注目のコンサート|2020年4月
東京・春・音楽祭の後半における注目は、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》。この音楽祭で《ニーベルングの指環》の指揮にあたったマレク・ヤノフスキが戻ってくる。キャストも粒ぞろいで期待できる。ヤノフスキは、合唱の芸術シリーズでベートーヴェンの《ミサ・ソレムニス》も指揮する。歌曲シリーズでは、クリスティアン・エルスナー、アンドレアス・シャーガー、エリーザベト・クールマンの3人が予定されている。なかでもクールマンの凝ったプログラムに期待したい。最終日には、今年から加わる読売日本交響楽団の演奏で、プッチーニの《三部作》が上演される。今欧米で注目を集めているスペランツァ・スカプッチの日本でのオペラ・デビューとなる。おおいに楽しみ。
3/13~4/18@東京文化会館大ホール他
https://www.tokyo-harusai.com/
2018年「第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール」2位入賞の川口をソリストに迎え、近年躍進著しい古楽オーケストラ La Musica Collanaとの共演によるモーツァルトとベートーヴェンのピアノ協奏曲。故・小島芳子が愛用したフォルテピアノの音色とともに楽しみたい。
4/1@東京文化会館
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/naruhiko-kawaguchi/
♩4/2,5 東京・春・音楽祭 オペラ『トリスタンとイゾルデ』
今年で第11回目となる東京・春・音楽祭のワーグナー・シリーズ、いよいよ『トリスタンとイゾルデ』の登場。トリスタンを歌うアンドレアス・シャーガーは次代を担うワーグナーテノールとして既に頭角を現しており(日本では過去チョン・ミョンフンの指揮で同役を歌っており、2016年にはこの東京・春・音楽祭の『ジークフリート』でタイトルロールを演じている)、イゾルデのペトラ・ラングもバイロイトで同役を歌っていたり、とまさに最高の歌唱が期待できよう。ヤノフスキもタイトに引き締まった指揮を聴かせてくれるのは間違いない。
4/2,5@東京文化会館
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/tristan-und-isolde-02/
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/tristan-und-isolde-05/
日下紗矢子がゆかりの地、兵庫県芦屋市で音楽祭をプロデュース。「クラシック音楽の輪を芦屋から世界へ」とのキャッチフレーズのもと、第1回を開催する。今年は国内外の第一線で活躍する奏者を招き、3日間にわたって弦楽器を中心とする室内楽を上演。2日目には「子供のためのコンサート」に続いて、「J.S.バッハ+ナチスに翻弄された作曲家たち」と題する演奏会も組み入れるなど、日下の思い入れも感じられる内容だ。他の音楽祭とは一味違った特色も期待できそうだ。
4/3~5@カトリック芦屋教会
https://ashiya-musicfestival.com/
♩4/5 アミティ・カルテット弦楽四重奏リサイタル「7の引力」
尾池(伊藤)亜美、須山暢大、安達真理、山澤慧によるアミティ・カルテット、今回はベートヴェンの全「7」楽章からなる弦楽四重奏曲第14番、同じく全7楽章からなるデュティユーの弦楽四重奏曲、それとハイドンの作品「77」-1と、「7」という数字に導かれた曲目に挑戦する。弦楽四重奏曲という同編成でどのような「7」による小宇宙が広がるのか是非聴いてみたい。
4/5@JTアートホールアフィニス
http://www.tokyo-concerts.co.jp/concerts/200405/
♩4/6 東京・春・音楽祭 ブラームスの室内楽VII エリーザベト・レオンスカヤを迎えて
いつも早い段階でチケット完売となる東京・春・音楽祭の「ブラームスの室内楽」。第7回の今回はレオンスカヤと矢部達哉、横溝耕一ら名手による弦楽五重奏曲第2番とピアノ四重奏曲第2番。いずれも傑作ながらブラームスの室内楽曲の中では余り実演にかかる機会がない。それゆえ、演奏の充実も期待できるだけになおさら今回は聴き逃せないコンサートになるであろう。
