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PickUp (2022/6/15) |新作オペラ「アニオー姫」主要キャスト記者発表会|加納遥香

日越外交関係樹立 50 周年記念・新作オペラ「アニオー姫」主要キャスト記者発表会
Họp báo công bố diễn viên chính vở opera “Công nữ Anio” – Kỷ niệm 50 năm thiết lập quan hệ ngoại giao Việt Nam và Nhật Bản
Main Cast Presentation for opera “Princess Anio” – Commemorating the 50th Anniversary of the Establishment of Diplomatic Relations between Japan and Vietnam

2022年6月3日 ベトナム国立交響楽団リハーサルスタジオ(ハノイ)
Ngày 3 Tháng 6 Năm 2022 Hội trường của Dàn nhạc Giao hưởng Việt Nam (Hà Nội)
2022/6/03 Rehearsal studio of Vietnam National Symphony Orchestra (Hanoi)

Text by 加納遥香(KANOH, Haruka)
写真提供 :「アニオー姫」実行委員会

 

2022年6月3日、ベトナムの首都ハノイにあるベトナム国立交響楽団リハーサルスタジオにて、2023年の日本・ベトナム外交関係樹立50周年の記念事業として両国が共同制作を進めている新作オペラ《アニオー姫》の主要キャスト記者発表会が開催された。Zoomでも配信され、日本からも参加できた。
前回の記者発表会から約半年。4人主要キャスト(ダブルキャスト)の発表、そしてアリアの披露など、プロジェクトが着々と進んでいる様子をうかがい知ることができる内容であった。以下ではその一部を報告する。

※本記者発表会の全容はアニオー姫実行委員会Youtube公式ページより視聴できる。また、このプロジェクトの詳細についてはプロジェクトのウェブサイト、および拙稿「文化がつくる日越関係:新作オペラ《アニオー姫》に寄せて」を参照されたい。

今回の記者発表会のメインである主要キャストの発表は、日本から訪越中の大山大輔氏(演出・戯曲・作詞)により行われた。荒木宗太郎役(テノール)に抜擢されたのは小堀勇介氏と山本耕平氏。両者ともビデオメッセージでの参加で、小堀氏は御朱印船の商人であった宗太郎の生き様を学び、役柄を深めていくことへの意気込みを、山本氏は、自身と関係の深い長崎とベトナムという2つの地に関わる宗太郎を演じることへの喜びなどを語った。アニオー姫役(ソプラノ)には、ベトナム国立オペラバレエ団のダオ・トー・ロアン氏とブイ・ティ・チャン氏が選ばれた。2人は真っ白な衣装を身にまとって登場し、オペラ《アニオー姫》第3幕の〈一絃琴のアリア〉を披露した。この映像はこちらで視聴できる。
大山氏によればこのアリアは、「長崎にお嫁入りしたアニオー姫が、遠い異国の日本から、故郷ベトナム・ホイアンに想いを馳せて歌うアリア」であり、「メロディーにはベトナムの人々の心に響く民謡のエッセンス」が込められている。Zoom参加であった筆者はパソコンの画面とイヤホン越しで視聴したため、残念ながら音響はあまりよくなかった。が、オペラティックで力強い2人の歌唱が繰り広げる、チャン・マイン・フン氏作曲の哀愁に満ちながらも明るさを伴う旋律には、聴衆の心にストレートに訴えるものがあった。オペラの一場面として生で鑑賞できる日が楽しみだ。

