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三つ目の日記(2025年2月)|言水ヘリオ

三つ目の日記(2025年2月)

Text by 言水ヘリオ(Kotomiz Helio) : Guest

2025年2月1日(土)
高田馬場のAlt_Mediumで「shimadamasafumi|Archives」を見る。大きな、海の写真の上に空の写真。それから、ねじで封がされている金属製の箱が壁に一列と白い台に数点。その間に椅子が3脚並んでいる。
椅子に腰かけて写真を眺める。そして、しばらくのあいだ目を閉じる。写真の残像が見えるのだろう。そう思い込んでいた。目を開けると、残像とは異なる海があらわれた。目を閉じた瞬間、あるいは閉じているあいだ、像は似たものへと変換されていたようである。
箱のなかには、写真のプリント、プリントに用いたネガフィルム、ドキュメントが収められているらしい。箱の前面には、それらがなにを記録したものか、あるいはいつ記録されたものかを示す文字が英語で刻印されている。これらの作品を所有した人がねじをはずし開封するかどうかはその人にゆだねられている。ただし「箱の中を見た場合、見る前には戻れないことをご留意ください」(作者のことば)とある。ものとして作品として情報として目の前に示され、それを見ることはできないというこの状況をしばらく眺める。ねじで留めてある側のことが気になり何度も覗き込む。(写真はAlt_Medium提供)

 

2月5日(水)
突然消えてなくなったものが、やかんのなかから出てきた。

 

2月17日(月)
今朝訪ねてきたのは誰ですか。起きて玄関から覗いたのに、呼び鈴を鳴らしただけで帰ってしまいました。数時間後、ふたたび呼び鈴が鳴りましたが、もう玄関には行きませんでした。数時間後、うたた寝している最中の瞼の裏に、高速のスライド映写機がなにかを映し出します。でも速すぎてなにも見えませんでした。

 

2月20日(木)
12月に入院した母が退院。介護のあれこれをひとまず済ませ、ぎりぎり終電に乗る。近所で牛めしを食べて帰宅する。

 

2月21日(金)
ひと息つきたくて、夜、近所のカレー屋に行き食事する。二人用のテーブルに氷と水の入った大きなグラスが置かれる。テーブルの向こうで、店員が棚の片付けをしている。味わうというよりは、必要なものをすばやく摂取する感じで、カレーをスプーンですくい米に乗せ、口へと運ぶ。ほかに客のいない店内。壁には囲むようにヒマラヤの山の風景が描かれている。調理の店員とホールの店員が話をしているが内容はわからない。

 

2月24日(月)
溝口健二の『残菊物語』を見る。物語をたどりつつ、どう撮られているかを観察する。そして、見ながらほかのことを考えている。

 

2月25日(火)
母が再入院。病院と家との行き来などで夕方になる。駅のそばでカレーライスを食べて帰宅。洗濯。原稿の校正。

 

2月26日(水)
久しぶりに展覧会に出かける。駅構内で立ち食いそば。外苑前駅で地下鉄を降りる。
空間にできモノ 山添潤彫刻展」。黒っぽい石の彫刻。入ってすぐの芳名台の上に小さな作品が4つ。そのほか、ギャラリーの空間には2点の大きな作品が離れて置かれている。それらは立ち上がるなにものかのからだのようにも見える。その存在を感じ、作品の表面を目で追う。全体を覆う細かく刻まれたような跡、そして、ところどころに見られる傷やかさぶたのような跡。
すこし移動すると手前の作品の向こうに奥の作品が見え隠れする。奥へと進む。作品の斜め横に立ち、無言の声を聞こうとする。時が経つ。その後、ゆっくり一周してさきほどの作品の方を眺める。会場入り口のガラスから日が入ってすこし逆光になっている。ふたつの大きな作品の間を、何回か往復する。
からだのように。だが、からだとは決まっていないなにかのことを思ったりもする。もっと硬質ななにか。掲示された紙に、作品タイトルとして「石の軀あるいはできモノ」とある。
渋谷まで歩く。今日はもっと薄着でもよかった。首が汗ばむ。

 

2月27日(木)
パンを食べる。今日最初の食事。はちみつが一滴皿にこぼれる。ある文献の初出年について調べる。そのほか、いろいろなことを確認。深夜、一枚の便箋に重い内容の手紙を書く。速達の出し方を調べて投函する。

 

2月28日(金)
きゃべつ4分の1個を蒸し焼きにして食べる。ホットケーキを食べる。牛乳を飲む。黒豆茶を飲む。

 

〈写真掲載の展示〉
◆shimadamasafumi|Archives 会場:Alt_Medium 会期:2025年1月31日〜2月12日
◆空間にできモノ 山添潤彫刻展 会場:トキ・アートスペース 会期:2025年2月18日〜3月2日

(2025/3/15)

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言水ヘリオ(Kotomiz Helio)
1964年東京都生まれ。1998年から2007年まで、展覧会情報誌『etc.』を発行。1999年から2002年まで、音楽批評紙『ブリーズ』のレイアウトを担当。現在は本をつくる作業の一過程である組版の仕事を主に、本づくりに携わりながら、2024年に『etc.』をウェブサイトとして再開、展開中。

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