4/6@東京文化会館小ホール
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/brahms-chamber-music-7/
♩4/7,11,12 新国立劇場 ヘンデル《ジュリオ・チェーザレ》全3幕
新国立劇場の通常公演では初めてのバロック・オペラ。2011年にパリ・オペラ座で初演され話題となったロラン・ペリー演出による舞台。指揮はバロックの大家リナルド・アレッサンドリーニだが、東京フィルハーモニー交響楽団のバロック・オペラへの適性にいくぶんか不安がある。歌手は、チェーザレとクレオパトラのみ海外組で、他は日本を本拠としている。
3回と上演回数が少ないこともあるだろうが、チケットはすべて売り切れている。芸術監督の大野は2年に1演目はバロック・オペラを取り上げると述べている。注目に応えるためにも、今後のこの分野の上演のためにも、公演の成功を期待したい。
4/7,11,12@新国立劇場オペラ・パレス
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/giuliocesare/
♩4/10、13、14 テオドール・クルレンツィス&ムジカエテルナ
音楽業界に一大旋風を巻き起こした来日から1年を経て、再びあのコンビが来日。プログラムは全て、今年生誕250年を迎えるベートーヴェン。このうち、京都公演と東京公演初日では「第9」を演奏。ソリストには、すでにドイツ&オーストリア・ツアーで彼らと共演しているジャナイ・ブラッガー(ソプラノ)など、世界の第一線で活躍する歌手を招聘。東京2日目には、やはり昨年話題をさらったパトリツィア・コパチンスカヤによる独奏でヴァイオリン協奏曲を、メインとして第7交響曲を取り上げる(東京公演はすでに完売)。
4/10@京都コンサートホール
4/13@サントリーホール
4/14@サントリーホール
http://www.kajimotomusic.com/jp/concert/k=763/
♩4/11 神奈川フィルハーモニー管弦楽団 みなとみらいシリーズ第358回
川瀬賢太郎指揮で邦人2作にストラヴィンスキー『春祭』という組み合わせ。古典的な別宮貞雄『管弦楽のための2つの祈り』に続くのは伊藤康英作品、吹奏楽レパートリーで知られる管弦楽のための交響詩『ぐるりよざ』とはなかなかの工夫。聖歌グロリオーザを「ぐるりよざ」とし歌い継いだ隠れキリシタンの祈り。『春祭』で締め、ホールに残る響やいかに。
4/11@横浜みなとみらいホール
https://www.kanaphil.or.jp/concert/1301/
♩4/11,18 東京とニューヨーク フェスティバル2020
クラリネットと篳篥をこなすトーマス・ピアシーにより、東京とニューヨークを結んでの演奏会が2回開催される。世界初演10作、日本初演8作、参加音楽家9人、作曲家20人、楽器もクラリネット、篳篥、マンドリン、打楽器、バスクラリネット、ヴァイオリン、尺八、ピアノ、ライヴエレクトロニクスと、この数を知っただけで食指が動く。人種も国境も越えた音楽の出会いに臨みたい。
4/11,18@トーキョーコンサーツ・ラボ
http://www.tonadaproductions.com/tokyo-to-new-york-2020-festival.html
Aプロ:スラットキン指揮で細川俊夫『冥想~3月11日の津波の犠牲者に捧げる~』、J・アダムズ『サクソフォーン協奏曲』(B・マルサリスsax)、ヴォーン・ウィリアムズ『交響曲 第5番 』。今年度尾高賞受賞の細川の祈念から飛んでアメリカの地へ。
4/11,12@NHKホール
https://www.nhkso.or.jp/concert/20200411.html
Cプロ:「コープランド生誕120年・没後 30年」としてオール・コープランドプログラム。司会は石丸幹二。バレエ音楽『ロデオ』『アパラチアの春』の間に『静かな町』『リンカーンの肖像』という構成。大統領選の行方を見つつ聴くのも良いのでは。
4/17,18@ NHKホール
https://www.nhkso.or.jp/concert/20200417.html
どちらのプロも面白そうだ。