質問応答では、会場参加のベトナムのメディアからベトナムプラス新聞、ベトナムニュース新聞、ベトナム婦人新聞、ベトナム国営放送が質問を投げかけ、大山氏、同楽団音楽監督兼首席指揮者 本名徹次氏(プロジェクト代表)が回答して作品や舞台の一端が明かされた。そのひとつが使用言語のことだ。大山氏によれば、基本的にはベトナム人同士の会話はベトナム語、日本人同士の会話は日本語を用いるが、たとえばベトナムを舞台とした第1・2幕では荒木宗太郎がベトナム語で歌う、という場面も出てくる予定であるという。各場面で言語がどのように用いられるのか、それに歌手たちがどう向き合うのかは、本オペラの見どころの1つとなろう。もちろん上演にあたっては日本語、ベトナム語、さらに可能であれば英語の字幕が用意されるという。
また、ハノイ以外での公演について本名氏は、ホーチミン市、ダナン、ホイアン、フエなどベトナム各地で上演したいという想い、そしてハノイでの世界初演後にあまり間を置かずに日本初演を実現させたい旨を語った。日本公演が大いに期待されるが、フランス植民地時代に建設されたハノイのオペラハウスで宗太郎とアニオー姫の物語を鑑賞する、という旅の想像も膨らむ。
日本からもZoomのチャット機能を用いて質問が投げかけられた。ベトナムのメディアからは日本人関係者への質問が中心であったのとは対照的に、日本側からはベトナム側の関係者への関心が高い。アニオー姫を演じるにあたっての心意気を問われたブイ氏とダオ氏はともに、アニオー姫という役を全うしたいという旨を述べ、さらにダオ氏は日本語で、「私は日本の文化、そして人々が大好きです。ベトナムと日本が、ずっと良いお友達でいられますように」とメッセージを送った。
また、〈一絃琴のアリア〉の披露に先立ち大山氏は、「ベトナム民謡のメロディーはどこか日本の民謡と重なるところがあり……日本の皆さんにもどこか懐かしい故郷の風景を思い起こさせてくれる」と述べていたが、作曲家チャン・マイン・フン氏も記者への回答の中で、ベトナムと日本の民謡や伝統音楽の旋法の類似性に言及していた。しかも日本の音楽は、キン族(ベトナムのマジョリティの民族)の音楽だけでなく少数民族の音楽とも類似性が見いだされたという。チャン氏の発見が音楽としてどのように立ち現れてくるのか、それは私たちの耳にどのように響くのか。オペラの全容が楽しみである。

プロジェクトはまだまだこれからが本番、というところだろう。本名氏によれば、次の大きな課題は残りの役のキャスティングである。大山氏は昨年5月頃から書き始めた脚本の仕上げ、およびチャン氏の作曲した音楽に合わせたブラッシュアップに取り組むという。
在ベトナム日本国大使館特命全権大使 山田滝雄氏(プロジェクト名誉顧問)の挨拶の言葉によれば、2022年5月に内閣総理大臣 岸田文雄氏が訪越した際、グエン・スアン・フック国家主席との間で、「このオペラを是非すばらしいものにしよう」という想いが共有されたという。初演まであと1年3か月ほど。オペラ《アニオー姫》は今後ますます多くの人、団体、そして国をも巻き込みながら作られていくのであろう。本プロジェクトを引き続き注視していこうと思う。

(2022/6/15)

《アニオー姫》制作メンバー

(左)制作アドバイザー チャン・リ・リー氏(ベトナム文化スポーツ観光省上演芸術局 局長代理) 
(中)来賓 ベトナム文化スポーツ観光省 タ・クアン・ドン 副大臣 
(右)プロジェクト名誉顧問 山田滝雄氏(駐ベトナム日本国特命全権大使)

山田滝雄大使の挨拶

プロジェクト共同代表 チン・トゥン・リン氏(ベトナム国立交響楽団 事務局長)の挨拶

プロジェクト代表 本名徹次氏(ベトナム国立交響楽団 音楽監督兼首席指揮者)の挨拶

大山大輔氏による主要キャスト発表

オペラ第3幕より〈一弦琴のアリア〉を披露するダオ・トー・ロアン氏(左)とブイ・ティ・チャン氏(右)

質問に答える作曲家チャン・マイン・フン氏

フォトセッション

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加納遥香(Haruka Kanoh)
一橋大学社会学研究科特別研究員。博士(社会学)。専門は地域研究、音楽文化研究、グローバル・スタディーズ等。主な地域はベトナム。修士課程、博士後期課程在籍時にはハノイに滞在し留学、調査研究を実施し、オペラをはじめとする「クラシック音楽」を中心に、芸術と政治経済の関係について領域横断的な研究に取り組んできた。