ナタリー・デセイ (ソプラノ) & フィリップ・カサール (ピアノ)|藤堂清
ナタリー・デセイ (ソプラノ) & フィリップ・カサール (ピアノ)
女たちの生きざまの忘れえぬモザイク模様
Natalie Dessay, soprano & Philippe Cassard, piano
<Women’s words>
2022年11月9日 東京オペラシティコンサートホール
2022/11/9 Tokyo Opera City Concert Hall
Reviewed by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh)
<演奏> →foreign language
ナタリー・デセイ(ソプラノ)
フィリップ・カサール(ピアノ)
<プログラム>
モーツァルト:
歌劇《フィガロの結婚》より〈早くおいで、美しい喜びよ〉スザンナのレチタティーヴォとアリア
歌劇《フィガロの結婚》より〈失くしてしまった、どうしよう〉バルバリーナのカヴァティーナ
コンサート・アリア 〈どうしてあなたを忘れよう~恐れることはないわ、いとしいひと〉
歌劇《フィガロの結婚》より〈愛の神よ、照覧あれ〉伯爵夫人のアリア
歌劇《フィガロの結婚》より〈美しい思い出よ、どこへ〉 伯爵夫人のアリア
歌劇《魔笛》より〈愛の喜びは露と消え〉 パミーナのアリア
———————(休憩)———————
ショーソン:歌曲〈終わりなき歌〉
プーランク:歌曲〈モンテカルロの女〉
ドビュッシー:歌劇《ペレアスとメリザンド》より〈私の長い髪が〉 メリザンドのソロ
マスネ:
エレジー (ピアノ・ソロ)
歌劇《ル・シッド》より〈泣け、泣け、わが目〉 シメーヌのアリア
グノー:歌劇《ファウスト》より〈なんと美しいこの姿(宝石の歌)〉マルグリートのアリア
——————(アンコール)——————
エヴァ・デラクア:ヴィラネル
レオ・ドリーブ:歌劇《ラクメ》より〈あなたは私に最も甘い夢を与えてくれた〉
デセイの声が途切れたあとに響きが残る。会場のあちこちからはねかえった音がゆったりと聴き手を包み込む。その美しさ。
大きい声、強い声の歌手はたくさんいるだろう。だが、彼女の声のようにどこをとってもはかないまでの美を感じさせる人は少ない。
オペラの舞台からは2013年にしりぞき、クラシックのリサイタルだけでなく、ミシェル・ルグランとの共演や演劇の舞台に立つなどの多様な活動をしているデセイ。前回2017年の来日の時と較べても、声の状態はより安定感を増している。オペラの舞台で歌い続けるということが、彼女のような歌手にとってもきびしいものであることを示しているようだ。
この日のリサイタル、前半はモーツァルトのアリア、後半はフランス歌曲とフランス・オペラからという構成。
前半最初のスザンナのアリアは、前回の時と同じ趣向でカサールの弾くピアノ・ソナタのフレーズから自然に移行していった。2曲目のバルバリーナのカヴァティーナからは間をおかずに3曲目のコンサート・アリアへと続けた。4曲目、5曲目の伯爵夫人のアリアも経過符を入れてひとまとまりの曲のように演奏。パミーナのアリアは別の曲を前奏のようにして弾き、そこから曲に入っている。デセイだけでなくカサールも演奏する姿で、途中で拍手がおきないように会場をコントロールしている。二人でリサイタルの時間・空間を見事に作り上げている。
前半には《フィガロの結婚》関連の曲が並んだ。「女たちの生きざまの忘れえぬモザイク模様」という副題にふさわしく、3人の女性、スザンナ、バルバリーナ、伯爵夫人のアリアを歌い、その間にスザンナの創唱者ナンシー・ストレースのために書かれ、初演時にはモーツァルトが途中から加わるピアノを弾いたコンサート・アリアをはさむ。バルバリーナの寂しげな曲を本当に大切な「何か」を失くしたように歌ったのに続けられたこの曲、装飾音などデセイの技巧の活かせるもので、聴き応えがあった。持ち役ではなかった伯爵夫人のアリア2曲、通常歌われるものより軽く繊細な表情をもって歌われる。そのピアニッシモの美しさ、おさえたダイナミクスの中での悲しみの表現。
後半のフランスもの、こちらもさまざまな女性の生き方を組み合わせたプログラミングとなっている。プーランクの〈モンテカルロの女〉のカジノにはまり破産し自殺しようとする老女の繰り言、シメーヌの嘆きのアリアなど、彼女にとっては重めの歌を今の声の幅を活かして聴かせた。〈私の長い髪が〉と歌うメリザンドのソロや「宝石の歌」のようにレパートリーとしていた曲は無理なく歌っていく。
テーマを設定し、曲を配置することで、声の限界を超えて表現する、そういったリサイタルのプログラム作りを確立してきていることがうかがえた。オペラでも常に新たなレパートリーを探してきた彼女だが、今度はリサイタルで新たな世界をつくりだしてきている。楽しみに見守りたい。
(2022/12/15)
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<Players>
Natalie Dessay, soprano
Philippe Cassard, piano
<Program>
MOZART:
Le nozze di Figaro, « Giunse alfin il momento~ Deh vieni non tardar » (Susanna’s aria)
Le nozze di Figaro, « L’ho perduta me meschina » (Barbarina’s cavatina)
Concert aria « Ch’io mi scordi di te »
Le nozze di Figaro, « Porgi, amor » (Contessa’s aria)
Le nozze di Figaro, « Dove sono » (Contessa’s aria)
Die Zauberflöte, « Ach, ich fühl’s » (Pamina’s aria)
—————(Intermission)—————
CHAUSSON: La Chanson perpétuelle
POULENC: La Dame de Monte Carlo
DEBUSSY: Pelléas et Mélisande, « Mes longs cheveux » (Mélisande)
MASSENET:
Élégie, for piano
Le Cid, « Pleurez mes yeux » (Chimène’s aria)
GOUNOD: Faust, « Ah, je ris de me voir si belle » (Marguerite’s aria)
——————(Encore)——————
Eva Dell’Acqua: Villanelle
Léo Delibes: Lakmé, « Tu m’as donné le plus doux rave » (Lakmé’s aria)