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グザヴィエ・ロト=都響スペシャル|藤原聡

グザヴィエ・ロト=都響スペシャル
Tokyo Metropoitan Symphony Orchestra Special Concert

2020年2月2日 サントリーホール
2020/2/2 Suntory Hall
Reviewed 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>        →foreign language
東京都交響楽団
指揮:フランソワ=グザヴィエ・ロト
合唱:栗友会合唱団
合唱指揮:栗山文昭
コンサートマスター:矢部達哉

<曲目>
ラモー:オペラ=バレ『優雅なインドの国々』組曲
ルベル:バレエ音楽『四大元素』
ラヴェル:バレエ音楽『ダフニスとクロエ』全曲

 

2016年4月に都響に初登壇したフランソワ=グザヴィエ・ロト、このたび4年ぶりの同オケへの登場が実現した。しかもプログラムが『ダフニスとクロエ』にラモーとルベル。いずれもオケの色彩感覚が試される楽曲であるだけに、ロトであれば前回登壇時のストラヴィンスキーで聴かせたような極彩色溢れる演奏を都響から引き出してくれるのではないか。

コンサート前半はラモーで開始された。10型の弦楽器、指揮台前にはチェンバロとテオルボ、ファゴットが4本(のちの幻想交響曲を思い出す)、クラリネットがないという特異な編成。モダン・オケのコンサートでフランス・バロックが演奏されることもなかなかないように思うが、いかにロトといえどもこの手の曲に全く慣れていないであろう都響がどうこなすのか、との不安がなかったと言えば嘘になろう。だが、1曲目からオケの響きが一変している。ノン・ヴィブラートで音色は抜けるように軽やかかつカラッとしており、ガット弦ではないにも関わらずそこにはザラっとした触覚的な感覚がある。一体ロトは都響にどのような魔法をかけたのかと思うほどだ。合奏を締め上げ過ぎず、適度にラフなところも意図的なもののようにも聴こえる。全5曲の組曲中、第2曲から第4曲までは様々な打楽器が活躍するが、中でも出番は一瞬ながらターキッシュ・クレセントが視覚的にもひときわ大きなインパクトを放つ。

2曲目のルベルでの冒頭の有名な不協和音。録音で聴くよりも遥かに強烈な効果を発揮していたが、演奏は全体に単純な音楽でありながらも非常に繊細なリズム的な揺らぎを伴う遊び、というか妙味を感じさせるものとなっていたように思う。なるほど、これは徹頭徹尾現代の感覚の元に演奏されたルベル演奏だったのではないか。ちなみにロトの演出でオーボエ、ファゴット、ヴァイオリンの立奏が挟まれて楽しげな雰囲気を醸しだす(いつになく都響の楽員さん達がにこやかに演奏していたのが誠に印象深い)。

休憩後は『ダフニスとクロエ』。ここでもまたロトの力量に圧倒されっ放しであるが、冒頭の最弱音がみるみる膨れ上がって最初の総奏に達する箇所、ここでの余りに輝かしい音響。ロトは全体にダイナミックにオケが盛り上がる部分では決して振り過ぎずにオケの自発性を生かす方向に行く。それゆえ響きの純度という点で言えばいささかの放縦さと混濁がなかった訳ではない。しかしそれを割り引いてもここでロトがオケから引き出した明るく開放的で突き抜けるような響きは非凡だったと言わざるを得ない。そして反対に緩やかかつ静謐な箇所ではそれぞれの部分に濃厚かつ綿密な表情付けを行い、この開放と抑制のコントラストの付け方がなんとも巧みである。それゆえ、下手な演奏にかかればともすると退屈になる前半からしていちいち面白い。ルベルの項にも記載したが、この演奏もまたいかにも現代的に磨き上げられたものであり、そこにぬくもりやらアルカイックなアトモスフィアは希薄ではあるものの、モダン・オケの機能美を究極のレヴェルで表出しえた大変な名演奏だったと断言してよい。栗友会合唱団と都響も彼らの持てる力を最大限に発揮したと言えるのではないか(とは言えホルンの不安定さは解決すべき課題ではあろう)。

(2020/3/15)


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<players>
Tokyo Metropoitan Symphony Orchestra
Conductor: François-Xavier Roth
Chorus: Ritsuyu-kai
Chorus Conductor: Fumiaki Kuriyama
Concert Master: Tatsuya Yabe

<pieces>
J.P. RAMEAU:Opéra-ballet “Les Indes galantes”
J.F.Rebel: Ballet “Les elemens”
M.RAVEL: Ballet “Daphnis et Chloé”