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ナポリのサルヴェ・レジーナ|大河内文恵

ナポリのサルヴェ・レジーナ
SALVE REGINA A NAPOLI

2019年7月9日 近江楽堂
2019/7/9 Oumi Gakudo
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)

<演奏>        →foreign language
阿部早希子(ソプラノ)
廣海史帆、池田梨枝子(ヴァイオリン)
中島由布良(ヴィオラ)
懸田貴嗣(チェロ)
渡邊孝(チェンバロ)

<曲目>
A.ヴィヴァルディ:モテット「まことの安らぎはこの世になく」RV630から
       Larghetto [アリア「まことの安らぎはこの世になく」]
N. ファーゴ:トッカータ
       Largo – [Allegro] – Largo – Allegro
N. ポルポラ:サルヴェ・レジーナ ヘ長調

~休憩~
L. レーオ:チェロ協奏曲 ニ短調
G.F. ヘンデル:モテット「大地が容赦なく荒れ狂おうと」

~アンコール~
A.ヴィヴァルディ:モテット「まことの安らぎはこの世になく」RV630より アレルヤ

 

ソプラノの阿部、バロック・チェロの懸田、チェンバロの渡邊はともにミラノ市立音楽院で学んだ同窓生で、6年前にCD録音をした仲間でもある。その3人が集まって、ナポリに縁のある作曲家の作品による一夜が催された。イタリア時代に書かれた作品とはいえ、ヘンデルまで含めてしまう緩めのプログラムは、どこか余裕すら感じさせる。

最初のヴィヴァルディのモテットは、冒頭のアリアのみが演奏された。歌い始めこそ抑えめだったが、ダ・カーポで冒頭に戻ってからの阿部のアジリタは聴きもの。この曲は中間部分に入るときに突然転調するのだが、その部分のチェンバロの導きかたが見事だった。

2曲目は渡邊のソロでファーゴのトッカータ。「あと1曲何か」と入れた曲だそうで、紙の楽譜ではなくタブレットを見ながらの演奏となった。ファーゴはナポリのコンセルヴァトーリオ(孤児院)で音楽を学び、ナポリで活躍した音楽家で、後半に演奏されるレーオの師匠でもある。第4楽章がどこかで聞いてことがるような、、、と思ったら、バッハのイタリア協奏曲にそっくり。なるほど、バッハが手本にしたイタリア音楽というのはナポリの音楽だったのかと妙に合点がいった。

前半の最後はナポリ派の中心人物の一人であるポルポラ。オペラ作曲家としても声楽の教師としても有名だったポルポラらしく、歌の旋律に聴かせどころが多い。高い音域の声に特徴のある阿部だが、この曲は全体に音域が低めでメゾ・ソプラノ用とも思えるもの。低い音域の阿部の声も新鮮で魅惑的。

後半はまず、レーオのニ短調のチェロ協奏曲。レーオのチェロ協奏曲は全部で6曲あるが、機会があればいずれ他の曲もと懸田のトークにあったので、全曲演奏に期待したい。今回の演奏会は上記の3人のほかにヴァイオリンの廣海と池田、ヴィオラの中島が入っている。ヴァイオリンのファーストとセカンドは曲によって交代しており、ヴィヴァルディとレーオは池田、ポルポラとヘンデルは廣海がファーストをつとめた。それは概ね功を奏していたが、レーオに関しては、ヴァイオリンがソリストよりも目立ってしまうことが少々あり、逆のほうが良かったのかもしれない。

この曲ではチェロの懸田が活躍したのはもちろんだが、渡邊の通奏低音に目を見張るものがあった。渡邊は右手の音をソリストの邪魔にならないように最低限しか入れない。音の加減具合が絶妙なのだ。それでいて、4楽章はしっかり盛り上げる。普段チェンバロは奏者の顔が客席側を向いているために手元は見えないことが多い。今回は後ろ向きでしかも小さな会場で手元までしっかり見えたために偶々気づいただけなのかもしれないが、上手い通奏低音奏者というのは、こういうことなのかと腑に落ちた。

最後はヘンデル。カルメル修道会の依頼によって作られたこの曲は、イタリアで作曲されたとはいえ、ヘンデルらしさ満載の曲で、阿部のアジリタが冴えわたる。とくに最後のアレルヤは阿部の高音の魅力がいかされた。その興奮そのままに、アンコールはヴィヴァルディの冒頭の作品のこれまたアレルヤ。最高音の美しさが際立っていた。

きっちり緻密に組み立てられたプログラムでなくてもここまで聴かせられるのはベテランの領域に入ってきた3人のなせる業であろう。こうした肩の力の抜けた演奏会もいいものだなとしみじみ思った。

(2019/8/15)

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<Performers>

Sopeano: Sakiko ABE
Vn: Shiho HIROMI , Rieko IKEDA
Va: Yura NAKAJIMA
Vc: Takashi KAKETA
Cemb: Takashi WATANABE

<Program>
Antonio Vivaldi:
   Motetto per Soprano e archi “Nulla in mundo pax sincera” RV630 Larghetto
Nicola Fago:
   Toccata per cembalo [Biblioteca del Conservatorio di musica S. Pietro a Majella – Napoli, Segnatura: Rari 1.9.2(2)]
Nicola Popora:
   Salve Regina a voce sola con strumenti in Fa maggiore (1730)
—-Intermission—-
Leonardo Leo:
   Concerto per violoncello solo e archi in re minore L.60 (1738)
George Frideric Handel:
   Motetto per Soprano e archi “Saeviat tellus inter rigores HWV240
—-Encore—-
Antonio Vivaldi:
   Motetto per Soprano e archi “Nulla in mundo pax sincera” RV630 Alleluia