超絶技巧と豊かな音楽性を合わせ持った異才、トーマス・ヘルが今回挑むのはベートヴェンのディアベリをメインとし、その前に権代敦彦、ヤナーチェク、矢代秋雄を並べるというプログラム。見ただけではどういう取り合わせなのかわからないが、そこはトーマス・ヘル、誰も考えつかないが、見事にストライクゾーンの真ん中を撃ち抜いていく演奏会にしてくれるであろう。
4/12@トッパンホール
http://www.toppanhall.com/concert/detail/202004121700.html
「うた×筝〜今、日本に生きる作曲家たち〜」のタイトルで、5名の作曲家の作品を並べた。「今、日本に生きる」の意味するものは?演奏は箏・十七絃/吉原佐知子、薬師寺典子sop、岩瀬龍太cl。委嘱初演は渡辺俊哉『ソプラノ・クラリネットのための』、鈴木治行『ソプラノ・箏・クラリネットのための』の2作。これに近江典彦『Drop7(2018)ソプラノ・箏・クラリネットのための』、趙世顕『Regenbogen(2018/2019改訂)~ソプラノ・十七絃のための』木下正道『双子素数II(2018)~ソプラノ・箏のための』他。
4/15@日暮里サニーホール コンサートサロン
https://www.sunny-move.jp/sunny/eventinfo/index.html
本誌五線紙のパンセ:芸術家は他人を凌ぐ趣味を持たなくてはいけない!?|近江典彦
G.ソコロフが「成熟した個性」と称賛するロシアの12歳の日本デビューである。ザルツブルク音楽祭、アムステルダム・コンセルトヘボウ、パリ・シャンゼリゼ劇場など大舞台を飾っての登場だ。ベートーヴェン『悲愴』、シューベルトのソナタ、ラフマニノフ前奏曲集、そしてショパン『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ』。稀代かどうかは聴かねばわからない。
4/17@紀尾井ホール
https://www.amati-tokyo.com/performance/1912101716.php
♩4/18 アントネッロ第14回定期公演 スペイン黄金世紀の音楽
スペインの作曲家というと、グラナドス、ファリャなど19世紀後半から20世紀の作曲家が思い浮かぶが、「太陽の沈まぬ国」と言われた黄金時代のスペインにどんな音楽があったのか?古楽界でも近年研究が進んできた古い時代のスペイン音楽、渡来文化として日本とも無関係ではなかったこの時代に興味は尽きない。
4/18@HAKUJU HALL
https://www.anthonello.com/schedule/detail/?id=47
♩4/18~ イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン生誕250年記念 ピアノ・ソナタ・ツィクルス2020
ロシア生まれで日本を拠点に活動するメジューエワが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を行う。彼女にとってベートーヴェンのソナタ・ツィクルスは、2008年〜09年に行って以来2度目。今回は、4月から11月の間の4日間に1日2回、計8回の公演で全曲演奏に取り組む。ショパンの「ノクターン」でレコードアカデミー賞を受賞するなど演奏面はもちろんのこと、2017年にはピアノ曲に関する著書を刊行するなど優れた文筆力も発揮。生誕250年を迎える今年、知性派ピアニストのベートーヴェンを聞いてみてはどうだろう。
演奏会の日程は下記の通り。@滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 小ホール
4月18日(土)、6月6日(土)、9月26日(土)、11月7日(土)
(いずれも午後1時〜、午後6時からの2回。詳細は下記のHPを参照のこと)
https://www.biwako-hall.or.jp/performance/2019/10/10/post-835.html
