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特別寄稿|中根秀夫 映像上映会『ちいさなくに − in a small realm』|言水ヘリオ

中根秀夫 映像上映会『ちいさなくに − in a small realm』
in a small realm, Hideo Nakane

2020年3月27日、28日
2020/3/27, 28
さいたま市民会館うらわ ホール
Saitama City Culture Center Hall

♪ 新作映像プロジェクション+渡邉ゆりひと ヴォーカル・インプロヴィゼーション ライヴ(28日)
Video Projection + Yurihito Watanabe Vocal Improvisation Live
♪ @「もういちど秋を」かみむら泰一即興ライヴ(28日)
@ “try to remember” Taiichi Kamimura Improvisation Live

Text by 言水ヘリオ(Kotomiz Helio)
Photos by 中根秀夫(Hideo Nakane)

2020年3月27日(金)と3月28日(土)、中根秀夫 映像上映会『ちいさなくに − in a small realm』という催しが、浦和駅から徒歩10分足らずのところにある「さいたま市民会館うらわ」のホールで開催された。中根秀夫は美術家で、わたしは最近いくつかの展示に接して、淡々と事柄を見つめて提示し、見るものの体験をも受け入れるような作品に関心を抱いていた。今回の催しは、新作映像および過去に発表した映像の上映と、ロビーでの写真、絵画、映像の展示という構成になっていた。新作発表の準備のみならず、開催実現に向けての細やかな感染症対策や諸連絡など、たいへんな苦労があったと推察する。28日には、かみむら泰一の即興ライブ、および、渡邊ゆりひとのヴォーカル・インプロヴィゼーションという二つのイベントが行われるということで、その日に出かけた。

道中の電車内は、ひとつの長い座席に3〜4名座っているくらいだっただろうか。通常よりはだいぶ空いていた。10時半ころ浦和駅に到着し、ファーストフードの店で食事してから会場へ向かった。会場のさいたま市民会館うらわは、来年3月で閉鎖、つまりなくなってしまうことが決まっている、築50年の建物である。中に入ると、建物の時間が感じられた。
11時30分から、植物や国会前のデモの写真、福島県双葉郡楢葉町の映像からなる新作「ちいさなくに − in a small realm」他の上映が始まった。来場者はまだ少ない。その後、2012年に行われた中根秀夫の個展会場でのかみむら泰一による即興演奏を映像作品とした「Mellow Yellow Project」他の上映があり、長めの休憩。
この時間を利用して、建物内にある食堂でカレーライスを食べた。さきほど食事したばかりなので、お腹は空いていないのだが、もう来ないかもしれないこの建物の中の、おそらくは当初からあったのであろう雰囲気のこの食堂でなにか食べたかった。
ロビーに戻ると、数名の知人が来場していた。スーパーで米が売り切れていて買えなかった話などする。加えて、美術家であるその知人たちが、口々にこの建物の良さを話していたのが印象的だった。

14時から、「@『もういちど秋を』かみむら泰一即興ライヴ」が始まった。「もういちど秋を」はもともと、武田多恵子の詩、かみむら泰一の音楽、中根秀夫の映像からなる作品で、2016年に初めて発表された。この日の演奏では、暗いホール内正面スクリーンに映像が流れ、舞台向かって右手に演者。詩は表にはあらわれていないが、中根の映像、そして、詩を読み直し臨んだというかみむらの演奏に、見え・聞こえてくるだろう。ソプラノサックスやテナーサックス、ときに縦笛、打楽器のようなものから聞こえる音は、見聞きするものに訴えて、一つの作品のいまここでの生成として実感された。
そして15時30分から、最後の催しとして、「新作映像プロジェクション+渡邉ゆりひと ヴォーカル・インプロヴィゼーション ライヴ」が行われた。今度は演者は左手に、スクリーンには、先ほども上映された「ちいさなくに − in a small realm」の映像が投影されている。渡邊は詩を、声に乗せて響かせる。それは、「《ちいさないのり》の歌」(渡邊ゆりひとによる言葉)。ひとつの洞窟から音が発生して広い海上へと運ばれていくような感覚を得た。
映像を見たり、演奏者を見たり、舞台全体を視野の中に収めたり、ときには目をつぶって音だけを聞いたり、あるいは手のひらに「詩」そして「詞」と指で書いてみたり、集中している中でふと物思いにふけったりという時間。映像の、場面が滲むように次の場面と重なり移ろっていくのを、浜へ寄せる波のように感じ見ていた。

当日は、不要不急の外出を自粛することが要請された初日に当たる。「自粛」を「要請」するという言葉の奇異さが気持ち悪かった。この催しでは、徹底した感染症への対策がなされていたため不安は感じていなかったこともあり、ここへ足を運ぶのは自分にとって必要なことだと考えていた。ただ、ウイルスが蔓延しているとは思っていたので、なんらかの緊張感を抱いていたのも確かである。忘れがたい一日となった。
その後、さいたま市民会館うらわは4月9日から臨時休館となった。ギリギリ開催できた催しだったということだ。美術館などはすでに臨時休館あるいは開催延期により開いているところは少なかったのだが、要請以降、それまでは営業を続けていたギャラリーなどもだんだんと臨時休業するようになっていった。「要請に従った自粛」のような言い方が散見されるようになっていった。

中根秀夫 映像上映会『ちいさなくに − in a small realm』について
@「もういちど秋を」かみむら泰一即興ライブの模様(動画)

 (2020/5/15)

中根秀夫|Images、かみむら泰一|tenor & soprano sax、渡邊ゆりひと|word & solo vocal 

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言水ヘリオ(Kotomiz Helio)
1964年東京都生まれ。1998年から2007年まで、展覧会情報誌『etc.』を発行。1999年から2002年まで、音楽批評紙『ブリーズ』のレイアウトを担当。現在は本をつくる作業の一過程である組版の仕事をしている。