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五線紙のパンセ|魔法少女とお別れ III|辻田絢菜

魔法少女とお別れ Ⅲ

Text by 辻田絢菜(Ayana Tsujita): Guest

死が怖い、時とともに避けられない肉体の変化があると強烈に思うようになったこの経験を経て、変化しないものに憧れがあることをより実感しました。しかしこれは老いに抗ったり、若々しくというアンチエイジング的なものではなく、ただただ自然に子どもの時から変化できていない感性をそのままの状態で大切にしていたい、この感覚を大切に出来る場所を探しているということが感覚として近いです。
一回目でも書いたように、自分の音楽のルーツのひとつであるクラシック音楽をやはり無視することはできません。しかし自分が通ってきたこの大きな潮流から物事を見てしまうと、その進化の先を担わされているような感覚もあり、長い歴史を担い成長しようとする世界観の方向性と、私の持つ感覚は今現在あまり一致していないのだとも感じます。
成長したくない、つまり逆に生命が止まっている状態に憧れがあるとも言えます。冒頭との矛盾がありますが、その相反する状態の共存が私の表現したいものの一つなのかもしれません。(近い世界観として嶽本野ばら先生の「それいぬ」というエッセイ集の端々に昔から大きな影響を受けています。)

“Keep walking, listen” for Violin and Piano by Ayana Tsujita
Art director/Designer : Marina Takahashi Photographer : Yushi Kaku

最後はこのような思考を通じて、世界とどのように関わることを目指しているのかについて、ある体験を交えて締めくくろうと思います。
2024年から2025年にかけて、父のために病院に付き添うことが多い日々を過ごしていました。ある日、病院の待合室で長い待機時間を過ごしていたところ、ふと壁の一部が大きなブルーのパネルのようなもので覆われていることに気づきました。近づいてよく見ると、それは佐々木宏子さんという美術作家の絵画作品でした。
第二回目で書いたように、2024年の出来事があってから、最初の頃はショックで疲弊していました。芸術を楽しむという心の余裕はまったくなくなっていて、ただちいさく毎日をやり過ごすことで精一杯でした。そんな日々のなかでこの作品の存在に気づいたとき、「私は音楽をやっている人間だった」と、自分は何者だったかを思い出すような感覚がありました。作品からの刺激によって、灰色だった日々の中で心が動き、すこしだけ安心したのを覚えています。
もし誰かにとって、自分の作品がこのように人の心を動かすきっかけになったなら、それは自分にとってどれだけ意味のあることだろうと思います。佐々木さんはもう亡くなってしまっていますが、こうして私は勇気を頂きました。自分が作る作品に対して何か夢があるとしたら、きっとこういうことなのだろうと思います。
「眠り姫の鱗」で実践したように、実際に鳴らされた音が誰かの心に残って生き続けてほしいという願いがあります。やはり譜面に書き記しただけではなく、音が鳴ってこその音楽だとも思っています。
私の父も作曲家です。父とは敢えて最後まで正面切って音楽の話をすることはありませんでしたが、一緒に過ごす中でほんのちょっとしたところから感じてきた父の音楽性や音楽観は確実に私の中に根付いていることに自覚があります。私の辿り着いた思考は何かを作る人であればきっと共感してくれる方も多いと思っているので、似た思考を持った人間がいること、またできる限りそれを実践していくことが、先にこの世を去った方の救いになればと願っています。そのため自分が生きているうちは、なるべく作品を録音し、聴けるかたちで残していくことにもモチベーションを持っています。演奏会用の作品の他に、劇伴音楽制作やポストプロダクション的な音楽制作を行いたいこともその一環です。
ピンクのメモ帳も、プラスチックのかわいい指輪もいまだに手に取ってしまいます。私の感性は、この先もきっと魔法少女に憧れを持ったままです。そのままであったとしても、今まで先人から引き継いできた技術や、悩ましくもある大きな歴史との距離感や価値観、それらを全てまとめて自分らしく作品に込めたいと思っています。それはきっと耳を傾けてくれている誰かに伝わり、この先もつながっていくのだと信じます。現実とは関係のないところにあるちいさな箱庭のような世界を作ることが、今の所しっくりときている自分の芸術作品のあり方です。ロールモデルが見つからない心細さも、もしかしたら先人たちが感じてきたことなのかもしれません。この名もない活動形態のまま、しばらく勇気を持って進もうと思います。
もし私の音楽を必要としてくれる人がいるのなら、その人のところに届く可能性を少しでも高めるために、今はなるべく広く自分の良いと思う音楽が良いかたちで届けられるよう、これからも精進します。

ここまでお読み頂きありがとうございました。
これまでの作品はYouTubeやInstagramで随時更新しております。
https://www.instagram.com/ayanatsujita/
https://www.youtube.com/@ayanatsujita
また作品発表や演奏会についての情報はInstagramやXなどで発信しておりますので、あわせてご確認いただけますと幸いです。
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辻田絢菜
東京藝術大学音楽学部作曲科を経て、同大学院修士課程作曲専攻を修了。
アコースティック楽器を中心とした作品制作を行う。演奏会向け芸術作品から劇伴音楽まで幅広い表現形態に対し、現代音楽的なアプローチを生かし音楽の聴き方を拡張する表現を探求している。
‘13年 安宅賞受賞、‘14年 第83回日本音楽コンクール作曲部門(オーケストラ作品)入選、岩谷賞(聴衆賞)受賞、‘15年 サントリー芥川作曲賞ノミネート ほか
‘18年 NHK委嘱によるオーケストラ作品がNHK FM「現代の音楽」にて放送初演。
‘20年 テレビ東京「シナぷしゅ」にてアニメーションMV「んぱぱぱぴぴぴん」放送。
‘26年 ヤマハ銀座店の「開店音楽」を作曲。同年3月より運用開始、あわせて特別展示を開催。(https://www.yamaha.com/ja/news_release/2026/26031102/)
‘26年 音楽を担当したテレビアニメ「ガンバレ!中村くん!!」が4月より放送中。
2026年7月12日(日)都内にて演奏会企画「東京空中庭園」シリーズ開催予定。詳細は各種SNSにて順次公開予定。
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