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新国立劇場 ロッシーニ:《セビリアの理髪師》|藤堂清

ジョアキーノ・ロッシーニ:《セビリアの理髪師》
   (日本語字幕付き原語上演)
Gioachino ROSSINI:Il Barbiere di Siviglia
   (Opera in 2 Acts in Original Language with Japanese supertitles) 

2020年2月8,16日 新国立劇場
2020/2/8,16 New National Theatre Tokyo
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 寺司正彦/写真提供:新国立劇場

<スタッフ>        →foreign language
指揮:アントネッロ・アッレマンディ
演出:ヨーゼフ・E.ケップリンガー
美術・衣裳:ハイドルン・シュメルツァー
照明:八木麻紀
再演演出:澤田康子
合唱指揮:冨平恭平
舞台監督:斉藤美穂

<キャスト>
アルマヴィーヴァ伯爵:ルネ・バルベラ
ロジーナ:脇園 彩
バルトロ:パオロ・ボルドーニャ
フィガロ:フローリアン・センペイ
ドン・バジリオ:マルコ・スポッティ
ベルタ:加納悦子
フィオレッロ:吉川健一
隊長:木幡雅志
アンブロージオ:古川和彦
チェンバロ:小埜寺美樹

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団

 

新国立劇場での《セビリアの理髪師》の上演は、開場の翌年1998年を初めとして今回が8回目となる。
2005年以降の5回はヨーゼフ・E.ケップリンガーによる演出が用いられている。プログラムにプレミエの際の彼へのインタビューが再掲載されており、1960年代のスペイン、フランコの独裁が終わりに近づいている時代に設定したと述べられている。ロジーナやベルタ等の支配者という意味でバルトロはフランコと重ねられるだろう。
バルトロ家の家政婦ベルタが舞台上手におかれた娼家を経営していたり、フィガロは子どもたちを使ったスリ団の元締めだったりと、裏の姿も設定されている。
フィナーレで皆が歌うなか、舞台の脇でフランコの肖像画の前に花をつみあげ、隊長が一人頭を垂れている姿があり、古い秩序への哀惜をみせた。演出家がいう「社会構造の変革を前にした『熱い時代』を描くもの」の、変革により消えていく側面を表現したといえるだろう。
台本に書かれていない登場人物も多く、舞台の異なる場所で同時にさまざまなことが起こっていて、何度もみているはずなのだが新たな発見があり、古びることがない。

音楽面に移ろう。
30代前半の若手歌手、アルマヴィーヴァ伯爵のルネ・バルベラ、ロジーナの脇園彩、フィガロのフローリアン・センペイの3人に、ベテランの2人、パオロ・ボルドーニャのバルトロ、マルコ・スポッティのドン・バジリオといった陣容での《セビリアの理髪師》。最終16日の公演は、若手3人の技巧が冴え、会場を熱狂させた。ボルドーニャ、スポッティも安定した歌唱。指揮のアッレマンディが弾みのある音楽で歌手を支えた。
この日バルベラは絶好調、第1幕冒頭のカヴァティーナ<ごらん空がほほえみ>のやわらかでなめらかな歌い口、幕切れの<もう逆らうのをやめろ>での高音のあざやかさ、細かな音の動き、その一粒一粒がキラキラと輝く。ロッシーニなどのベルカント・オペラでの活躍ぶりが納得できる歌唱であった。
センペイの登場のアリア<町の何でも屋>、高音から低音まで安定してよく響く声、早口もピシピシと決まり気持ちよい。ここでは歌いながら子どもたちが盗んだ品を回収していく。その後、伯爵と会話しながら、彼が脱いだ上着のポケットを探ったりと演技も細かい。歌唱面でも存在感タップリ。伯爵との二重唱、ロジーナとのやりとり、第1幕のフィナーレの6重唱、第2幕の5重唱、3重唱といった場面で、骨格となり、またしっかりとバランスをとっている。
脇園もこの二人に負けていない。低音域が安定しており、アジリタの技術も一流。なにより言葉の扱いが見事。彼女の舞台での歌唱は、2019年5月に新国立劇場の《ドン・ジョヴァンニ》のドンナ・エルヴィーラで聴いており初めてではないのだが、声域の点でより彼女に合ったロジーナでは、より輝きをみせた。
彼等3人は、ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルでアルベルト・ゼッダの薫陶をうけ、ロッシーニ歌いに成長した。それぞれ近年の本公演に主役として出演している。ボルドーニャ、スポッティは、彼等より約10年早くペーザロから巣立った歌手。
指揮のアッレマンディは62歳、オペラ指揮者として世界の舞台で活躍している。東京交響楽団の管楽器セクションから、美しい響きとワクワクさせるリズムを引き出した。歌手も彼の作り出す音のゆりかごにスッポリとはまって、楽しそうに歌う。各幕のフィナーレのアンサンブルの弾みのある音楽に、ロッシーニの醍醐味を感じた。
新国立劇場の近年の上演の中で、上位に入る公演であった。

ロッシーニを歌える歌手が多くなってきている今、《セビリアの理髪師》だけでなく、彼の他のオペラも是非上演していただきたい。《湖の女》《セミラーミデ》といったオペラ・セリアの演目を取り上げることを期待したい。

(2020/3/15)

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<STAFF>
Conductor: Antonello ALLEMANDI
Production: Josef E. KÖPPLINGER
Set and Costume Design: Heidrun SCHMELZER
Lighting Design: Maki YAGI

<CAST>
Il Conte d’Almaviva: René BARBERA
Rosina: Aya WAKIZONO
Bartolo: Paolo BORDOGNA
Figaro: Florian SEMPEY
Don Basilio: Marco SPOTTI
Berta: Etsuko KANOH
Fiorello: Kenichi YOSHIKAWA
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra
Chorus: New National Theatre Tokyo Chorus