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スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団 2018東京公演|平岡拓也

スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団 2018東京公演

2018年6月18,25日 サントリーホール 大ホール
Reviewed by 平岡拓也(Takuya Hiraoka)

♪ 6/18
<演奏>
ピアノ:アンナ・ヴィニツカヤ
管弦楽:スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ダニエル・ライスキン

<曲目>
チャイコフスキー:歌劇『エフゲニー・オネーギン』より ポロネーズ
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op. 23
~ソリスト・アンコール~
チャイコフスキー:四季より 4月:ひばりの歌、4月:松雪草
〜〜〜〜
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 Op. 74 『悲愴』
~アンコール~
エルガー:創作主題による変奏曲『エニグマ』より 第9変奏「ニムロッド」

♪ 6/25
<演奏>
チェロ:堤剛(25日)
指揮:レオシュ・スワロフスキー

<曲目>
スメタナ:連作交響詩『わが祖国』より モルダウ
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 Op. 104
~ソリスト・アンコール~
J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009より ブーレ
〜〜〜〜
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 Op. 95『新世界より』
~アンコール~
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番

 

東欧のオーケストラ、スロヴァキア・フィルはこれまで何度も来日しており、指揮者レオシュ・スワロフスキーも都響やセントラル愛知響への客演などで我々には馴染み深い存在だ。この両者の共演ということならばまず鉄板、というところ。そこに加わるのがダニエル・ライスキンという指揮者である。ロシア出身の彼が振るオール・チャイコフスキー・プログラムで来日公演は幕を開けた。

『エフゲニー・オネーギン』のポロネーズに続いて、才媛アンナ・ヴィニツカヤがソロを弾くピアノ協奏曲第1番。ヴィニツカヤは今年2月のソロ・リサイタルを聴いて非常に感銘を受けたのだが、今回のコンチェルトでも磐石の出来。全曲骨太に弾き通し、終楽章コーダの両手オクターヴユニゾンは相当の難所であるが、猛スピードかつ一糸乱れぬ強靭な打鍵で終結へ進むさまは圧巻だ。一方のオケは残念ながら冴えない。管楽器のミスはともかく、弦の音程やフレーズの収斂の雑さが至る所で目立った。後半の交響曲第6番『悲愴』でもオケは復調せず、金管が大音量で圧する箇所は良いが全体的に集中力を欠く演奏。第2楽章の歌謡的主題ではそれなりに鄙びた味を出すが、3楽章以降は一本調子なライスキンの指揮も相まって音楽が上滑りしてしまった。来日直後で歯車が噛み合っていないのか?と最後まで首を傾げながらの終演となり、来日ツアー最終日となるスワロフスキー指揮のプログラムに期待を託した。

25日はすべてチェコ音楽によるプログラム。チェコとスロヴァキアは1993年の「ビロード離婚」以前まで同じ連邦に属しており、さらに歴史を遡っても深い繋がりを有している。チェコ語とスロヴァキア語での会話も可能だというから、スロヴァキア・フィルがチェコ音楽を一つの看板にしているのも自然なことなのだろう。

『モルダウ』冒頭の艶消しの響き、ほのかに翳りを帯びた空気感から18日とは別の団体を聴くようであった。オーケストラとは蓋し生き物である。勝手知ったるレパートリーという点も大きいのだろう、続くドヴォルザークの2品でも管弦楽は雄弁に「しゃべる」。ざらつきを帯びた弦楽器、嬉々として歌う木管楽器。チェコ・フィルにも似た手触りの響きを感じることがあるが、スロヴァキア・フィルはより大らかだ。交響曲第9番『新世界より』では、常任客演指揮者の任にあるスワロフスキーとの呼吸も合っており(公演を各地で重ねたこともあろう)、第2楽章では重めの運びを採りつつもバランスのよい演奏。中プロに置かれたチェロ協奏曲では日本の大ヴェテラン・堤剛が独奏を弾いたが、演奏の綻びは残念ながら看過できるものではなかった。

18日公演の低調に驚き、類似のプログラム(後半の曲目以外共通していた)で聴いた前日のカエターニ/都響が秀逸だったためか?と終演後自問してしまったのだが、25日のスワロフスキー指揮による演奏会では、スロヴァキア・フィルのもつ美質を安定した水準で味わうことが出来た。来日以前にライスキンとの共演機会がどれほど設けられたのかは存じ上げないが、指揮者とオーケストラの呼吸が生煮えのまま本番を迎えてしまった、というのが率直なところではないか。その点、このオーケストラを「無理せず美しく響かせる」技にスワロフスキーは長けていたのだ。

それだけに、である。今回のようなチェコの定番名曲も良いのだが、次回の来日時は願わくば更に突っ込んだプログラム―スークやノヴァーク、モラヴィアのヤナーチェクなど―を用意してはもらえないか。彼らの新たな一面がきっと見られることと思う。

(2018/7/15)