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瞬間(とき)の肖像| Tokyo Cantat 2025 第9回 若い指揮者のための合唱指揮コンクール【本選】|長澤直子

瞬間(とき)の肖像| Tokyo Cantat 2025 第9回 若い指揮者のための合唱指揮コンクール【本選】|長澤直子
Tokyo Cantat 2025 The 9th Chorus Conducting Competition for Young Conductors [Final]
2025年4月29日 TCMホール
Photos and Text by 長澤直子 (Naoko Nagasawa)

 

合唱という芸術において、指揮者は果たして何を導くのだろうか。目に見えぬ呼吸を手繰り寄せ、それを合唱という姿にする。

第9回 若い指揮者のための合唱指揮コンクール【本選】は、TCMホールで開催され、12名の挑戦者を迎えた。終日にわたり濃密な時間が流れ、未来の合唱界を照らす光を探す試みとなった。

本選は二段階に分かれ、最初のステージでは、寺嶋陸也による新作ヴォカリーズを用いた“初見演奏”、およびルネサンス作品の指導・演奏が公開で行われた。

すべてはその場で、限られた時間のなかで。それは即興にも似た真剣勝負であり、譜面を越えて、いわゆる「耳の中にある風景」を言葉と身振りで伝える力が試される。

最終審査では、ブラームス、プーランク、ラフマニノフらの作品が課題に選ばれ、6名のファイナリストたちが1曲ずつリハーサル・演奏を行った。

技術のみならず、合唱という集合体とどう呼応するか。その過程すらも審査の対象となるこのコンクールでは、瞬間ごとの判断、呼吸、そして想像力が、おおいに問われるであろう。
指揮という無音の楽器に向き合った彼らの姿は、確かに、音が鳴る以前の「肖像」として、そこに刻まれていた。

 


=本選出場者=(出場順)
今井祐之
坂巻正子
神足有紀
矢﨑千尋
伊藤心
片岡大二郎
佐々木純哉
丸山大輝
和田太郎
村山俊介
西原康智
加藤楓也

 


=順位賞=
第1位:伊藤心
第2位:神足有紀
第3位:丸山大輝


=部門賞= 
初見課題賞:神足有紀 
ルネサンス課題賞:加藤楓也(Monteverdi《Io mi son giovinetta》) 
ロマン派・近現代課題賞:伊藤心(C. Kreek《Õnnis on inimene》) 
オーディエンス賞:伊藤心 




=若い指揮者のための合唱指揮コンクール= 
2008年に始まる。Tokyo Cantat招聘講師らの提案を機に発足し、日本の合唱界を担う次世代の指導者育成を目的として開催されてきた。第9回となる今回は、東京音楽大学中目黒・代官山キャンパスTCMホールで開催。世界的指揮者陣(広上淳一、エルヴィン・オルトナー、カスパルス・プトニンシュ)が審査を担当した。 

審査は書類・映像による予選と、公開形式の本選(一次・最終)で構成される。本選一次審査では寺嶋陸也による委嘱新作ヴォカリーズの初見演奏と、ルネサンス・初期バロック作品のリハーサル・通し演奏が課され、最終審査ではロマン派および近現代作品(ブラームス、三善晃など)を用いたリハーサル・演奏が行われた。演奏順や課題曲はいずれも当日抽選により決定された。 

モデル合唱団としてはMusic Tree Vocal Ensemble/Ensemble PVD(指導:藤井宏樹)が起用され、指揮者の音楽性と統率力がリアルタイムで問われる設計となっている。 

入賞者には賞金とディプロマが授与され、1位入賞者はTokyo Cantatクロージング・コンサートにて指揮の機会を得る。順位賞の他に、聴衆投票によるオーディエンス賞・部門賞(初見演奏賞/ルネサンス課題演奏賞/ロマン派近現代作品演奏賞) がある。 

なお、今回は課題曲に日本の合唱作品(三善晃《かどで》)が初めて加えられた。

(2025/5/15)