Back Stage|音楽家、観客と「感動を・ともに・創る」|山田美輪子

音楽家、観客と「感動を・ともに・創る」

text by 山田美輪子( Miwako Yamada)

ヤマハホールは銀座7丁目に立つヤマハ銀座ビルの中にある333席の小ホールです。2010年のビルの建て直しと共に、音楽専用のホールとして生まれ変わりましたが、その歴史は古く、1953年(昭和28年)この地に「山葉ホール」が誕生して以来60余年、巖本真理さん、井口基成さん、齋藤秀雄さんなど日本の音楽界を築いてきた方たちが舞台に立たれてきました。ホールのリニューアル後に出演いただいている音楽家の中でも、以前のホールでの発表会やコンクールの想い出を語ってくださる事が少なくありません。例えば、今年7月7日にリサイタルを控えた小川典子さんは、学生時代に演奏された想い出の曲、モーツァルトの『ピアノ・ソナタ第3番』やリストの『ラ・カンパネラ』を選んでくださり、再び演奏されます。半世紀以上にわたり、多くの音楽家、音楽愛好家の皆様に支えられてきたのだと日々実感します。

新しいヤマハホールは、「アコースティック楽器に最適で豊かな響きを持つホール」として楽器メーカーならではの技術を集めた音響設計がなされています。音が降り注ぐような感覚が得られる豊かな残響、ピアニッシモでも楽器の持つ音像が際立つ空間、そしてどの客席からもステージがよく見えるよう計算されたステージと客席の一体感が特徴です。
また、木材には楽器と同じ素材を使用し、側壁はピアノやギターに使われるマホガニー、舞台背面の壁はヴァイオリンやギターに用いるメープルなど、実際の楽器に使われる木材がちりばめられています。そのひとつひとつが、日々奏でられる音楽や観客の熱気、拍手に触れ、ホールがまるでひとつの大きな楽器のように音が成熟していくのも楽しみのひとつです。オープン以来度々出演くださる音楽家たちからは「できた当時と比べ、音がまろやかに変わってきたね」とコメントいただくこともあり、ホールを育て、成長を共に見守ってくださっており大変幸せな事です。

主催公演の「ヤマハホールコンサートシリーズ」では国内外の最高峰のクラシック音楽から、タンゴ、ボサノヴァの巨匠を招いた企画など、多彩なラインナップで幅広い音楽ファンに来場いただいています。その特徴の一つは、音楽家と共にオリジナリティのある内容を作り上げる事です。音楽家のアイデアや創造性を活かし、基本的には初挑戦となるような独自の内容の企画を心がけています。新しい挑戦にはリスクが伴いますが、一方で喜びも大きく、過去にはヤマハホールで初めて共演したデュオやトリオの公演がきっかけとなり、その後他のホールで同じ公演を行うようになった例がいくつも存在します。その点でオリジナリティを追求することに対し、意義を感じています。音楽家の方、そして音楽ファンのお客様と共に「感動を・ともに・創る」というのが私たちの思いです。

中でも、2017年度シーズンの最後を飾る、「J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会」は、是非ご注目いただきたい企画です。以前にも《ブランデンブルク協奏曲》は4番のみを工藤重典さん、アンドラーシュ・アドリアンさんによる2本のフルートと弦楽アンサンブルで行い、大変好評を得ました。
ヤマハホールの魅力の1つは、ステージと客席の距離感が近く、演奏者の音や息遣いを間近に感じていただける親密さです。まるで宮廷のサロンで演奏会を開いて聴いているような雰囲気で、近い距離感で本格的な室内楽を楽しんでいただきたい、そんな思いから取り上げたのが、この《ブランデンブルク協奏曲》です。
そこでバッハ・ブラームスに造詣が深く、全曲演奏会のような大きなプロジェクトにも多く取り組まれている堀米ゆず子さんにご相談しました。掘米さんはバッハの歌心、構成力、知性に大変魅力を感じておられ、ちょうどバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全集をリリースされた所でした。彼女もまた、ヤマハホールに特別な想いをお持ちくださる音楽家の1人です。「子供の頃、おさらい会でよく演奏し、楽屋や2F席までよく走り回りました。その頃同じく、久保田良作先生の門下でいらした皇太子様、皇后様を眩しくお見かけした場所でもあります」と語ってくださいました。

堀米さんと、まずは要となるオーボエのパートをご相談し「気心が通じ、尊敬している古部賢一さんに是非」と、お願いすることにしました。バロック・オーボエも演奏され、バッハへの造詣が深い古部さんはまさに適任でしょう。「オーボエはバロック時代に最初の黄金期を迎えましたが、それにはバッハが大きく影響しています。彼がオーボエをオーケストラの中で核になるように扱ったことがオーボエの重要性を高め、それが後にモーツァルトやハイドン、シューベルトといった音楽家に引き継がれているのです。その背景から、オーボエ吹きにとってもバッハは特別な作曲家です。」と、古部さんには二つ返事で快諾いただきました。
その後、お二人が厚い信頼を寄せる演奏家、そして期待を寄せ、「共演してみたかった」若い世代の演奏家を選びました。そこで集ってくださったのが安田謙一郎さん、山口裕之さん、池松宏さん、高橋敦さん、曽根麻矢子さん、そして2014年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール第2位となった青木尚佳さんや、米元響子さん、大江馨さん、日橋辰朗さん、福士マリ子さんなど様々な世代のアーティスト達です。「皆、予定調和ではなく、舞台上で一緒に新しいものを生み出せる人。」と古部さんが語られるとおり、堀米さん、古部さんを中心に、一期一会のアーティストたちの共演で新たな感動が生み出されるのが楽しみです。
いささかまだ先ですが、2018年3月24日はきっと次の桜が咲く頃でしょう。ちょっとおめかしをして春の銀座へおでかけされませんか?是非お気軽に足をお運びください。

山田美輪子(ヤマハ株式会社)

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公演情報
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会
2018年3月24日(土) 開場13:30 開演14:00
https://www.yamahaginza.com/hall/event/2849