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シューベルト三大歌曲 プレガルディエン&ゲース|藤堂清 

〈歌曲(リート)の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~
〈シューベルト三大歌曲〉
クリストフ・プレガルディエン(テノール)&ミヒャエル・ゲース(ピアノ)

2022年10月1,3,5日 トッパンホール
2022/10/1,3,5 Toppan Hall
Reviewed by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 大窪道治/写真提供:トッパンホール

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〈トッパンホール22周年 バースデーコンサート〉
〈歌曲(リート)の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第25篇
〈シューベルト三大歌曲 1〉

クリストフ・プレガルディエン(テノール)&ミヒャエル・ゲース(ピアノ)

ベートーヴェン:連作歌曲《遥かなる恋人に寄す》Op.98
シューベルト:《白鳥の歌》 D957より
  第1曲 〈愛の言づて〉/第2曲 〈兵士の予感〉/第3曲 〈春のあこがれ〉/
  第4曲 〈セレナーデ〉/第5曲 〈居場所〉/第6曲 〈遠い地で〉/第7曲 〈別れ〉
———————–(休憩)———————–
ブラームス:《リートと歌》より〈きみの青い目〉Op.59-8
      《4つの歌》より〈とわの愛〉Op.43-1
      《低音のための6つのリート》より〈野にひとりいて〉Op.86-2
      《プラーテンとダウマーによるリートと歌》より
        〈わたしは夜中にふいに跳び起き〉Op.32-1
      《低音のための5つのリート》より〈墓地で〉Op.105-4
シューベルト:《白鳥の歌》 D957より
  第10曲 〈魚とりの娘〉/第12曲 〈海辺で〉/第11曲 〈町〉/
  第13曲 〈もう一人の俺〉/第9曲 〈あの娘の絵姿〉/第8曲 〈アトラス〉
——————–(アンコール)——————–
シューベルト:〈鳩の使い〉 D965A/〈我が心に〉 D860/〈夜と夢〉 D827

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〈歌曲(リート)の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第26篇
〈シューベルト三大歌曲 2〉

クリストフ・プレガルディエン(テノール)&ミヒャエル・ゲース(ピアノ)

シューベルト:《水車屋の美しい娘》 D795
——————–(アンコール)——————–
シューベルト:《白鳥の歌》 D957より 第1曲 〈愛の言づて〉/
       〈それらがここにいたことは〉 D775/
       〈憩いのない恋〉 D138/〈さすらい人の夜の歌2〉 D768

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〈歌曲(リート)の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第27篇
〈シューベルト三大歌曲 3〉

クリストフ・プレガルディエン(テノール)&ミヒャエル・ゲース(ピアノ)

シューベルト:《冬の旅》 D911
——————–(アンコール)——————–
シューベルト:〈夜の曲〉 D672/〈ヴィルデマンの丘を越えて〉 D884/
       〈さすらい人の夜の歌1〉 D224/〈夜と夢〉 D827

 

トッパンホールの主催公演「〈歌曲(リート)の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 」のシリーズの一環として、クリストフ・プレガルディエンとミヒャエル・ゲースによる「シューベルト三大歌曲」と題するコンサートが三夜にわたって行われた。66歳のテノールと69歳のピアニストというベテラン2人のデュオ、そのことから想定される円熟の境地というだけにとどまらず、新たな視点をもたらしてくれた。

第1夜は《白鳥の歌》を中心とするプログラム。前半にベートーヴェンの《遥かなる恋人に寄す》と《白鳥の歌》よりレルシュタープの詩による7曲。後半には、ブラームスの歌曲5曲とハイネの詩による6曲を配した。近年では、レルシュタープとハイネを別の歌曲集として、またザイドルの詩による〈鳩の使い〉は別だてとすることが多くなっている。この日のプログラムもその考え方に従ったもの。
注目すべきは、ハイネ歌曲の演奏順を出版されているものとは変えていたこと。第10曲、第12曲、第11曲、第13曲、第9曲、第8曲という順序。実際この6曲を〈アトラス〉の強い曲調で開始するのと、逆にそれを最後に持ってくるのとでは、印象が大きく異なる。〈魚とりの娘〉の明るい曲想から入りながらも失恋を歌い、最大の不幸も自分が望んだものと強い嘆きで終える。ただし、これが彼の独自のものかどうかは不明である。というのは、彼の息子、ユリアン・プレガルディエンが、2020年に録音したCDで同じ順序で演奏しているからである。彼ら親子はなんらかの根拠をもって(例えばハイネの詩集の順序にしたがったというような)変更しているのだろうが、それを明らかにするものは今回示されていない。
最初のベートーヴェンではクリアなドイツ語が会場をうめ、すぐにその世界へと引き込んでいった。続くレルシュタープ歌曲では、高音に苦労するところも感じられたが、そこは練達の二人、じつに見事に切り抜けていった。ブラームスの歌曲は、プレガルディエンとしてはあっさりとした演奏。歌詞を深く読み込んで、聴き手の心をグイっとつかむというところが感じられなかった。ハイネ歌曲については曲順のことを書いたが、全体としてのストーリー性が感じられる演奏であった。ゲースのピアノが、プレガルディエンの微妙なテンポや細かな強弱の変化を受け止めて、曲の表情を生み出している。
この日のアンコールの1曲目に、《白鳥の歌》の最後に収められている〈鳩の使い〉が演奏された。

