2025年 第11回年間企画賞
Mercure des Artsは執筆陣による選考の結果、2025年(2024年11月1日〜2025年10月31日までの公演)の年間企画賞1〜3位を選出し、ここに発表します。
日頃ステージの企画・上演に携わる関係者各位に改めて敬意を表します。
ピエール・ブーレーズ、ルチアーノ・ベリオ、細川俊夫といった作曲家が生誕の記念年を迎えた2025年。11回目となった今回の年間企画賞ではそうしたアニバーサリー企画にも注目が集まりましたが、最終的には執筆陣それぞれの専門性や日頃の問題意識が、色濃く反映された結果となりました。
2022年の第8回年間企画賞では3位だった濱田芳通&アントネッロが2位にランクインするなど、古楽勢が例年より多く選出されています。また、惜しくも3位までに選出されませんでしたが、TOPPANホールにて開催された、パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)&カメラータ・ベルンの演奏会にも票が集まりましたことを付言します。
【1位】
西村朗 トリビュート・コンサート
2025年9月24日 東京オペラシティ リサイタルホール
【2位】
開館70周年記念 音楽堂室内オペラ・プロジェクト第7弾
濱田芳通&アントネッロ モンテヴェルディ 歌劇オルフェオ
2025年2月23日 神奈川県立音楽堂
【3位】
キリシタンの見たローマ:修道士たちの残した16~17世紀イタリア音楽
2025年5月17日 日本ホーリネス教団東京中央教会
◆選定にあたって
【1位】
企画賞とは奏でられた音楽が優れているというだけでなく、企画の妙に対して贈られるものである。この点、評価されたのは西村朗という不世出の作曲家の音楽だけではない。監修の沼野雄司があえて自身の解釈を率直に明らかにした上で解説を交え選曲するキュレーションはひとつの見通しの良さに繋がる批評的営為であったと言えるだろうし、また池辺晋一郎のコメントも、作曲家の肖像に別の角度から光を当てるものとなった。そしてまた、作曲家に共鳴する若い演奏家たちの熱意を鑑みるに、西村朗は今後一層その名を世界にとどろかすはずだ。そのような説得力を持った演奏会であった。
★参考レビュー
西村朗 トリビュート・コンサート|丘山万里子
西村 朗 トリビュート・コンサート|秋元陽平
【2位】
バロック・オペラのなかでも比較的上演頻度の高い作品であるモンテヴェルディ《オルフェオ》は、通常なら、企画賞の対象外であろう。それでも敢えて複数の推薦があがったのは、“みんなが知ってるオルフェオ”からどれだけ遠くまで飛躍することができるのかということをまざまざと見せつけたからと考えられる。新作ではない過去のオペラを上演するということは、その作品の単なる再現ではない。台本や音楽に込められた作家や作曲者の意図を注意深く読み取り、それを具現化させていくことであることは論を俟たないが、極端にいえば、「オペラを上演するってどういうこと?」といった根本から問い直すこと、その作品を当時の背景から掘り起こすだけでなく、いま現在の文脈にどう重ね合わせ、人々の心に投げかけていくか。そうしたことが徹底的におこなわれた公演であった。それは、いつものメンバーだけでなく、この公演のためのオーディションをおこない、初めてアントネッロで歌う歌手にもレギュラーメンバーと変わらないレベルを実現させたことにも表れていた。
★参考レビュー
濱田芳通&アントネッロ モンテヴェルディ 歌劇オルフェオ|大河内文恵
【3位】
2025年は大阪万博がおこなわれたこともあり、天正遣欧少年使節団に注目が集まり、彼らが訪れた先で聴いたり演奏したりした音楽や、その当時訪問先で演奏されていたとされる音楽などに焦点を当てた企画などが目についた。いわゆる南蛮音楽とされるもので、普段この時代の音楽に触れることが少ない人々からは新鮮に受け止められたようである。そのなかで、この演奏会は、ペトロ岐部という実在の殉教者のヨーロッパへの旅と人生を巡りつつ進められ、天正遣欧使節と重なる部分もあるものの、時期もルートも異なるためにひと味違ったものになっていた。意図的に編成を変えたり、違う編曲を使ったりすることで、新たな切り口があらわれるのはその演奏効果の大きさは別として想像の範囲内だが、ペトロ岐部の生涯を追うという構成が予想をはるかに超えていた。さらに、「日本人がなぜ西洋音楽をやるのか?」という本質的で深い問いへつながっていることに胸を突かれた。
★参考レビュー
キリシタンの見たローマ:修道士たちの残した16~17世紀イタリア音楽|大河内文恵
●その他推薦された企画
(「アンドリュー・ワイエス展」は美術の企画ですが、推薦されましたので記載いたします。芸術ジャンルをどこまで対象とするかは来年以降扱いを検討します。)
・丸沼芸術の森所蔵 アンドリュー・ワイエス展 ― 追憶のオルソン・ハウス 2024年9月14日~12月8日 アサヒグループ大山崎山荘美術館
・舞い踊る幽玄の精霊たち 2024年11月10日 浄土宗 金戒光明寺
・国のない人々 2025年1月17日 杉並公会堂小ホール
・大石将紀サクソフォンリサイタル「30年の時の深み」細川俊夫生誕70年記念コンサート 2025年1月30日 ゲーテ・インスティトゥート東京ホール
・子どもと大人に贈る語りと音楽「遠くから来たきみの友だち」せたおん春休み特別企画 2025年4月4日 成城ホール
・河村尚子が贈る音楽の旅Vol.2 Nos Dames―我らの女性 2025年4月25日 王子ホール
・東京都交響楽団 第1020回定期演奏会Aシリーズ 2025年4月30日 東京文化会館
・テリー・ライリー バシェ音響彫刻コンサート 2025年6月15日 京都市立芸術大学堀場信吉記念ホール
・山澤慧ソロ・チェロリサイタル マインドツリーvol.11 2025年6月19日 トーキョーコンサーツ・ラボ
・サリクス・カンマーコア第10回定期演奏会 モノフォニー→ポリフォニー vol.1 グレゴリオ聖歌~キリスト教の単旋律聖歌~ 2025年6月23日 日本福音ルーテル東京教会
・見よ東海の空明けて― 敗戦80年に問う戦時期の音 2025年8月2日 旧東京音楽学校奏楽堂
・セイジ・オザワ 松本フェスティバル 2025ブリテン:《夏の夜の夢》 2025年8月17日 まつもと市民芸術会館・主ホール
・On Verra, 5e バスタイユ・カンタータの愉悦 2025年8月30日 今井館聖書講堂
・リッカルド・ムーティ指揮ヴェルディ:《シモン・ボッカネグラ》 2025年9月15日 東京音楽大学 100周年記念ホール(池袋キャンパス A館)
・読響アンサンブル・シリーズ第47回《北村朋幹プロデュース》 2025年10月15日 TOPPAN ホール
(2025/12/15)
