DOWLAND Vox Poetica CD「Dowland」発売記念コンサート|大河内文恵
DOWLAND Vox Poetica CD「Dowland」発売記念コンサート
DOWLAND Vox Poetica CD release concert
2023年4月20日 ムジカーザ(東京)
2023/4/20 MUSICASA
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
写真提供:オフィス・ヴォクス・ポエティカ
<出演> →foreign language
Vox Poetica:
佐藤裕希恵(ソプラノ)
瀧井レオナルド(リュート)
<曲目>
ジョン・ダウランド:
愛の神よ 教えてくれ
しばし休んでくれ 思い煩いよ
暗闇に私をすまわせて
言葉で彼女に訴えるべきか
ジョン・ダウランドのガリアード*
百合のように白い顔で
時は静かに立ち止まり
未開の森(作者不詳)*
彼女はいいわけできるのか
~休憩~
プレリュード*
悲しみよ とどまれ
目覚めよ 甘き愛
レディー・ハンズドンのパフ*
あっちへ行け うぬぼれた奴ら
ウィンター夫人のジャンプ*
そんなに意地悪くするのなら
ラクリメ[涙のパヴァーヌ]*
おいで もう一度
~アンコール~
ダウランド:今こそ別れ
*リュートソロ
有節歌曲とはこんなに面白いものだったのか?!と目を拓かされた。同じ旋律を繰り返し歌っているはずなのに、芝居を見ているかのようにどんどん情景が変わっていく。古い時代の有節歌曲は繰り返し回数の多いものがあり、最初は面白く聴いていてもだんだん飽きてくることが無きにしも非ずだが、どんどん惹きこまれて、え?もう終わり?と感じるなど、思いもしなかった。
最初に感じたのは、6曲目の《百合のように白い顔で》。8番まである歌詞が1回1回違って聴こえ、次はどう来るのだろう?とワクワクが止まらない。こんなにドキドキしながら有節歌曲を聴いたことは今までなかった。譬えが適切かどうかわからないが、少し前の「ブラッシュアップライフ」というテレビドラマを思い出した。死んでしまった主人公が前の人生の記憶を持ったまま本人に生まれ変わり、何度も同じ人生をやり直すというストーリーで、前の人生での失敗を少しずつ修正しながら生き直す。「また生まれるところからか」と見ていたはずがいつのまにか「次はどうくるのか?」と展開が楽しみでたまらなくなった。
現実には生まれ変わることはないけれど、考えてみれば一見なにも変わらないように見える日々の積み重ねというのは、実は縮小版ブラッシュアップライフだ。この歌では、欺かれたやるせなさが寄せては返す波のようにあっちからもこっちからも押し寄せ、その波1つ1つが同じ旋律で繰り返すことで増幅していく。これは有節歌曲でしか表現し得ない世界なのだ。
ソプラノの佐藤とリュートの瀧井のデュオVox Poeticaの2枚目のCDである『Dowland』の発売を記念して開催されたコンサート、会場で先行販売されたCDが開演前から飛ぶように売れていた。1枚目のCD『テオルボと描く肖像』に続く、待望の2枚目ということもある。
CDに収録されている曲はすべて披露された上で、1曲だけ他の曲を加えたセットリストは、CDとは曲順を入れ替え、考え抜かれた構成になっていた。
後半5曲めの《あっちへ行け うぬぼれた奴ら》は、ダウランドというと憂いのある旋律を思い浮かべがちであるなか、意外にも明るい曲調をもつ。この曲も5番まで歌詞がある有節歌曲で、同じ旋律を歌いながらどんどん情景が変わっていく。聴きながら役者の演技プランの話を思い出した。優れた役者は同じ台詞にいくつもの演技プランを持ち、瞬時にその中から選び取っていくものらしい。それは多くの抽斗を持つと同時に選択眼の鋭さも重要だ。佐藤の歌にはそれを思わせるものがあった。
CDには5曲のリュートソロ曲が収録されており、それらに未収録の1曲(未開の森)を加えた6曲が演奏された。今回のプログラム冊子の表紙にCDと同じ市川五月撮影によるリュートの写真が載せられていたが、瀧井のリュートがなければ成立しないアルバムであることが演奏からもよくわかる。ソロ曲のみでなく、たとえば佐藤が「本日一番のセクシーソングです」と紹介した《そんなに意地悪くするのなら》では、リュートの重要性が強く感じられた。
何と言っても白眉は最後の《おいで もう一度》だろう。本日の曲目の中で最もよく演奏される曲で、最近ではカウンターテナーの演奏会でよく耳にする曲でもある。甘い旋律そのものの魅力とリュートの伴奏との絡みの絶妙さ、そして何より歌詞の3行目のたたみ掛けるさまに心を奪われたこと、涙したことが何度あったことか。
6番まである歌詞を時にキュートに、ノーマルな感じで、ストレートに歌い分け、とどんどん変わっていくので、次は何?と楽しみになる。一日一日は毎日違う日、だからその一日がどの日もいとおしい。そんなメッセージを感じた。
(2023/5/15)
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<performers>
Vox Poetica:
Yukie SATO soprano
Leonardo TAKIY lute
<program>
John Dowland:
Say love if ever thou didst find
Rest a while you cruel cares
In darkness let me dwell
Shall I strive with words to move
John Dowland’s Galliard
White as lilies was her face
Time stands still
The woods so wild(anon.)
Can she excuse my wrongs
–intermission–
Preludium
Sorrow stay
Awake sweet love thou art return’d
Lady Hunsdon’s Puffe
Away with these self-loving lads
Mrs. Winter’s Jump
Lasy if you so spite me
Lachrimae Pavan
Come again
–encore—
Dowland: Now o now