第2夜は《水車屋の美しい娘》全曲である。以前の来日時の演奏でもそうであったが、この曲集の演奏では多くの装飾音を入れたり、変更を加えたりする。シュトローフェンリート(有節歌曲)が多く、繰り返し部分に手を加えることは許容されるという考え方であろうか。節ごとに細かな変化が加わることで、全体としての表情がより大きく豊かなものとなる。ゲースも慣れたもので、プレガルディエンの突っ込みを受け止め、装飾を加えて返す。二人のやり取りが自然で、楽譜にそう書かれているかのように感じられる。プレガルディエンが旋律を間違えたり、別の節の歌詞を歌ってしまったりした場面では、ゲースがピアノを弾きながら、正しい歌を歌って修正を指示することもあった。見事な連携プレー。第1夜で気になった高音の苦しさを感じることはなく、どの音域でも安定した響きで言葉を紡いでいく。
アンコールの最後に歌われた〈さすらい人の夜の歌2〉は絶品。

第3夜は《冬の旅》全曲。第2夜までとは打って変わって、表情付けを抑えたがっちりとした歌唱。一つ一つの言葉に息を吹き込み、響きをつくり、意味を与える。その細かな作業を丁寧に行っていく。《水車屋の美しい娘》が自由度の高い草書体であったとすれば、こちらは一点一画をゆるがせにしない楷書体といった趣。歌曲集の第2部の後半、〈道しるべ〉以降では会場をつつむ空気が重くなり、旅人の疎外感がより強く感じられた。ゲースのピアノも、ペダルをひかえ、余計な響きを抑えたもの。
この歌曲集の後にアンコールは不要と思えたが、夜とさすらいをテーマとした3曲は《冬の旅》とのつながりを意識させるもの。ここでも美しい響きと言葉を聴かせてくれた。最後は彼がアンコールの締めに歌うことの多い〈夜と夢〉で清められた。

三夜、それぞれにアプローチの異なる歌唱、66歳にしてそれを可能にしているプレガルディエンの歌手としての力量、そのすべてを支えるゲースのピアノ、よいものを聴かせてもらった。

(注)曲名については、プログラム記載の梅津時比古氏の訳に従った。

(2022/11/15)

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[ Toppan Hall The 22th Birthday Concert ]
[ Song Series 25 -Gedichte und Musik- ]

Christoph Prégardien(Ten) & Michael Gees(pf)

Program

Beethoven:Liederzyklus “An die ferne Geliebte” Op.98
Schubert:Schwanengesang D957
Brahms:’Dein blaues Auge’ from “Lieder und Gesänge” Op.59-8
Brahms:’Von ewiger Liebe’ from “4 Gesänge” Op.43-1
Brahms:’Feldeinsamkeit’ from “6 Lieder für eine tiefere Stimme” Op.86-2
Brahms:’Wie rafft’ ich mich auf in der Nacht’ from “Lieder und Gesänge von A.v.Platen und G.F.Daumer” Op.32-1
Brahms:’Auf dem Kirchhofe’ from “5 Lieder für eine tiefere Stimme” Op.105-4
————————(Encore)———————-
Schubert:Die Taubenpost D965A, An mein Herz D860, Nacht und Träume D827

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[ Song Series 26 -Gedichte und Musik- ]

Christoph Prégardien(Ten) & Michael Gees(pf)

Program

Schubert:Die schöne Müllerin D795
————————(Encore)———————-
Schubert:’Liebesbotschaft’ from “Schwanengesang” D957,
     Dass sie hier gewesen D775,
     Rastlose Liebe D138, Wandrers Nachtlied-2 D768

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[ Song Series 27 -Gedichte und Musik- ]

Christoph Prégardien(Ten) & Michael Gees(pf)

Program

Schubert:Winterreise D911
————————(Encore)———————-
Schubert: Nachtstück D672, Über Wildemann D884,
     Wandrers Nachtlied-1 D224, Nacht und Träume D827