2022年 第8回年間企画賞
Mercure des Artsは執筆陣による選考の結果、2022年(2021年11月1日〜2022年10月31日までの公演)の年間企画賞1〜3位を選出し、ここに発表いたします。
ウィズコロナ時代の只中で、様々な創意工夫のもと、多くの公演を企画・上演した関係者各位に改めて敬意を表します。
今回は、現代音楽の公演、ジャンル横断的な取り組み、そして古楽のオペラと、バランス良く且つ本誌の特色が色濃く反映された結果になったように思います。また、アンサンブル室町による「Leçons de Ténèbres 暗闇の聖務 2021」が惜しくも今回は次点となり、「15周年記念演奏会「会話kaiwa」」にも評が集まりましたことをここに報告いたします。
【1位】
武満徹 弧[アーク]
2022年3月2日 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル
【2位】
坂本光太×和田ながら「ごろつく息」
東京公演:2021年12月29日 トーキョーコンサーツ・ラボ
京都公演:2022年9月9日~10日 UrBANGUILD
【3位】
アントネッロ<オペラ・フレスカ7>オペラ ジュリオ・チェーザレ
2022年3月5日 川口総合文化センター・リリア 音楽ホール
◆選定にあたって
【1位】
「弧[アーク]」と題された武満徹のオーケストラ作品による演奏会に関し、何よりもまず銘記されるべきは、演奏会のテーマに掲げられた作品が、その改訂版の日本初演(1990年)で独奏を担当した高橋アキのピアノとともに鳴り響いたことである。高橋は、新たに見いだされた図形楽譜を前に武満の音楽の媒体と化しながら、オーケストラの各奏者の自発性と共鳴して、「弧」が「個」の集積によって描かれることを身をもって示した。カーチュン・ウォンの作品への共感に満ちた指揮と、東京フィルハーモニー交響楽団の献身的な演奏も忘れがたい。初期の《弦楽のためのレクイエム》から後期の《ア・ウェイ・アローンII》に至る武満の音楽の「弧」が、みずみずしい歌とともに浮かび上がった出来事として、この演奏会は歴史に刻まれるだろう。主催は東京オペラシティ文化財団。
★参考レビュー
武満徹 弧[アーク]|柿木伸之
武満徹 弧[アーク]|小島広之
【2位】
チューバ奏者の坂本光太と演出家の和田ながらの共同制作公演である。トーキョーコンサーツ・ラボによる企画シリーズ『態度と呼応のためのプラクティス』の初回プロジェクトとして2021年12月に東京で初演され、2022年9月には演劇ユニット・したための主催で京都・UrBANGUILDにて再演された。既存の制度から軽やかに飛び出したかのように見えて、演劇と音楽という制度自体に真摯に向き合いながら、これらを遊戯的に異化していた点が、近年しばしばみられる分野横断的なコラボレーションの中でもひときわ強く印象に残った。また本公演には制作プロセスのアーカイブ化という点においても面白い試みがみられ、協働のあり方や顧み方に一石を投じていた点も併せて評価したい。
★参考レビュー
坂本光太×和田ながら「ごろつく息」京都公演|田中 里奈
【3位】
間違いなく今年の古楽関連の公演中No. 1であろう。第19回三菱UFJ信託音楽賞奨励賞受賞、主催する濱田芳通の第53回(2021年度)サントリー音楽賞受賞といった輝かしい賞歴がそれを実証している。ここでは9か月たって改めてこの公演を振り返ってみたい。アントネッロの7か月後、新国立劇場で同じ演目が上演された。この公演も非常に好評だったが、大絶賛をしているのが普段古楽にあまりなじみのない人に限られるという特徴があった。彼らが褒める点はどれもアントネッロがその何倍もの濃度ですでにやっているんだけどなぁと感じた古楽ファンも少なくないだろうが、ここではこれ以上は立ち入らない。
新国立劇場の上演は、2011年パリ・オペラ座で上演されたロラン・ペリー版をほぼそのまま踏襲している。アントネッロでは過去の上演いずれかを下敷きにするのではなく、独自の演出をおこなっていた。と思っていたのだが、新国立劇場の上演を見て、肖像画が出てくる場面や帆船が登場する場面はロラン・ペリー演出へのオマージュだったと気づいた。3月の時点で10月の公演をも射程に入れた演出をおこなっていたのかと、その視野の広さに改めて愕然とした。
近年、アントネッロ以外にも音楽劇を上演する古楽団体が増えてきたのも、先頭を走ってきたアントネッロの功績にあげてよいだろう。しかしそれに甘んじることなく疾走していくのが彼らの身上。次はどんな公演をみせてくれるのか、胸が躍る。
★参考レビュー
アントネッロ<オペラ・フレスカ7>オペラ ジュリオ・チェーザレ|大河内文恵
(2022/12/15)