私の10年|野望宣言|長澤直子
野望宣言
Text by 長澤直子(Naoko Nagasawa)
「10年を書け」というお題は、10年前に比べて、自分がどんなに進化したかということを書けということだと思うが、進化どころか全くその逆で、後退しているとしか書きようがない。10年どころか20年、私は益々後退を続けるばかりである。
そうだ、20年前の2005年の3月末、私はOLを辞めた。写真家としての私の道のりはそこから始まる。正しく言えば、その数年も前から写真を撮ってはいた。しかし、最初から写真を仕事にしようと思ったわけではなかった。ただオペラが好きだった。それで、オペラに関わる仕事を探していた。
更に付け加えると、オペラに関わると言うよりも、オペラを有名にしたかった。自分の手(?)で有名にしたかった。それにしてもいろいろな選択肢があるかと思うが、自分は音楽をやるわけではないし、何か書けるわけでもない。要するに写真以外に自分が関われそうなことが他に見つからなかったわけだ。それで写真を始めた。もちろん、写真が得意だったわけでもないし、仕事になりそうな環境も伝手もない。では、何もないところから一から音楽の修行を始めるのか、それとも音楽についての執筆活動をするのか。そんなことよりも写真の方がずっと身近に思えただけのこと。ただそれだけのことで、それで生計を立てようなどとは微塵も思っていない。
ところがどうだろう。これで仕事を辞められる(オペラに専念できる?)と思ったのも束の間、いざ写真を撮ろうと思っても、素人でオペラを撮れるなどというところは、どこにもないではないか。というわけで、プロとしてやっていくしか道はなかった。
それから20年が経った。今、私はプロとしてオペラを撮っているだろうか。プロフェッショナルという言葉は、姿勢を表す言葉ではないかと思う。そういう意味では、自分は一流であると断言しても良い。しかし、姿勢と仕事の入りとは、全くの別問題だ。では、オペラを撮影する機会が増えたのかどうか?オペラ写真家だと名乗っていても、それは何の効力もないし、希望して撮れるとか、順番を待てばチャンスが来るようなものでも全くないのだ。むしろ、ある程度キャリアがあり、信頼に足る立ち位置の現在の方が、却って身動きを取るのが難しい場合もある。この文章でさえ「長澤がこんなこと書いてるぞ・・・」などと言われかねない。
以上のような理由で「むしろ後退している」と書いたのだ。脱OLして20年が経ち、私も充分大人と言える年になった。最近は、いつやめようかいつやめようか、そのことばかりが頭を過る。
当初叶えたいと思っていた夢。オペラを有名にしたいという夢。夢の中にあるのは、あの彼女やあの彼が有名になるという、他人の夢を一緒に追う夢。その彼女たちを追いかけて撮っているという自分自身の夢。それが何一つ叶っていないことに愕然とする。
それにしてもオペラを撮るという事は、面白くて中々止められないことでもある。何しろ今まで自分が追い掛けていた人たち(いわゆる推し)が、向こうから自分のファインダーの中に入ってくるのだから。だからやっぱりやめられない。自分は全く進化していない。寧ろ後退していても、やっぱりやめることはできない。ただそういう理由だけで続けている。
でもこの先は、もうちょっとやり方を変えてみようとは思う。少しでも夢に近づきたいもんね。いや、夢という表現は好きではないし、野望と宣言しておく。
(2025/10/15)
