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ウィーン便り|暖冬?|佐野旭司

暖冬?

text & photos by 佐野旭司 ( Akitsugu Sano)

東京では1月末~2月初めに2回ほど記録的な大雪になったとか。日本にいる友達がTwitterやInstagramなどに写真を載せているのを見て、どんなに大変なことになっているかがよく伝わってきた。
自分の記憶が正しければ、2010年(私が博士課程2年の時の冬)から2014年(助手1年目の冬)まで、東京では5年間連続で1~3月の間に1回は大雪になっていた。ところがその後2年ほど大して雪は降っていないため、去年の冬に大雪になっていなければ4年ぶりということになる。4年前にも2月に2週連続で大雪になったのを今でも覚えている。仕事に向かう途中、雪用の靴が壊れてしまい、しかも仕事場の近所には靴屋もなく困ったことは忘れられない。ただ自分は根が子供なので、雪が積もるといまだに楽しい気分になる。そういう大変な目に遭っても…

雪といえば、ウィーンの冬は東京よりもずっと長い。大雪になる頻度も高いので除雪も行き届いているし、東京とは違ってそう簡単には交通網が混乱したりすることもない。この冬も大雪になるのを覚悟して、いつでも雪用の靴を履いて出かけられるように準備は整っている。
ところが、こちらではこの冬になってから大雪といえるほど雪が積もったことがまだない。目立って雪が降った日といえば、去年の11月30日が初めてだった。朝起きて部屋の窓を開けてみたら建物の中庭にうっすらと雪が積もっていて、とうとう本格的な冬の到来か、さすがはウィーン、などと思っていたらその日はそれから雪が積もり続けることもなく、夕方に外出する頃にはほとんど止んでしまっていた。普通の靴でも問題なく歩けるほどしか雪がなく、この日は結局スノーシューズの出番もなかった。
そして1月半ば(14日)になると再び雪が積もった。この日は新王宮にある国立図書館に行ったら王宮庭園Burggartenで雪景色が見られた。写真はこの庭園のモーツァルト像のところだが、このト音記号の部分は春から夏の間には花が植えられている。この日はそこだけ雪が積もることなく、ト音記号がくっきり浮かび上がった。でももっと本格的な大雪だったらこの部分も雪で埋もれてしまったかもしれない。この日も朝から雪が降っていたので、今度こそはと思ってスノーシューズを履いて家を出たものの、結局そのくらいしか雪が積もらず、しかも図書館を出ることには道の雪もほとんど溶けてしまっていた。雪がほとんど積もっていない時にスノーシューズを履いて歩くのは結構大変で、足の裏にまめができるわ足首に靴擦れができそうになるわで、歩くのもひと苦労だった。

1月のこうした気候は去年の同じ時期とは対照的だ。去年の1月は毎日のように気温も氷点下になるくらいの極寒で、月末の頃にはドナウ川が凍っていた。しかも休日には川の上でスケートをしている人が大勢いて、この光景を見た時はさすがに自分の目を疑った。ところが1月が終わると暖かくなり、2月中頃には氷もだいぶ溶けてしまった。ちなみにこのドナウ川の話も去年の2月に本誌に書こうと思ったが、2月号がアップされる頃にはすっかり寒さも和らいでしまい、話題がタイムリーでなくなるところだった。去年は3月後半に国際音楽学会の仕事のために一時帰国をしたけれど、その時はウィーンよりも東京の方が寒く感じられるくらいだった。そして3月の終わりにウィーンに戻ってくると桜が開花していた。特にSigmund Freud Parkでは満開になっていて、このまま冬も終わると思っていた。ところがその後本格的な春が来るかと思えば、再び寒い日が続くことに… 4月にはみぞれが、そして5月の初めには雪も降るという異常な気候だった。

今年の冬も、去年の様子からすると今後どうなるか予測がつかない。本誌の原稿は毎月5日が〆切で、これを書いている時点では、暖冬とは言えないけれど例年の東京と大して変わらないように感じられる。でももしかしたら新号がアップされる13日頃には打って変わって大寒波が来ているかもしれない。いかんせん去年の冬も今年の冬もこのような状態なので、果たして今書いているこの内容がタイムリーなものになるかどうかは全く見当がつかない。いやそれどころか、ブログやSNSみたいに書いた文章がその場でアップされたとしても、数日後には状況が変わってしまっていることだってあり得る。けれども最近こうした冬の気候の様子が気になるので、今回あえて話題にしてみた。

(2018/2/15)

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佐野旭司 (Akitsugu  Sano)
東京都出身。青山学院大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程および博士後期課程修了。博士(音楽学)。マーラー、シェーンベルクを中心に世紀転換期ウィーンの音楽の研究を行う。
東京藝術大学音楽学部教育研究助手、同非常勤講師を務め、現在オーストリア政府奨学生としてウィーンに留学中。