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久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー with JCSO|西澤忠志

久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー with JCSO|西澤忠志
Joe Hisaishi presents MUSIC FUTURE with JCSO

2026年9月19日 住友生命いずみホール
September 19, 2026 / Sumitomolife Izumi Hall
Reviewed by 西澤忠志(Tadashi Nishizawa)
写真提供:公益財団法人日本センチュリー交響楽団(Japan Century Symphony Orchestra)

〈演奏〉
指揮:久石譲
ヴァイオリン:篠原悠那、池原衣美
ヴィオラ:須田祥子
チェロ:向井航
コントラバス:渡邉玲雄
フルート:永江真由子
クラリネット:持丸秀一郎、森奈穂子
パーカッション:廣川祐史、細江真弓
ピアノ・キーボード:三又瑛子、佐竹裕介
ギター:土橋庸人
エレキベース:中田しんいちろう

〈曲目〉
ジュリア・ウルフ:ビリーヴィング、リーリング(日本初演)
デヴィッド・ラング:ヴェント(日本初演)
久石 譲:The Circles
キャロライン・ショウ:アントラクト
スティーヴ・ライヒ:レディオ・リライト(日本初演)

 

ミニマル・ミュージックを中心とした欧米の現代音楽を紹介する「ミュージック・フューチャー」も今年で13回目となる。
昨年から大阪でも開催され、今回は2回目。今回の公演の妙は、まず選曲の良さであろう。古典的なミニマル・ミュージックからポスト・ミニマルまで、多様なミニマル・ミュージックの流れを知るきっかけとなる。特に今回は、ジュリア・ウォルフ、デヴィッド・ラング、そしてスティーヴ・ライヒ。アメリカのミニマル・ミュージックの本流(ライヒ)と、そこに連なるポスト・ミニマルの作品(ウォルフ、ラング)が日本初演となった。

最初は、ジュリア・ウォルフの2作品。クラリネット、チェロ、コントラバス、ピアノ・キーボード、打楽器のBang on a Canに合わせた特殊な編成。いずれも旋律の変化というよりも、グルーヴ感で曲を盛り上げていく作品。結論から言えば、聴後に感じたのは、ミニマル・ミュージックを演奏することの難しさだった。

《Believing》は、ビートルズの《Tomorrow Never Knows》を聴いた印象をもとにしたとだけあって、チェロを中心とする旋律に他の楽器の旋律が絡み合い、グルーヴを生み出す。今回の演奏でも、チェロ(向井航)のキレのよい鋭い旋律から始まる。しかし、ホールの音響が良すぎたためか、ひとつひとつの旋律の絡み合いを明瞭に聴くことが難しかった。クラリネット(持丸秀一郎)やコントラバス(渡邉玲雄)が代わる代わる指揮を受け持って、丁寧にアンサンブルを組み立てただけに惜しいところである。

《Reeling》は、録音されたフランス系カナダ人歌手の歌声に各楽器が重なることで、録音の中の世界が、不協和音にあふれた都会的な感性を持つ作曲者の世界へと広がる作品(1)。
さらに言えば、作品を通じて演奏者と聴き手までも、録音された過去の世界とつながる。この作品が収録されたアルバム「Field Recordings」の「録音を軸にした作品を創る」というコンセプト(2)から考えると、この作品にとって、この録音の声こそが主役であると言えるだろう。しかし、体を動かしたくなるほどのグルーヴ感を得ることは難しかった。なぜなのか。それは、アンサンブルはきれいに整えられていたものの、グルーヴを生み出す足踏みのリズムが弱かったためだろう。ミニマル・ミュージックを演奏する難しさは、奏者同士がタイミングを合わせるだけではない。眼前にない録音ともノリを合わせてグルーヴ感を生み出すところにあるだろう。

次のデヴィッド・ラング《ヴェント》は、本来フルートとピアノの編成。今回は2024年にピアノを弦楽五重奏(ヴァイオリン×2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)に編曲した版を用いた。フルートの旋律はオクターブ上への跳躍を中心とする。そのため、フルート奏者はアンブシュアを微妙な力加減でコントロールし、唄口に入る息を調整する必要がある。弱すぎれば音は出ず、強すぎればpの音量が台無しとなる。作品自体は、ABAのシンプルな構成で、難しい技巧を要するわけではない。しかし表題の「ヴェント(vent)」が、空気や光を取り込む開口部をイメージして付けられたことを鑑みると(3)、この微妙な力加減が、この作品の肝となる。また、今回の弦楽五重奏版では、音の高低、強弱、緩急を吹き分けるフルート(永江真由子)を中央に、半円状に弦楽器が囲み、フルートに音色を寄せたピアノ版では見られなかった、柔らかな木管楽器と緊張感のある弦楽器との音色の違いを際立たせた。「ブラボー」との声が真っ先に上がったのも納得できる。

