東京二期会オペラ劇場「トスカ」|藤原聡   

東京二期会オペラ劇場《ローマ歌劇場との提携公演》 
ジャコモ・プッチーニ:『トスカ』 

2017年2月18日 東京文化会館大ホール 
Reviewed by 藤原聡( Satoshi Fujiwara) 
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi) 

〈スタッフ〉
指揮:ダニエーレ・ルスティオーニ
演出:アレッサンドロ・タレヴィ
舞台美術:アドルフ・ホーエンシュタイン
照明:ヴィニチオ・ケリ
合唱指揮:佐藤宏
舞台監督:村田健輔
児童合唱指揮:金田典子

〈キャスト〉
トスカ:木下美穂子
カヴァラドッシ:樋口達哉
スカルピア:今井俊輔
アンジェロッティ:長谷川寛
堂守;米谷毅彦
スポレッタ:坂本貴輝
シャルローネ:増原英也
看守:清水宏樹
牧童:金子淳平(NHK東京児童合唱団)
合唱:二期会合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
管弦楽:東京都交響楽団

 

ルスティオーニ指揮による二期会のプッチーニ、と言えば2014年4月の『蝶々夫人』の成功が語り草となっている。この時がルスティオーニの日本デビューであったが、ここで日本の聴衆は当時若干30歳そこそこであったこの指揮者のオペラ指揮者としての類まれなる逸材ぶりを認識したのだった。そして、今回3年ぶりに再び二期会公演に登場。演目は指揮者自身が「最も好きなオペラ」と語る『トスカ』。歌手はダブルキャストであるが、4回公演のうち第1キャストが歌う18日を聴いた。

結論から記せばこの公演は大きな成功を収めたと言えるが、その要因の大きな部分はルスティオーニにあったと思う。このオペラの指揮としてはテンポが速い方に属すると思うのだが、何より優れているのがその熱いカンタービレと品格(決してオケを咆哮させないのに、それでいて素晴らしく迫力がある)、歌手のフレージングに瞬時に見事に同化するサポートぶり、登場人物の心理的な駆け引きを余さず掬い取るニュアンスの豊富さ(第2幕でのスカルピアとトスカの駆け引きの場面は特に秀逸と思う)…。このような具合であるから、この日の『トスカ』を聴いただけでルスティオーニのオペラ指揮者としての天性の才能が余りに明確に理解出来てしまったのだ。都響もまるで普段からピットに入っているのか、と思わせるような演奏を聴かせてくれたのも驚きである。熱くてしかも整然としている。つまり、プッチーニの筆の冴えがいやが上にも聴き手に突き刺さる。

歌手陣では木下のトスカがどう考えても頭一つ抜きん出る。声もさることながら、他の人たちに比べてもその表現力がずば抜けているように思う。これに比べると、カヴァラドッシの樋口は美声ながら声量が足りずいささか厳しいか。ちょっと高音が苦しい場面も散見された。<星は光りぬ>もいまいち高揚感と陶酔感に欠ける。木下に次いで見事だったのがスカルピアの今井で、単なる威圧感の表出のみならず、人間的で落ち着いた知性をも感じさせる歌。スポレッタの坂本は声が全く出ておらずに非常に弱々しかったが、体調でも悪かったのだろうか。

舞台美術は1900年の初演時のデザイン画を元にしたもので(プッチーニ自身ももちろん目にしている)、非常に写実的かつオーセンティックなものだ。音楽の邪魔をしないので素直にプッチーニの音楽に浸ることが出来るのだが、特に第1幕での聖アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会内部美術は特筆に価する。演出も極めてオーソドックスで、これも音楽に沿った自然なものと映った。

最後に改めて振り返れば、この公演成功はどうしたってルスティオーニに多くを負っている。他の要素が「普通に良い」とすれば、指揮は「圧倒的に良い」というほどの差異に思われる。別項にて筆者が書いた都響定期公演でのルスティオーニも眩いほどの才能を感じさせたし、今後可能な限りこの指揮者の実演に馳せ参じるしかない。

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