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東京都交響楽団第959回定期演奏会Aシリーズ|西村紗知

東京都交響楽団 第959回定期演奏会Aシリーズ【別宮貞雄生誕100年記念:協奏三景】
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra Subscription Concert No.959 A Series
≪Sadao Bekku 100 – Three Concertos≫

2022年9月30日 東京文化会館 大ホール
2022/9/30 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)
Photos by ©堀田力丸、©東京都交響楽団事務局 /写真提供:東京都交響楽団

<演奏>        →foreign language
指揮/下野竜也
ヴァイオリン/南 紫音
ヴィオラ/ティモシー・リダウト
チェロ/岡本侑也

<プログラム>
別宮貞雄:チェロ協奏曲《秋》(1997/2001)
別宮貞雄:ヴィオラ協奏曲(1971)
別宮貞雄:ヴァイオリン協奏曲(1969)

 

正直、作品から感じ取られるこのいかんとも捉えがたい反時代性のせいで、作品そのものへの言葉が見つからない。美しい。美しいけれども、すぐにその美しさを言い表すための言葉が雲散霧消する。筆者は例えばその美しさを、屈託のない実に自然な調性感、と言ってしまいそうになるのだが、そもそも屈託のない実に自然な調性感などという考え方は妙に不自然である。こうした具合に、作品に対して用いる言葉が、自分自身の状況への理解のための言葉へと、たちまち回収されてしまう。
その状況とは、調性について言われているものの状況のことだ。「調性回帰」という言葉があった。近頃では「不協和音など今更古い」と言われることが増えた気もする。それらは調性ということについて今ひとたび向き合い直すことを人に要請しもするが、しかし、そこには調性音楽はしっかりと疑いの余地なく定着したものだったという前提が隠されているようで、どこか居心地が悪い。
ふと冷静に考えると、筆者はそもそも自分自身が調性音楽について理解できたと、確信が持てていない。なぜ、調性音楽のことなら当然わかると、調性音楽とはこういうものだと、確信があったのだろう。

最初にチェロ協奏曲《秋》を聞いていて、最初は、メロディー主導型で、捉えようによっては映画音楽のような音楽だと思っていた。
調性音楽なのだと思って聴いている。チェリスト・岡本侑也の奏でるメロディーは優美でたおやかに躍る。冒頭はフルートの音が際立って聞こえる、オーケストラの伴奏の反復するリズムが印象的だが、その後チェロは、重音のソロで少し険しい表情も見せる。展開部は弦楽器のトレモロが緊張感を生み出す。再現部が終わったのち、ソリストはカデンツァへ。それが終わったらアタッカで、少し軽快なロンド形式の二楽章が始まる。ここまではなんとなく聴けているような心地だった。だが、二楽章の素材の処理と展開がだんだん複雑になっていって、自分が今、音楽のどの辺りの筋書きにいるのか、確信がもてなくなっていく。そんな中最後、第一楽章の主題が回帰して、音楽が閉じられる。
メロディアスな音楽と思いきや、かなり形式主義的な音楽だと思った。調性音楽? そういえば筆者は調性音楽について何を知っていたのだろう。

©堀田力丸

ヴィオラ協奏曲は、用いられている動機に減5度や短2度の響きがあるため、全体的にやや妖艶な雰囲気がある。ティモシー・リダウトの演奏は、低音部が熱っぽくうねる。
それ自体に性格のあまりない断片が密接に応答し合って、展開は複雑だ。第二楽章で特に、三度堆積の和音が聴こえてきて、これが重厚感のもとになっているように思える。第三楽章、リズミカルな動機の反復(タンタタンタ/タンタンタンのリズム)で賑やかに。冒頭のパーカッションとピッコロの軽快なパッセージは、ちょっぴり祭囃子のよう。

ヴァイオリン協奏曲の曲想はヴィオラ協奏曲にかなり似ており、カデンツァののちアタッカで終楽章に移行する展開はチェロ協奏曲と同じである。軽く縫うように、南紫音のヴァイオリンは駆け抜けていく。第二楽章はヴィオラ協奏曲の第三楽章よりももっとアグレッシブで、低音金管楽器の鳴りで民族主義的な印象もあるが、しかし攻撃的になることもなく最後まで上品な音楽だった。

作品内部ではときに必然性がうまく捉えられない展開があったりもしたのだったが、下野の指揮で作品の恒常性はしっかり保たれ、3つの作品それぞれの形式主義的な側面が強調されていたように思えた。
聴いていて文脈がわからないという点については、筆者は率直に自分自身が不勉強なのだと思った。ちょっと、アルベール・ルーセルの交響曲とあわせてこの日のプログラムを聴き直してみようとも思うのだったが、調性ということについて、今この時代に考え直すことが筆者自身の喫緊の課題なのだと思う。

(2022/10/15)

©東京都交響楽団事務局

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<Artists>
Tatsuya SHIMONO, Conductor
Shion MINAMI, Violin
Timothy RIDOUT, Viola
Yuya OKAMOTO, Violoncello

<Program>
Sadao Bekku: Cello Concerto “Autumn”(1997/2001)
Sadao Bekku: Viola Concerto (1971)
Sadao Bekku: Violin Concerto (1969)