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アレハンドロ・ヴィニャオ Portrait for Percussion 2022|西村紗知

アレハンドロ・ヴィニャオ Portrait for Percussion 2022
Alejandro Viñao Portrait for Percussion 2022

2022年7月20日 サントリーホール ブルーローズ
2022/7/20 Suntory Hall Blue Rose (Small Hall)
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)
Photos by 阿部章仁/写真提供:小森邦彦

<演奏>        →foreign language
アレハンドロ・ヴィニャオ(作曲・解説)
マリンバ:小森邦彦
N Percussion Group(打楽器カルテット:岩間美奈、小林美里、森次侑音、渡邉倖大)
マリンバ:稲垣佑馬
ピアノ:岡本麻子
ヴィブラフォン:藤本隆文
クラシックギター:谷辺昌央
コントラバス:渡邉玲雄

<プログラム>
アレハンドロ・ヴィニャオ:
 「リフ」〜マリンバとピアノのた めの〜(2006)
 “グルーヴの書”より「グルーヴの色彩」〜二台のマリンバのための〜(2011)
 「南に向かう三つの歌」〜マリンバ、ギター、ダブルベースのための〜(2019)
 「アラベスコ・インフィニート」〜ヴィブラフォンとマリンバのための〜(2006)
 “ウォーター”より 「豪雨が過ぎて」、「全ての川は川」〜打楽器とピアノによる六重奏〜(2006)

 

何事も流れ去るままとなる。何か、生起する出来事とならずして、記憶に残るのは音の形象ではなく、何事かを聞いたというもっと漠然とした身体感覚だった。
アレハンドロ・ヴィニャオのこの日の作品すべてに共通していると言ってもよいだろう、縷々連なる持続の文様に、スティーヴ・ライヒからの影響を感じないわけにはいかない。だが、ライヒの工業製品を思わせるような反復(というより複製)のような連なりではなく、ホセ・マセダの「5台のピアノのための音楽」の、おおらかで不確定要素 を含んだように聞こえる反復とも違う。ヴィニャオの作品のうちに流れる時間、これは物理的な時間とも悠久の時間とも名付けがたく、そこからは何か言葉で言い表すほどでもないような、畝とか瘤のようなものが時折聞こえるだけだ。その時間には未だ名前がないと思う。

「リフ」。変拍子の断片をピアノとマリンバが息をぴったり合わせて打ち鳴らしていく。アタックの位置は適宜変わるが、テンポとデュナーミクは一定だ。やがてどちらかの音が減るか、音価が延びるかして、アンサンブルが変わっていく。ピアノが叙情的なパッセージを弾いたのち、全体の音量が下がり、ミステリアスな雰囲気へ。ここからまたもう一山転じたのち、最後は幅の狭い音型で駆けるようなプレストで終わる。
「グルーヴの色彩」。音域の低い方のマリンバの低音が全体の響きをつくるため、音楽に安定感がある。鍵盤打楽器同士のアンサンブルにより生み出される音楽は、音それ自体、とでも言うのか、ポエティックなイメージを差し挟む余地のない、かといってBGMにも決してなりえないようでもあり、要するに抽象の度合いが高い。ホールの音響の具合もあってか、マリンバ同士だと打撃音が少し耳に残りやすかったような気がした。
「南に向かう三つの歌」は作曲者の郷里の民族音楽を素材に用いた作品。一転して、ギター、コントラバス、マリンバ、といったように、音色の差異が大きい。撥弦、擦弦という発音原理の異なる楽器が入ったほうが、不思議とアンサンブルの風通しがよいように感じられた。1曲目「カントII:広大な草原」。ギターソロに始まり、コントラバスの伸びやかなボーイングの上に、マリンバが色彩を添えていく。2曲目「カントI:チャカレラ」は、明らかに民族舞踊曲らしいつくりだが、次第にまた微細なリズム操作で 埋め尽くされていくので、ダンスミュージックになり切れない。
「アラベスコ・インフィニート」。ヴィブラフォンがマリンバにぴったりと干渉する。「グルーヴの色彩」と同様、抽象度の高い音楽。
“ウォーター”より 「豪雨が過ぎて」、「全ての川は川」。本来三楽章の作品だが、この日は第二、第三楽章が披露された。
これがこの日の最後の作品となったわけだが、始まる前に作曲者が登壇し、この作品の構造と楽器ごとに与えられた役割について説明した。そのためもあって、この日の作品に程度の差こそあれ共通する、何事も流れ去るままとなるという特徴、それを生み出す仕組みは、筆者のうちでおぼろげながら言葉になっていった。
つまり、おおよそどの作品にも対立がない。まさにこの時、という瞬間もない。“ウォーター”においては、ピアノが提示する断片(主題と言えるほど、作品全体の性格を基礎づける強さがない)に対し、他の楽器は、反復するか強調するように模倣するか、何か同調するか、追随するか、といった具合である。それにより混濁か清明かのコントラストの度合いが少しずつ変わり続けるだけで、いずれ音楽は終わる。

いよいよ第三楽章も終わりという時のこと。下行音型を重ね合い、川は大きくうねる。
筆者がこの日聞いていた音楽は、すべて川だったのかもしれない。名前のない川。

(2022/8/15)

  

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<Artists>
Alejandro Viñao(composer, navigator)
Marimba: Kunihiko Komori
N Percussion Group (percussion quartet: Mina Iwama, Misato Kobayashi, Aruto Moritsugu, Kodai Watanabe)
Marimba: Yuma Inagaki
Piano: Maiko Okamoto
Vibraphone: Takafumi Fujimoto
Classic guitar: Masao Tanibe
Contra bass: Reo Watanabe

<Program>
“RIFF” for marimba and piano
‘Colours of Groove’ from “Book of Grooves” for two marimbas
“Tres Cantos Mirando al Sur” for marimba, guitar, and double bass
“Arabesco infinito” for vibraphone and marimba
‘Through the wild rain’ and ‘Todos los rios’ from “Water” sextet for percussion with piano