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ハインツ・ホリガーと仲間たち~ホリガー生誕80年記念~|齋藤俊夫

ハインツ・ホリガーと仲間たち~ホリガー生誕80年記念~
Heinz Holliger and Friends

2019年10月5日 浜離宮朝日ホール
2019/10/5 Hamarikyu Asahi Hall
Reviewed by 齋藤俊夫 (Toshio Saito)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)

<演奏者>        →foreign language
オーボエ、指揮:ハインツ・ホリガー
オーボエ、イングリッシュ・ホルン(*):マリー=リーゼ・シュプバッハ
ファゴット:ディエゴ・ケンナ
コントラバス:エディクソン・ルイース
チェンバロ:桒形亜樹子

<曲目>
ゼレンカ:トリオ・ソナタ第1番 ヘ長調 ZWV181
ハインツ・ホリガー:コントラバス・ソロのための前奏曲とフーガ
J.S.バッハ:トリオ・ソナタ第1番 変ホ長調 BWV525
細川俊夫:『結び―ハインツ・ホリガーの80歳の誕生日を祝して』(2019)(*)
ハインツ・ホリガー:『Klaus-Ur』ファゴット・ソロのための
ゼレンカ:トリオ・ソナタ第5番 ヘ長調 ZWV181

 

室内楽、器楽曲には独特の「親密さ」「近しさ」がある。いかな巨匠であっても聴きてと同じ目の高さで相対せねばならない。その虚飾の通じない舞台においても、やはりホリガーは巨匠であった。

ゼレンカ『トリオ・ソナタ第1番』ホリガーとシュプバッハ2人のオーボエ2本がまろやかな調べを奏でる第1楽章から、第2楽章に至り、こんなに明るく軽やかな音楽があったのかと感嘆。第3楽章のホリガーのオーボエは感情というより、情景が心の中に広がる。広い野原で迎える黄昏、そして日の出の情景か。第4楽章、陽光の下で、速さを感じさせない絶妙のテンポによるアンサンブル。一瞬エンハーモニクスか何かを経由して短調に至る瞬間にグッと表現力が迫ってくるが、最後はもちろん長調で終わる。天使やクピドのようなものが踊るこの世ならざる音楽。

ホリガー『コントラバス・ソロのための前奏曲とフーガ』、音を電子的にアンプリファイすると、音量はもちろん大きくなり、また音と耳との距離感が近くなるものなのだが、このコントラバス・ソロ作品は電子的操作など一切せずに、「逆アンプリファイ」とでも言うべき音の距離感の魔術が施されていた。ハーモニクスとスコルダトゥーラによる和音で、軋みつつ何故か濁りのない音が、激しくもあり、静謐でもあるという逆説に逆説を重ねた音楽を形作る。テンポも速く、手数も多く、ピアニシモあり、スフォルツァンドあり、だが、遠近感は「遠い」のである。最後はテールピースの近くをピチカートで「ビィン!」と鳴らして了。厳しい。硬い。そしてカッコいい。

J.S.バッハ『トリオ・ソナタ第1番』、先のゼレンカに比べると実に真面目な作品である。
全てが中庸の美を忘れない。温かく、心休まる。第2楽章の短調は敬虔ですらある。第3楽章は師・ホリガーを中心としたサークルの仲間との饗宴のようなアットホームさ。3拍子が3拍子のままカッチリと進む。実にジェントル。

細川俊夫『結び』は10月2日の東京オペラシティコンサートホールでの世界初演を聴いた直後だったのだが、コンサートホールよりずっと小さな会場で近距離で聴いたせいであろう、巨大な二匹の竜がとぐろを巻いているような大迫力の音楽が聴けた。付かず離れず、などではなく、響き合いつつしのぎを削る。いや、そのような形容すら許さないほどの絶対的な音楽。最後のオーボエのディミヌエンドでかき消えるまで耳そばだてて息を殺して聴かざるを得なかった。

ホリガー『Klaus-Ur』、ファゴットならではの超高速のパッセージを奏でるのだが、その音色がモゴモゴとしてはっきりしない……と見せかけて、間歇的に鋭いスフォルツァンドが謎なリズムで差し込まれる。次第にモゴモゴした音と鋭い音の比率が変わっていき、そこに唇などを使った「チュパッ」「キュキュッ」「クキュウゥウ」それにキーのタップ音などもまじり、ラップ・ミュージック的とも言うべきエッジの効いた超高速の音楽と化す。フォルテシモでの雄叫びの後、モゴモゴキュルキュルと不明瞭な音が連なり、了。いや、ファゴットとはかくも面白き楽器であったか。

最後のゼレンカ『トリオ・ソナタ第5番ヘ長調』はまさに貴族的遊戯。ファゴットはダイナミックに、オーボエは天上的に。第2楽章では憂愁に満ちながらも気品を忘れずに。第3楽章は対位法の妙技ここに尽くせりと言わんばかりの神がかった(天使がかった?)優雅な音楽が。

序盤と終盤にこそホリガーの疲れからか(なにしろ9月20日札幌、9月27日大阪、10月2日東京、10月4日盛岡、10月5日東京、10月6日福岡、10月11日名古屋という強行軍である)アンサンブルの縦の線にやや乱れがあったものの、「音楽の幸せ」を全身で感じられる素晴らしい演奏会であった。

(2019/11/15)

関連評:ハインツ・ホリガー《80歳記念》オーケストラ・コンサート|齋藤俊夫

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<players>
oboe,conductor: Heinz Holliger
oboe, English Horn(*): Marie-lise Schüpbach
fagotto: Diego Chenna
contrabass: Edicson Ruiz
cembalo:Akiko Kuwagata

<pieces>
Jan Dismas Zelenka: Sonate Nr.1 in F-Dur für 2 Oboe, Fagott und Continuo
Heinz Holliger:Prelude e Fuga 4 voci Für Kontrabass solo
J.S.Bach: Triosonata Nr.1 in E flat major, BWV525 for Oboe and basso continuo
Toshio Hosokawa:Musubi for Oboe and English Horn (*)
Heinz Holliger:Klaus-Ur for bassoon solo
Jan Dismas Zelenka:Sonate Nr.5 in F-Dur, ZVW 181 für 2Oboen, Fagott und Continuo