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脇園彩 メゾ・ソプラノ リサイタル|藤堂清

脇園彩 メゾ・ソプラノ リサイタル  
Aya Wakizono Sings Rossini 
ミケーレ・デリーア, ピアノ 

2024年3月1日 紀尾井ホール  
2024/3/1 Kioi Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 

<演奏>        →foreign language
脇園彩,メゾ・ソプラノ
ミケーレ・デリーア, ピアノ
<プログラム>
G.ロッシーニ:
歌劇《湖上の美人》より“おお暁の光よ”
ひどい女
吟遊詩人
歌劇《イングランドの女王エリザベッタ》より“私の心にどれほど喜ばしいことか”
約束
誘い
歌劇《湖上の美人》より“胸の想いは満ち溢れ”
歌劇《ビアンカとファッリエーロ》より“アドリアのために剣を取るなら”
歌劇《オテッロ》より“柳の歌〜祈り”
《老いの過ち》第9巻より “我が最期の旅のための行進曲と思い出” (ピアノソロ)
歌劇《マホメット2世》より“神よこの危機のさなかに”
歌劇《ビアンカとファッリエーロ》より“お前は知らぬ、どんなにひどい打撃を”
【アンコール】
G.ロッシーニ:歌劇《セビリアの理髪師》より“今の歌声は”
G.ロッシーニ:歌劇《イタリアのトルコ人》より“これより馬鹿げたことはないわ”
V.ハーバート:Art is calling for me

 

ロジーナ(《セビリアの理髪師》)やアンジェリーナ(《チェネレントラ》)などのオペラ・ブッファの役を得意としている脇園だが、この日は同じロッシーニでもオペラ・セリアからのアリアと歌曲によるプログラム。これらのオペラのうち《ビアンカとファッリエーロ》は今年の夏のペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルで彼女がファッリエーロを歌うことが決まっており、また《イングランドの女王エリザベッタ》のエリザベッタは10月にパレルモのマッシモ劇場でのロール・デビューが予定されている。

プログラム前半は、《湖上の美人》の冒頭に歌われる“おお暁の光よ”から始まる。ロッシーニの作品でアリアとして歌われる曲には、コロラトゥーラの技巧をふんだんにちりばめたものが多いが、この曲は美しい旋律が特徴。脇園のレガートのなめらかさ、息の長さが生きる。
続く2曲の歌曲〈ひどい女〉と 〈吟遊詩人〉は、ロッシーニがナポリのサン・カルロ劇場のためにオペラ・セリアを作曲していた時期の作品。前者はオペラ・アリアを思わせるところもある充実した作品。脇園はゆったりとしたところ、細かな動きなどていねいに歌う。
《イングランドの女王エリザベッタ》の“私の心にどれほど喜ばしいことか”は、エリザベッタが愛するレイチェステルの凱旋を喜び歌う。アジリタを用いた技巧的な曲、音域的にも幅広いものがあり、それを難なく歌う脇園に大きな拍手と声援がつづいた。
前半の最後は《湖上の美人》のフィナーレ“胸の想いは満ち溢れ”。反乱軍の首領の父と恋人が許されたことを喜び、王への感謝を歌う。広い音域の曲で装飾も多く加わる。彼女の歌唱能力を十二分に発揮できるもの。たっぷり歌うところでの響きの美しさ、高音から低音にころがす部分での粒ぞろいの声。会場全体を巻き込んでいった。

後半はピアノ独奏をはさんで、オペラ・アリア4曲。
まず、《ビアンカとファッリエーロ》からファッリエーロの歌う“アドリアのために剣を取るなら”。低音から高音へ、高音から低音へ、細かな音の動きの連続、超絶技巧の繰り返しといった趣。それを苦も無く乗り越えていく。
続く、《オテッロ》よりの“柳の歌〜祈り”は、対照的にしっとりとした表現が求められる。ゆったりと歌われる中で伸ばした音が揺れることなく、スーッと響いていく。言葉が見事にそれにのる。技巧的な曲と違う歌い方を実現してみせてくれた。
《マホメット2世》より“神よこの危機のさなかに”も死を覚悟した神への祈りの曲であり、やはりゆったりとした曲想を活かす表現力が必要となる。彼女の磨いてきたなめらかな音の流れが美しい。こういったタイプの曲を聴かせるのは、技巧とは別の技術がいるが、それを十分に習得していることを示した。
最後は、《ビアンカとファッリエーロ》より“お前は知らぬ、どんなにひどい打撃を”。こちらは、多彩な装飾技法を必要としており、いかにもロッシーニといった技巧的な曲。華やかにプログラムを締めくくった。

アンコールは、ロッシーニのオペラ・ブッファから2曲と、〈Art is calling for me〉(間にロッシーニの断片を差し込んで)を歌った。本編とは違いリラックスしていたように感じた。
脇園の技術的な完成度とともに、表現力の充実を感じることができたリサイタル。
ミケーレ・デリーアのピアノが曲と歌手に寄り添ったものであったことも付記しておきたい。

(2024/4/15)

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Aya Wakizono Sings Rossini
Michele D’Llia :Piano
G. Rossini:
“O mattutini albori” from La donna del lago
Beltà crudele
Il Trovatore
“Quant’è grato all’alma mia” from Elisabetta Regina d’Inghilterra
La promessa
L’invito
“Tanti affetti in tal momento” from La donna del lago
“Se per l’Adria il ferro strinsi” from Bianca e Falliero
“Canzone del salice〜Preghiera” from Otello
“Marche et Réminiscences pour mon dernier voyage” from Péchés de vieillesse
“Giusto ciel in tal periglio” from Maometto II
“Tu non sai qual colpo atroce” from Bianca e Falliero
(Encore)
G. Rossini; “Una voce poco fa” from Il Barbiere di Siviglia
G. Rossini; “Non si dà follia maggiore” from Il Turco in Italia
V. Herbert; Art is calling for me