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東京フィルハーモニー交響楽団 第1030回定期演奏会 |瀬戸井厚子

東京フィルハーモニー交響楽団 第1030回定期演奏会
Tokyo Philharmonic Orchestra, The 1030th Subscription Concert 

 

2026年5月13日   サントリーホール 大ホール
2026/5/13  Suntory Hall (Main Hall)
Reviewed by:瀬戸井厚子 (Atsuko Setoy)
Photos by: 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団 

〈演奏〉
指揮:アンドレア・バッティストーニ
ソプラノ:高橋維
東京フィルハーモニー交響楽団 

曲目
シューマン/バッティストーニ編曲:『子供の情景』[世界初演]
マーラー:交響曲第4番 

 

『子供の情景』の第1曲が始まった途端、つい口ずさみそうになるのをぐっとこらえ、改めて意識を耳に集中する。長い年月耳の奥底まで馴染んできた旋律が聞こえると反射的に口ずさんでしまうのはわが悪癖の一つだ。そんなこととは関わりなく音楽は快調に進んでゆく。優しく多彩につぎつぎ展開されてゆく曲たち。 

オーケストラの、指揮者、各奏者が、語りかけてくれている、わたしに、という感覚が生じる。「シューマンの音楽は常に何かを語りかけ、秘密めいた物語をほのめかします」と綴るバッティストーニ(東京フィルハーモニーのプレスリリースより)による編曲・演奏は、十全に彼の意図を実現していた。 

特に感じたのは、各曲の音の充実ぶりである。このピアノ曲の管弦楽版は昔からあって、5歳の筆者が初めて(当時のSPレコードで)聴いた「トロイメライ」も、主旋律は弦楽器の音だったと記憶するのだが、今回、優しさのうちにありつつ充実の極みに至っている音・音楽に、感服した。編曲者自身の指揮による世界初演に、まことにふさわしい出来栄えであった。 

マーラーの交響曲第4番にも、すうっと耳を捉えられた。素直に付き随っていける音楽。心地よい響きに全身をゆだねた思いで聴いていると、耳ばかりか眼もひらかれていく気がする。 

第4楽章の、清澄さの中に華やぎもある高橋維のソプラノは、まさに空高くをわたってゆくよう。その軌跡に添うべく耳傾けているうちに、自分が一個の共振体であるかのごとき感が得られた、と言うか恵まれた。美しさが時空を満たす、その幸福感。 

会場に共感と歓びがみなぎり、鳴りやまぬ拍手に何度も何度も舞台に呼び返される演奏者。賞賛と感謝を聴衆はしっかり共有していた。いささかはアンコールへの期待もあったかもしれないが、それは物の数でなく、大歓呼は純粋そのものだった。コンサートマスターの折り目正しい一礼によって演奏会の完了が告げられ、晴れやかな表情で席を立ってゆく聴き手たちの満足感には、少しのゆるぎも無かった。 

東フィル サントリー 0513 

(2026/6/15)  

 

[performers]
Conductor: Andrea Battistoni 
Soprano: Yui Takahashi
Tokyo Philharmonic Orchestra 

[program]
Schumann (orchestration by Battistoni, world premiere): Kinderszenen (Scenes from Childhood)
Mahler: Symphony No. 4 

 

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瀬戸井厚子(Atsuko Setoy)
フリーランスの編集者として人文社会系の図書編集に携わる。
演劇集団・合唱団に所属して舞台活動も続けている。