クス・クァルテット ベートーヴェン・サイクルⅡ|藤原聡
サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン2019
クス・クァルテット ベートーヴェン・サイクル Ⅱ
Suntory Hall Chamber Music Garden
KUSS QUARTETT – THE BEETHOVEN CYCLE Ⅱ
2019年6月5日 サントリーホール ブルーローズ
2019/6/5 Suntory Hall Blue Rose (Small Hall)
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)撮影:6月11日
<演奏> →foreign language
クス・クァルテット
ヤーナ・クス(第1ヴァイオリン)
オリヴァー・ヴィレ(第2ヴァイオリン)
ウィリアム・コールマン(ヴィオラ)
ミカエル・ハクナザリアン(チェロ)
<曲目>
ベートーヴェン:
弦楽四重奏曲第7番 ヘ長調 作品59‐1『ラズモフスキー第1番』
弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 作品59‐2『ラズモフスキー第2番』
弦楽四重奏曲第9番 ハ長調 作品59‐3『ラズモフスキー第3番』
2011年からスタートしたサントリーホールブルーローズ(小ホール)における室内楽の祭典「チェンバーミュージックガーデン」。この催しの柱となるのが毎年異なった団体を招いて行なわれるベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏だろう。過去ヘンシェル・クァルテットやミロ・クァルテットら、そしてわが国からはクァルテット・エクセルシオも参加した当企画だが、今年は結成25年を迎えるドイツのクス・クァルテット。団体のコンセプトによって日毎のプログラミングは当然変わって来る訳だが、今年のクスは作曲順、と正統的な方法を採る。しかし最終日のまさに掉尾に現代作曲家のブルーノ・マントヴァーニによる弦楽四重奏曲第6番『ベートヴェニアーナ』―ベートーヴェンへのオマージュ作品である―を置くという趣向を見せていてこれが絶妙なアクセントとなっているように思う。とは言え、今回筆者が当企画の全5回のコンサートで参加出来たのはここに記す5日の回のみ。時間が許せば全回参加したかったのはやまやまではあるが…。ともあれ以下に5日の演奏について記す。
クスの実演には今回初めて接するが、思い切ったパウゼやリタルダンドを用いたりと思いの他個性的な演奏をする団体と思える。第1ヴァイオリンのヤーナ・クスには独特の音色と節回しがあって面白いが、但しこれが音楽にいささかの不自然さや停滞感をもたらす場合もあって諸刃の剣。また、4名のアーティキュレーションや音量バランスが意外にも揃っていない場面が散見され(単に調子が悪かっただけなのか…)、何か落ち着きに欠けた印象がある。当節よくある磨きに磨かれた精緻なアンサンブルでタイトに切り込む、というタイプの演奏ではなく、良くも悪くも大らかな演奏を行なう団体なのかな、というところ(この日1回のみの実演では断定的なことは言えぬが)。上に記した印象は前半の『ラズモフスキー第1番』『同第2番』(殊にこちら)で目立ち、その精力的な演奏に独自の魅力を感じながらもどうしても「粗」が目立ってしまったのだが、後半の『ラズモフスキー第3番』では技術的な安定感を取り戻し、ここでは4名の個性がそれぞれに良い方向で発揮されていた。特に両端楽章の推進力には目を瞠らされる。
精緻さをミリ単位まで追い詰めたような演奏をするベルチャSQやパヴェル・ハースSQらのいわば「最先端」のクァルテット演奏を知ってしまった耳からすれば、この日のクスの演奏は「センチ単位」というような演奏ではあったが、しかし先述したようにメンバー4名はそれぞれに味のある演奏を行ない、それが4名の集合体となった際に「融和し過ぎない」ことによる量感と迫力に結びつき、そこには独特の面白さが確かにあった。これもまた弦楽四重奏の奥深さというべきか。
関連評:サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン2019 クス・クァルテット ベートーヴェン・サイクル V|大河内文恵
(2019/7/15)
<Performers>
String Quartet: Kuss Quartett
Vn: Jana Kuss
Vn: Oliver Wille
Va: William Coleman
Vc: Mikayel Hakhnazaryan
<Program>
Beethoven: String Quartet No.7 in F major, Op.59-1
Beethoven: String Quartet No.8 in E minor, Op.59-2
Beethoven: String Quartet No.9 in C major, Op.59-3