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務川慧悟 連続演奏会 <第三夜>|西村紗知

務川慧悟 連続演奏会 <第三夜>
KEIGO MUKAWA Piano Recital, B Program

2023年12月6日 浜離宮朝日ホール
2023/12/6 Hamarikyu Asahi Hall
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)
Photos by 池上夢貢

<演奏>        →foreign language
務川慧悟(ピアノ)

<プログラム>※第三夜はBプログラム
シューマン:子供のためのアルバム Op.68より第30番『無題』
シューマン:4つの夜曲 Op.23
ドビュッシー:前奏曲集第2集より 3.酒の門 5.ヒース 10.カノープ 12.花火
ショパン:ノクターン第6番 ト短調 Op.15-3
ショパン:バラード第4番 ヘ短調 Op.52
早坂文雄:室内のためのピアノ小品集より第12番、第14番
ラフマニノフ:コレルリの主題による変奏曲 ニ短調 Op.42
*アンコール:
J.S.バッハ:フランス組曲第5番よりアルマンド
ラヴェル:クープランの墓よりメヌエット

 

この度のピアニスト・務川慧悟のリサイタルは、第一夜から第五夜に至るまで、AとB二種類のプログラムが演奏されるいくらか実験的な試みとなっていた。大まかにいってAではJ.S.バッハの伝統に属するもの、Bではロマン派に類するものが含まれ、幅広いレパートリーを堪能できる意欲的なプログラミングであった。

筆者はこのピアニストの演奏を初めて聞いた。全体としてタッチが丸く、中音域がしっかり聞こえるため安定感と重厚感があり、不自然に飾り立てるところもなく、レパートリーに堅実かつ真摯に取り組んでいるという印象を受けた。そのことは特に、シューマンの「子供のためのアルバム」と早坂文雄の「室内のためのピアノ小品集」で強く印象付けられたものだった。あたかも目がきっちり詰まった生地のような音響体が生み出されており、会場全体が安心感に包まれていくのを感じる。音響のコントロールが冴えて踏み外すところがないため、贅沢をいえば、「ウィット」や「滑稽」といったカテゴリーに触れるところをもっと聞いてみたい気はした。これもまた、この日で言えばシューマンの「4つの夜曲」が該当するように思うのだが、ロマン派のレパートリーにおける重要な構成要素であることだろう。

定番を押さえたプログラムだが、通して聞くと、作品それぞれのキャラクターの強さを否応なしに感じざるを得なかった。ドビュッシーの「前奏曲集」は、作品が描き出そうとしているところの対象や物体や風景が、いくらか泡沫的な感受性のうちに、なんとなしにさりげない一瞬に浮かび上がる、そういう緊張感に満ちている。ショパンの「バラード」は、何度聞いても、引き返せない運命のような、何か破局めいたものへと向かっていく散文的な書法がきらめきを放っているのに、心奪われる。早坂の「ピアノ小品集」を聞いていると、独特の非同時代的な密閉空間がそこにあるような心地がするものだし、ラフマニノフの「変奏曲」においては、情熱的かつ陰りのある叙情がコレルリの主題を最後まで調理し尽くすのは圧巻という他ないだろう。
なお、筆者は第三夜しか聞いておらず連続演奏会の全貌を知らないため、この実験的な試みの意義を問う立場にないことをご了承願いたい。Aプログラムの、バッハ、フランク、レーガー、ショスタコーヴィチそれぞれの、フーガの書法をどう演奏するか、その系譜付けを聞いたら、この日の演奏会の印象もまた異なったものになっただろうと思う。

関連記事:カデンツァ|新しい風…務川慧悟、ファン&カントロフ|丘山万里子

(2024/1/15)

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<Artist>
Keigo Mukawa, piano

<Program>
Robert Schumann:Album für die Jugend, Op.68, No.30
Robert Schumann:4 Nachtstücke, Op.23
Claude Debussy:Préludes 2
3.La puerta del Vino
5.Bruyeres
10.Canope
12.Feux d’artifice
Frederic Chopin:Nocturne No.6 in G Minor, Op.15-3
Frederic Chopin:Ballade No.4 in F Minor, Op.52
Humiwo Hayasaka:Piano Pieces for Chamber
12.Largo cantabile estompe, amabile
14.Moderato intimissimo, religiosamente
Sergey Rachmaninov:Variations on a Theme of Corelli, Op.42
*Encore:
J.S.Bach:French Suites No.5, Allemande
Maurice Ravel: Le Tombeau de Couperin, Menuet