J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会 |藤原聡

J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会 

2018年3月24日(土) ヤマハホール 
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by Ayumi Kakam /写真提供:ヤマハホール 

<出演>
堀込ゆず子(ヴァイオリン)
古部賢一(オーボエ) 

青木尚佳、大江馨、北岡彩、黒川侑、山口裕之、米元響子(ヴァイオリン)
篠﨑友美、瀧本麻衣子、柳瀬省太(ヴィオラ)
長明康郎、安田謙一郎、湯原拓哉(チェロ)
池松宏(コントラバス)
高木綾子(フルート)
水内謙一、宇治川朝政(リコーダー)
古山真里江、石井智章(オーボエ)
日橋辰郎、藤田麻理絵(ホルン)
高橋敦(トランペット)
曽根麻矢子(チェンバロ) 

 <曲目>
バッハ:ブランデンブルク協奏曲全曲
 第1番、第3番、第5番、第6番、第4番、第2番

 

非常に贅沢な1日限りの特別企画。ブランデンブルク協奏曲を1回のコンサートで全曲演奏すること自体あまりないだろうが、その演奏者として名ヴァイオリニスト堀込ゆず子と新日本フィルの首席オーボエ奏者を務める古部賢一を中心とし、さらには内外で活躍する名演奏家による特別合奏団(上記の演奏者を見て頂きたい!)をこの日のために組織したという豪華さである。しかもそれを333席というインティメートなヤマハホールで味わえるのだからチケットは当然完売。この日は1番→3番(休憩)5番→6番(休憩)4番→2番という順番で演奏され、休憩2回を挟んで終演は16:40頃であった(開演は14:00)。チェロとチェンバロ以外は全員が立ったまま演奏というスタイルをとる。

まず1番が始まる前にステージに集結したアーティストたちを見て驚いたのだが相当な大人数である。後で曲ごとの参加メンバー表を見ると20人。決して大きいとは言えぬヤマハホールでこの人数はどうだろうか、と思っていたのだが予想通り非常な大音量。古楽器ではなくモダン楽器で、しかもバロック的スタイルではなく正面切ってのモダンスタイルでの演奏ゆえ、ともかく迫力がある。正直このホールのキャパシティをいささか越えているように思ったのだが、少し大味にも聴こえてしまった。合奏部が大人数ゆえ管楽器のテクスチュアが浮き出てくる効果も若干薄い。しかし全員が抜群に上手くて音楽性が優れているのでその辺りも少し経つと慣れて気にならなくなる。中ではやはり第2楽章での堀込のヴァイオリンと古部のオーボエのデュオの美音と妙技による歌い込みが素晴らしい冴えを見せる。この後堀込が軽くスピーチ、「今年はバッハの生誕333年ですが、今日のこのヤマハホールは333席、そして今日(3月24日)はブランデンブルク協奏曲が献呈された日です」。この偶然の符合に会場がざわめいたところで第3番。弦楽器とチェンバロのみの登場ゆえ響きの飽和感はさすがになくなるが、ここではキビキビとしたフレージングの積み重ねによってモダン楽器ではともするとボッテリとした響きになりがちな第3を見通し良く聴かせることに成功していた。その意味では特に第3楽章が卓越。

休憩①を挟んで第5番。ここでフルートに高木綾子が登場、そしてチェンバロが活躍する曲だけにこれまでの2曲では目立たなかった曽根麻矢子の存在が前景に出る。この2人のソロは十分に華やかでありながらも全体に溶け込むような落ち着きを兼ね備え、その意味では華麗と言うよりは滋味のある演奏ぶりと言ってよいだろうか。次の第6番はヴァイオリンが登場しない上に全6曲中で最も演奏人数が少ないためにその響きは他の曲と比較してくすんで地味であるが、味わいという意味では屈指の曲とも思える。独奏部と合奏部の区別はない曲ながらもここでは何と言っても柳瀬省太の雄弁なヴィオラが随一の聴き物。他の機会にも感じたことだが、この人が入るとそのアンサンブルは強力な求心力を発揮するように思う。

休憩②の後は第4番。リコーダーに木内謙一と宇治川朝政が登場、あくまで澄み渡ったトーンで会場を魅了したが、この曲では第3楽章でのヴァイオリン、チェロと先述したリコーダーのヴィヴィッドな合奏が特に耳を引く出来栄え。これは出色であった。そして最後に第2番。都響の首席トランペット奏者である高橋敦のピッコロ・トランペットは完璧な吹奏を示し、その高音部の輝きと煌きは比類ない。

以上全6曲、それぞれの卓越したポイントを簡潔に記すにとどめたが、突飛な演奏家を引き合いに出すけれどもこれがゲーベル&ムジカ・アンティクワ・ケルンのブランデンブルクであれば、バッハの音楽それ自体と共にゲーベルのアクのある音楽造りが良くも悪くも目立って前面に出て来るのでそういう意味であれこれ書くことは多いだろう。この日のヤマハホールで行なわれた演奏にラジカルさは微塵もないが、それは質の高いオーソドックスな演奏でバッハの音楽をただただ楽しく享受出来たという意味に取って欲しい(それにしても休みの時に音楽に合わせて体を大きく揺する山口裕之や笑顔に満ちた米元響子の演奏ぶりは見ていてこちらも楽しくなって来ますね)。批評的なことも少しは記したが、これは細かい指摘がどうこう、というところを超えた演奏に思える。それは当日聴かれた方なら等しく思うに違いない。

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(2018/4/15)