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私の10年|踊り続ける不動の女神に笑みを求められたら|チコーニャ・クリスチアン

Text & photos by Cristian Cicogna

私の10年?
10年前の自分はあまり覚えていない。
正直に言って、思い出したくないかもしれない。
2015年。いくつだったっけ。
髭に白い毛はほとんどなかったけれども、現在の体重も体形もほぼ同じだ。
そう言えば、元号はまだ平成だった。令和が発表された時の感動は今も覚えている。
世界は変わった。日本も変わった。
2015年には、翌年ドナルド・トランプが大統領になることを誰も確信していなかっただろう。
10年が経って、彼は独裁者になるのではないかと懸念する人は大勢いるけれど。
2018年、15歳のグレタ・トゥーンベリは、「気候のための学校ストライキ」という看板を初めて掲げた。
異常気象が年々に増え続けて、地球の環境崩壊の危機に社会は目を覚ました。
2019年は、私がディミトリス・パパイオアヌーの『THE GREAT TAMER』を執筆して、メルキュール・デザールにデビューをした年だ。
同年にニュージーランドを訪れ、初めて南半球の土地を踏んだ。
2020年になるまで、パンデミックとは定期的に中世ヨーロッパを襲った疫病だと考えていた。まさか21世紀にも世界を直撃するなんて夢にも思っていなかった。
コロナは我々の生活を完全に変えてしまったと痛感している。失ったもの、奪われたものもかなり多かった。
独立国家の領土の併合も市民大虐殺も、歴史書に記された過去の出来事だと信じていた。冷戦時代以来、久しぶりに核戦争という言葉を耳にした。
そして、生成人工知能の発展によって世界は大きく変わろうとしている。
その中で、唯一変わっていないものがある。気まぐれな質(たち)だけど、我々をずっと見守ってくれている。

「踊り続ける不動の女神」

あなたが大人になる準備に大童(おおわらわ)で
空を見上げるのを忘れていても
私は常にあなたの傍にいる
球体のまま 異なる形姿(なりすがた)を楽しみながら
あなたの周りに踊っている

光の女神に 弓の射手
古代ギリシャでは セレネと呼ばれ
ローマ皇帝には ディアーナと名付けられた
あでやかな蜃気楼 猛々しい猟師(かりうど)
身に無垢とエロスの白亜をまとう妖婦
ルネサンスの不滅の名作に登場し
人々の心を魅了する 天下無比の女王

潮汐に君臨し 人々の機嫌を操り
私は凄まじい引力の調教師だ
狼に吠えられ 鬼瓦に脅かされ
アロエの葉縁の棘に刺されても
涙も血の一滴も決して流すまい
ターコイズブルーの晴天に膨らむ
綿雲へと飛び込み 玲瓏(れいろう)たる姿に生き返る

早まる空に眠りから起こされた
ブナの森の縹緲(ひょうびょう)とした雪景色
冬 全力で辺りを照らし
宝石を散りばめた 魔法の絨毯に座り
飛んでいる気分になる
山腹にすがりついた家々の明りが
大文字山のように 曼荼羅を描く

荒野を馳駆する兵馬(へいば)の如き
夜空を翔(か)ける流れ星から身をかわし
宇宙を舞台に 地球が踊り続ける
無音のワルツの拍子に合わせ
私も滅入らずに舞い遊ぶ
そして 月華を咲かせたおかげで
明けの明星から 勝利の栄冠を戴く

寄る辺もなく 淋しい時に
空を見上げ 私を探して
涙をぐっとこらえ
幻想を立ち昇らせる笑みを見せて

2025/10/15