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音のモザイク~異世界時間旅行~|齋藤俊夫

音のモザイク~異世界時間旅行~

2021年12月22日 KMアートホール
2021/12/22 KM Art Hall
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 鈴木治行/写真提供: Company Bene

<演奏>        →foreign language

フルート:竹内あすか
オーボエ:大木雅人
クラリネット:岩瀬龍太
ヴァイオリン、ヴィオラ:迫田圭
チェロ:北嶋愛季
ピアノ:川村恵里佳
指揮:北爪裕道

<作品>
甲斐説宗:『ヴァイオリンとチェロのための音楽I』
  Vn, Vc
鈴木治行:『赤みがかった緑』(日本初演)
  Ob, Cl, Vla
小櫻秀樹:『Reine Liebe』
  Pf
鈴木治行:『独楽の回転』(世界初演)
  Pf, Fl, Ob, Vc
南聡:『遠近術の物語』
  Pf, Cl, Vla
小櫻秀樹:『Unfocused Rage』
  Pf, Fl, Cl, Vn, Vc,Cond

主催:Still
制作:Company Bene (鈴木治行、小櫻秀樹)

 

「音楽とは音を楽しむもの」という俗説もしくはクリシェがあるが、今回鈴木治行と小櫻秀樹によるCompany Bene が制作した〈音のモザイク~異世界時間旅行〉は音楽にただ身を委ねるのではなく、今、自分が聴いている音と音楽はナニモノで、ナニを訴えているのか、この先にナニが待っているのか、とある種の緊張感を持って思考しながら聴くとめっぽう楽しい作品ばかりであった。

甲斐説宗『ヴァイオリンとチェロのための音楽I』、ヴァイオリンとチェロが弓を通常より90度傾け、木の部分と毛の部分両方で弦を擦る独特のかすかな音色により、同じ音価で淡々と半音階的旋律(?)を弾き続ける。演奏者が2人いるのに、2人が心を通わせているように見えず、ただひたすらに孤独。弓を通常奏法にし、クレシェンドでフォルテシモに至り、そこからディミヌエンドでピアニシモに戻るのを繰り返しても、言いようのない寂しさが感じられる。最後はチェロが弦の張力を緩めつつ弾き、ヴァイオリンとともに死の直前の呼吸をするように終わる。世界に人間がいなくなった後に奏でられるような音楽であった。

鈴木治行『赤みがかかった緑』、細切れにした何個もの楽想を順列組み合わせをし、混乱しているようでなんらかの法則に従って並べた、と筆者は聴いた。通常の音楽は始め―中―終わりという線形性を持っているが、鈴木の作品は立体的に構成されることで線形性を越え、人間の記憶を混乱に落とし込む。何が始まりなのか、何が続いているのか、これまで聴いてきた音楽は何なのか、この先に何が待っているのか、全てが謎のまま音楽は進む、いや、進んですらいないのかもしれない。〈現在〉聴いているはずの音楽によって自分の記憶・感性が揺さぶられるまたとない音楽を実に気味悪くかつ面白く聴くことができた。

小櫻秀樹『Reine Liebe』、ペダルを解放したまま最低音域の鍵盤を叩きつけ、破れ鐘を打ち鳴らすような冒頭で「何が起きたのか?」とこちらの心がのけぞった。その後、高音域で悲痛かつ美しい音楽が奏でられると、作曲者の心が演奏者と楽器を介して聴き手の心に伝わってくる。悲しい、実に悲しい。プログラムノートによるとシューマンの作品の引用らしい音楽も混じり、種々多彩な楽想全てが悲しみのベクトルを担っている。〈現代音楽〉では稀な、美しさが悲しさと共にある音楽に心揺り動かされた。

休憩を挟んで鈴木治行『独楽の回転』、超複雑化して筆者の耳では構造がわからなくなった輪唱(?)に始まるが、なんというアンサンブルであろうか。全奏者が数拍ずれて音を出している、と思ったらフルートとオーボエがいつの間にかユニゾンとなってしまった。さらに進むとフルートとオーボエは演奏を休んでしまい、今度はピアノとチェロがユニゾンを奏でる。またフルートとオーボエが復活して、さらにまた今度は4人がユニゾンに限りなく近い演奏をする。さらに演奏休止、ユニゾン、輪唱、が複雑の度合いを増し、最後は4人のユニゾン(で良いのだろうか)から全員での不協和音で了。なんというか……どうやってこんな音楽を作曲者も演奏者も組み立てられるのか、不思議でたまらなく、たまらなく面白い。

南聡『遠近術の物語』、スタッカート&アクセントの1音が「タンッ」と奏され、その音の余韻もしくは最弱音をずっと延ばす、というアタックと余韻のパターンが何回も繰り返される。繰り返されるうちにアタックの部分が複雑化していき、余韻の部分も同じく。この音楽は何かを孕んでいる、と思ったら突如ベートーヴェンの引用が乱入。アタックだけになったり、余韻だけになったり、ベートーヴェンが酔っ払って乱闘してるようになったりと、複雑怪奇の極みに至る。「この音はナニモノなのか?」と考え続けていたら、3人がアルペジオで上行して終曲。なんだか筆者は置いてけぼりにされた感があるが、しかし、面白かったのはまぎれもない事実。

最後は小櫻秀樹『Unfocused Rage』、ピアノが最低音域でペダルを解放して陰鬱に奏で、他の楽器もスル・ポンティチェロや息音などで呻く。この呻きの中でフルートとピアノが不吉な踊りのようなフレーズを。そして全楽器での絶叫!轟音!すごい勢いで狂ったように乱舞し、ぶつかり合い、痛めつけ合う。全楽器がクラスターを成しているようで、音の視界が真っ暗闇となる。一瞬、視界が開けた、と思ったらアルペジオによるクラスター、同音反復によるクラスター、といったように、暴力的に音が喚き散らされ、ピアニストは人声で「あ、あー!」と叫ぶ。5人でまさに阿鼻叫喚の音楽を奏で、そのまま終曲。これほどまでに暴力的な怒りの現代音楽がまだ可能とは!
今回、『Reine Liebe』『Unfocused Rage』共に、小櫻秀樹の感情を音楽化して、しかし感情に堕することのない姿勢に筆者は現代音楽のさらなる可能性を見た。

全て素晴らしい作品であったが、竹内あすか、大木雅人、岩瀬龍太、迫田圭、北嶋愛季、川村恵里佳、北爪裕道らの演奏・指揮も特筆に値すべき素晴らしい仕事だった。40人入るか入らないかの小さなハコながら、皆で現代音楽の未来を共有できたことを心から嬉しく思う。

(2022/1/15)

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<Players>
Flute: Asuka Takeuchi
Oboe: Oki Masato
Clarinet: Ryuta Iwase
Violin, Viola: Kei Sakoda
Cello: Aki Kitajima
Piano: Erika Kawamura
Conductor: Hiromichi Kitazume

<Pieces>
Sesshu Kai/Musik für Violine und violoncello I
 Vn, Vc
Haruyuki Suzuki/Reddish Green
  Ob, Cl, Vla
Hideki Kozakura/Reine Liebe
 Pf
Haruyuki Suzuki/The Turn of the Teetotum
  Pf, Fl, Ob, Vc
Satoshi Minami/The Perspective Story
  Pf, Cl, Vla
Hideki Kozakura/Unforcused Rage
  Pf, Fl, Cl, Vn, Vc,Cond