前半の最後、久石譲「The Circles」は、作曲者指揮のもと、クラリネット(×2)、打楽器、ピアノ(×2)、弦楽四重奏の編成。元となったライヒ《砂漠の音楽》と同じく、アーチ状の構造となっているが、テンポで形作るライヒと異なり、この作品では途中から旋律を逆行させることで構造を作り上げる。短く、軽やかな変拍子の旋律をひとつひとつ積み重ねると同時に、各楽器には繊細な表現で歌う余地も残されており、機敏な動きとともにその中で強弱を動かした。古典的な構造美というよりも、絶え間ない変化で飽きさせないJ-POPとの親和性を思いつつ、流れを楽しんだ。

 

後半は、キャロライン・ショウ《アントラクト》から始まる。
ハイドン《弦楽四重奏曲 作品77-2》の第二楽章(メヌエット―トリオ)を聴いたときの印象を出発点としているとだけあって、弦楽四重奏の編成で、「トリオ」部分に基づく旋律を中心とするが、弓と弦とがかすれる音やハーモニクスも取り入れて、作曲者がハイドンの作品を聴いた際に抱いた印象「不条理でありながらも、繊細で、テクニカラー映画のような鮮やかな色彩を伴って、聴き手を突然『鏡の国のアリス』の向こう側へと連れ去ってしまうような」気分を表現する。鋭いパッセージから、ピッツィカートを中心とする繊細な音まで、弦楽器の音が星々のようにきらめき、流星のようにスッと流れる。そして最後にはチェロのハープを思わせるアルペジオで、物語が遠い彼方へ旅立ったのを見送って幕を下ろす。こうした胸に沁みる繊細な音には、音響の良いこのホールがぴったり合う。

最後に演奏されたのは、Radioheadの《Jigsaw Falling into Place》と《Everything in Its Right Place》を素材にしたスティーヴ・ライヒ「レディオ・リライト」。最初は、ピアノのコードが慎重に一定のテンポを強く刻むように始まり、冴えた弦楽器と、柔らかな管楽器とヴィブラフォンの対照的な響きがクロスオーバーする。緩徐楽章に当たる「slow」では、緩やかな音色で互いの楽器が歩み寄る。最終楽章の「fast」では、角がとれたように軽くなったピアノの鋭いリズムを中心に、弦楽器と管楽器のシンコペーションを主とする旋律によって音楽を高揚させて、最後には見得を切るように、音を伸ばして終わる。基本的には変拍子のテンポを忠実に刻みつつも、音色やリズムの重い軽いによって各楽章の性質を的確に表した点で、久石譲は、リズムや旋律の変化といった、ありきたりなミニマル・ミュージックの聴き方とは異なるポイントを示したと言っていいだろう。最も驚くべきことは、2012年に発表されたこの作品が、今日まで日本初演されなかったことだが…。

終演後に周りから聞こえてきたのが、アンコールはないのかという声だった。そうした残念がる声が聞こえてきたことは、「もう沢山」と飽きられなかった証左でもあろう。客席には比較的若い客層も多くみられた。先述したように、ミニマル・ミュージックには、音楽教育で教わる「合わせる」こととは違う要素、奏者同士がノってグルーヴを生み出すことが求められるだろう。そうした課題がありつつも、久石譲と日本センチュリー交響楽団の若い人々を呼び込むこうした演奏が、硬直化した(と見なされている)「クラシック音楽」に風穴を開けるきっかけとなることを願いたい。

(2026/10/15)

‹players›
Conductor: Joe Hisaishi
Violin: Yuna Shinohara, Emi Ikehara
Viola: Sachiko Suda
Cello: Wataru Mukai
Contrabass: Reo Watanabe
Flute: Mayuko Nagae
Clarinet: Shuichiro Mochimaru, Nahoko Mori
Percussion: Yuji Hirokawa, Mayumi Hosoe
Piano, Keyboard: Akiko Mimata, Yusuke Satake
Guitar: Tsunehito Tsuchihashi
Electric bass guitar: Shinichiro Nakata

‹pieces›
Julia Wolfe: Believing, Reeling (Japan Premiere)
David Lang: Vent (Japan Premiere)
Joe Hisaishi: The Circles
Caroline Shaw: Entr’acte
Steve Reich: Radio Rewrite (Japan Premiere)