Pick Up(2021/12/15)|チェルフィッチュx藤倉大 with Klangforum Wien ワークインプログレス公演|齋藤俊夫
チェルフィッチュx藤倉大 with Klangforum Wien ワークインプログレス公演
Chelfitsch & Dai Fujikura with Klanfgforum Wien Work in Progress Performance
2021年11月4日(リハーサル)、5日(本番) タワーホール船堀小ホール
2021/11/4(rehearsal), 5(real performance) Tower Hall Funabori
Text by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 加藤和也/写真提供:チェルフィッチュ
演出:岡田利規 →foreign language
音楽:藤倉大
<出演>
青柳いづみ
朝倉千恵子(今回は出演せず)
大村わたる
川﨑麻里子
椎橋綾那
矢澤誠
<演奏>
Klangforum Wien(録画映像で出演)
アンサンブル・ノマド(弦楽四重奏)
クラリネット:吉田誠
「ワークインプログレス」とは一般的には、ある作品が完成するまでの過程を芸術作品とするものを指す。
筆者は今回の『チェルフィッチュx藤倉大 with Klangforum Wien 新作音楽劇 ワークインプログレス公演』のリハーサル見学(4日)とワークインプログレス公演(5日)の両方を見る機会に恵まれた。普段見ることのできない演劇畑の稽古というものが見られたのは面白かったが、はて、両日ともに「ワークインプログレス」だったであろうか?
4日、リハーサル見学では役者5人が舞台下手、アンサンブル・ノマドの弦楽奏者4人、それにクラリネットの吉田誠が上手、さらに藤倉大を写したスクリーンが後方に配置された。5日も概ね同様だが、この日の前半は器楽合奏に Klangforum Wienの録画映像スクリーンが5つ並べられた(〈映像演劇〉の手法とパンフレットには銘打たれている)。後半は4日と同様。
両日、この舞台上で、”音楽劇”(パンフレットでの記述)の10分くらいのごく短い箇所の繰り返し稽古が行われた。普段映画はよく見るが演劇は見ることの少ない筆者には、映画で求められる〈自然な所作〉とは異なり、むしろ〈自然〉を異化する役者の所作、台詞回しが大変面白く感じられた。演劇に合わせた断片が連なる藤倉の音楽も、作品全体での構築性よりも一瞬一瞬の音響に長ける彼の音楽の性格に合っているように思えた。
岡田利規の演技指導の言葉が筆者には一番不思議なものであった。
メモ帳に書いた(従って正確に言葉を反映したわけではない)彼の台詞を列挙すると、「音楽を体に入れるな」「自分の意識の中に音を入れるというか、自分が作り出した意識に音を浴びせる」「内側と外側を作り、その間に壁がある」「体の中に入れる」「力を入れていく」「自分の中ではなく、空間に力を入れる」「音を入れる度合いで空間が見えてくる」「自分の場所を作り上げる」……筆者には何を言っているのか皆目わからなかった。だが、役者の演技、特に音楽と演技の相互作用は彼の言葉の前後で明らかに変化し、改善されていっていたので、彼の言葉は活動する畑が異なる筆者にはわからなくとも演劇の人々ならわかる意味があったのであろう。
藤倉はさすがこれまでにオペラ3作を書いてきただけあって、器楽が入るタイミング、曲が変わるタイミングなどを実に細かく、秒単位で指示していた。
しかし、今回の「ワークインプログレス公演」には大きな3つの疑問点がある。
まず、冒頭に挙げた通り「ワークインプログレス」とは語義的には作品を完成させる過程を芸術作品とするものであるが、今回4日のリハーサル5日の公演とはただの稽古であり、これを芸術作品とすることは無理があるように思えること。
第2に、今回の公演は2023年に初演予定であるが、その時の器楽担当は Klangforum Wien であり、アンサンブル・ノマドの4人とクラリネットの吉田は参加しないということである。ならば、今回の公演は、音楽担当双方としては無駄ではないにしても、〈映像演劇〉のKlangforum Wienにとっては意味が少なく、ノマドの4人と吉田としては単なる代打的な、ワークインプログレスからも外れた仕事だったのでは。
第3に、これは5日公演後の合同取材でどなたかが質問していたことだが、オペラとも演劇とも異なる全く新たな”音楽劇”、と銘打っている今回の舞台は、ミュージックシアター(ムジークテアター)、すなわち演出を強めに押し出したオペラなどの音楽劇の流れを汲むものなのかどうか、ということである。藤倉はパンフレットで「本当の意味で、今までにないジャンルの舞台作品になるかもしれない。そう、辞書に新しい単語、そしてその定義を足さないといけないレベルの」とまで言っているが、2日間鑑賞して、筆者には〈生の音楽伴奏付き演劇〉としか感じられず、そこに新しいジャンルとまで言えるような新しさは見つけられなかった。
だが、岡田と藤倉が盛んに「新しい」「これまでにない」と豪語するからには、完成した劇を見通せばどこかに、あるいは全体に何か新しいものが見えてくるのだろう。2023年ウィーン芸術週間での初演後、日本初演があるとはまだアナウンスされていないが、この「新しい」作品の公開が待たれる。
関連評論:無害化された問題にあっかんべーする岡田利規|田中里奈
(2021/12/15)
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Director: Toshiki Okada
Music: Dai Fujikura
<cast>
Izumi Aoyagi
Chieko Asakura (Not appearing this time)
Wataru Omura
Mariko Kawasaki
Ayana Shiibashi
Makoto Yazawa
<players>
Klangforum Wien (Appearing in recorded picture)
Ensemble NOMAD (String Quartet)
Clarinet: Makoto Yoshida