1996年生まれというから今年でまだ24歳のクラウス・マケラ。この歳にして既にスウェーデン放送響の首席客演指揮者やタピオラ・シンフォニエッタのアーティスト・イン・アソシエーション、はたまたトゥルク音楽祭の芸術監督を務めており、さらには2020/21年のシーズンから名門オスロ・フィルの首席指揮者の座に就くというから驚きである。マケラの俊才ぶりが一躍クローズアップされたのは2018年の都響客演時と思われ、その「アンファン・テリーブル」ぶりにファンは大いに驚愕したのだった。そのマケラ、このたび2年ぶりの都響帰還。曲目はショスタコーヴィチの『レニングラード』、相手にとって不足なし。
4/20@東京芸術劇場 第901回 定期演奏会Cシリーズ(平日昼)
https://www.tmso.or.jp/j/concert/detail/detail.php?id=3352
4/21@東京文化会館
https://www.tmso.or.jp/j/concert/detail/detail.php?id=3353
多彩な活動を続ける気鋭パーカッショニスト會田瑞樹のB→C。ウェリ・ヘンドラッモコ(グンデル)、金子展寛(箏)を迎え自作も含めた品揃え。石井眞木から薮田翔一まで邦人6名にヘンドラッモコ、バッハ/白藤淳一 編と聴かせる。邦楽器、ガムランなど響の饗宴の中に何が浮かび上がるか。
4/21@東京オペラシティ リサイタルホール
https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=13523
松平敬と橋本晋哉によるユニットの演奏会も今回で12回目。松平頼暁、根本卓也、伊左治直の委嘱初演を含む7名の作品が披露される。また詞のクレジットとして、松井茂、佐々木治己、新美桂子の名前が並んでいる。言葉と音響の越境地点をしかと見届けたい。
4/22@杉並公会堂小ホール
https://tiget.net/events/72752
♩4/25,26 東京交響楽団 日英交流年「UK in JAPAN 2019-20」スペシャルイギリスプログラム
ジョナサン・ノットの母国イギリスと、ここ日本を繋ぐ今回の演奏会は、イギリスが誇るエルガー、ウォルトンの名曲と、ノットが見出した藤倉大の現代作品が並べられる。毎回何かしら驚かせてくれるノット・東響がこの日英プログラムで何も起こさないことがありえようか?期待、まことに大なり。
4/25@サントリーホール(第679回定期演奏会)
http://tokyosymphony.jp/pc/concerts/detail?p_id=ztZgQATTTCo%3D&month=04
4/26@ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎定期演奏会第75回)
http://tokyosymphony.jp/pc/concerts/detail?p_id=CIEieR6JXiU%3D&month=04
♩4/25,26 東京二期会 サン=サーンス《サムソンとデリラ》全3幕
東京二期会コンチェルタンテ・シリーズの第3弾、前回までと同じセミ・ステージ形式上演。これまでの公演では、オーケストラと歌手の位置により聴き取りにくさを指摘する声があった。会場の制約はあるだろうが、工夫されることを期待したい。
音楽面では、指揮の準メルクルに期待。二期会とは《ダナエの愛》《ローエングリン》など共演を重ねてきている。コンチェルタント・シリーズは初登場だが、コンサート指揮者としての経験を活かし、バランスのとれた演奏が聴けるだろう。
4/25,26@Bunkamuraオーチャードホール
http://www.nikikai.net/lineup/samson_et_dalila2020/index.html
♩4/28〜5/5 いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2020
緑薫るゴールデンウィークに世界のトップアーティストが金沢に集結してのコンサートの他、伝統芸能とのコラボレーションや市民参加型コンサートなど、金沢の街が音楽に溢れかえる祭典。ベネズエラ出身新鋭エンルイス・モンテス・オリバー指揮でのアメリカン・プログラムが注目の他「邦楽新時代」や「北陸・石川発のライジングスター」など溌剌企画が目白押し。5/3からの本公演に加え4/28からプレイベント(書家金澤翔子とのコラボなど)も開催、ゆっくりわくわく古都を楽しむのも良いのでは。
4/28~5/5@石川県立音楽堂他
https://www.gargan.jp