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マーク・パドモア&内田光子 デュオリサイタル |藤堂清

マーク・パドモア&内田光子 デュオリサイタル
Mark Padmore & Mitsuko Uchida duo recital

2022年11月24日 東京オペラシティコンサートホール
2022/11/24 Tokyo Opera City Concert Hall
Reviewed by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 飯田耕治/写真提供:サントリーホール

<出演>        →foreign language
マーク・パドモア(Ten)
内田光子(Pf)

<曲目>
ベートーヴェン:〈希望に寄せて〉(第2作)op.94
   〈あきらめ〉WoO149/〈星空の下の夕べの歌〉WoO150
   《遥かなる恋人に》op.98
シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》D957、D965a

 

マーク・パドモアは来日公演でシューベルトの三大歌曲集を、2011年トッパンホール、2014年王子ホールで歌っている。前者のピアノはティル・フェルナー、後者はポール・ルイスであった。また近年ロンドンのウィグモア・ホールで内田光子とともに《冬の旅》を歌っているし、新たに《白鳥の歌》を録音している。これらの曲目はパドモアにとって自家薬籠中のものといえるだろう。不安があるとすれば、東京オペラシティコンサートホールという会場の広さと、彼と内田との相性。

前半のベートーヴェンは、連作歌曲集《遥かなる恋人に》に3曲を加えた構成。最初の〈希望に寄せて〉はカンタータ風のダイナミクスの大きな曲。
始まってすぐに、パドモアの声に、歌に、違和感をおぼえた。自然な伸びがなく、旋律線が途切れがちになる。会場全体に強く響いている瞬間はあるのだが、その音圧が一定しない。
《遥かなる恋人に》は6曲を切れ目なく演奏する。のびやかなメロディーラインが特徴だが、こちらでもそのつながりが自然に流れない。
2017年に彼がマスタークラスで挙げた「ルール2)メロディーをフレーズとして作る。」がうまく機能しない。彼の歌は何度も聴いてきたが、声の調子が十全でないときでも、基本的な歌のフォルムがくずれることはなかったし、それゆえ感動させられてきた。原因としては、以前の小規模なホールでの演奏と較べると、1600席というホールのサイズが影響していると考えざるをえない。もちろん、彼の61歳という年齢もあり、それが声自体の変化となって現れたという可能性もあるが。
内田のピアノの音は粒のそろった立派なもの。ゆったり目のテンポでしっかり鍵盤をおさえていく。

後半はシューベルトの歌曲集《白鳥の歌》。全14曲を、レルシュタープ歌曲とハイネ歌曲といった区別をすることなく、出版されたままの順序で通して演奏した。10月のクリストフ・プレガルディエンのリサイタルでのこの曲の扱いとは対照的。
パドモアの歌は、ベートーヴェンの時よりは安定感が出てきた。〈愛の使い〉〈春の憧れ〉の楽し気な歌、それを支えるピアノの細かな表現はこの二人ならではのもの。一方、〈すみか〉〈遠い地にて〉では、ピアノの自己主張が強く、彼に少し負荷がかかったように感じられ、十分なダイナミクスで歌いきれなかった。その傾向は〈アトラス〉でもあり、内田のピアノの圧倒的な力に押し込まれた。ハイネ歌曲の後半の3曲、〈都会〉〈海辺にて〉〈影法師〉では遅めのテンポでピアノ主体の音楽作り。パドモアの語るような声がその上にのって響く。

プログラム全体では、二人の協奏は成果を生んでいた。しかしこの二人ならもっと深い共同作業ができるのではないか。そしてパドモアのためには、もう少し小規模な会場で聴いてみたかったというのが正直な気持ちである。

(2022/12/15)

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<players>
Mark Padmore (Tenor)
Mitsuko Uchida (Piano)

<Program>
Beethoven: An die Hoffnung, op.94
   Resignation, WoO149
   Abendlied unterm gestirnten Himmel, WoO150
   An die ferne Geliebte, op.98
Schubert: Schwanengesang, D957, D965a