

  1. 芸術監督を引き受けたのは、アーティストでない立場で教育、企画に携わってみたいと思ったから。
  2. 劇場の主役はスタッフ、そのスタッフがこの劇場は素晴らしい。仲が良く、チームワークがとれ、熱い。実行力、行動力に富み、人間関係の風通しがいい。
  3. 各分野のプロデューサーがそれぞれに明確な意図とともに配置され、総合的な文化センター(音楽・演劇・美術・ダンスなど)として機能するスケールの魅力。
  4. 地元の人々を巻き込んで劇場を使いこなして行きたい。
    劇場に来てもらい、そこで何かを感じ、それをそれぞれの場所(生活)に持ち帰ってもらえるようなサイクルを作りたい。
    愛知のたくさんのバレエ団との共同プロジェクト構想もその一つ。
  5. 今回、愛知と東京での会見は非常に嬉しい。国内外の様々な場を結ぶ形でやって行けたら。
  6. 西洋文化のコピーでなく、今生きている我々の文化・芸術を作り上げたい。

質疑応答では、やはり国際的アーティストとして世界との共同制作への期待と要望の声が多く聞かれたが、そこで彼が強調したのは「継続性」だった。芸術監督に国際的スターを据え、その時だけ輝いても仕方ない(などという発言は無論なく、筆者の私見)、「何かある目的があるのでなく、具体的なことを継続してゆく、そのこと自体が目的」という言葉がそれを象徴する。

筆者は「あいちトリエンナーレ2019」に行き、その展示の多様性と強いメッセージ性に「現代音楽は何やってんだ!」と思い、そうしたら現代箏楽の重鎮が似たようなことを筆者に吐露なさり(美術に比べ音楽の子たちは基礎が不可欠なせいか破天荒になれない)、想いは同じか、と思い、愛知芸劇のような文化複合施設の場でこそ他・多領域の遭遇と触発をじゃんじゃんやってほしいものだ、と思い、など想い思いして芸術監督の話を聞いていたわけだが、そのあたり「具体的に何かお考えですか」とは、時間もなく周囲の空気もありして、聞けなかった。
トリエンナーレ時、筆者は美術と音楽部門の方とそれぞれ話したが、互いの問題意識共有などは感じられず、それもまた非常に残念、あるいは不思議に思ったし、この会見でも「表現」についての突っ込んだ話はなく、そんなことに触れる場ではないのであろうな、と黙した。
だがまあ、話より実際、だ。

ただ「西洋のコピーでなく、今生きている我々の文化・芸術を作り上げたい」「継続こそ力」に彼の強いメッセージを受け取り、アーティストとしての「哲学」(戦略でなく)が既存のシステムと蛸壺体質を横断縦走活性化することを願う。

3月、筆者の注目公演(就任記念プレ事業)が愛知と東京で開かれる。
ダンス・コンサート『三つ折りの夜』。
ダンスに勅使川原三郎と佐東利穂子。音楽に庄司紗矢香vn。マラルメの詩『三つ折りのソネ(ソネット) 』から想を得た「日没の夜」「深夜」「有明の月」の三夜変奏曲だそうだ。
「芸術家に限らず真に現実を見る者は、世界の終わり無き混迷を決して簡素に扱わない。詩情とは困難ゆえの美ではないか、私は短略化した意味の回答に向かわない勇気を日々大いなる喜びと共に生きる」とは勅使川原の言葉。
短略化した意味の回答に向かわない勇気、これは観客にも求められることだ。
ぜひ目撃されたい。

最後に、筆者に最も印象的だった彼の言葉を一つ。
「表現とは必ず批評である。」
こういう哲学を「語り得る」人材が、今日、音楽領域に居るだろうか。

<記者会見>
2020年1月30日@KARAS
出席者
勅使川原三郎
公益財団法人愛知県文化振興事業団理事長 菅沼綾子
愛知県芸術劇場館長 丹羽康雄

◆公演情報『三つ折りの夜』
2020年3月 6,7,8 日@東京芸術劇場
https://www.geigeki.jp/performance/theater229/
2020年3月12日@愛知県芸術劇場 コンサートホール
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/detail/000186.html#000186

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(2020/2/15)