Pick Up (19/3/15)|林喜代種さん受賞に寄せて|丘山万里子

(c)道上定

林喜代種さん 第29回新日鉄住金音楽賞特別賞受賞に寄せて

text by 丘山万里子(Mariko Okayama)

本誌の『撮っておきの音楽家たち』執筆のほか、本誌レビューの多くを撮影なさっている林喜代種さんが、このたび第29回新日鉄住金音楽賞特別賞を受賞された。
【贈賞理由】は以下。
今や誰もがスマートフォン(カメラ付き携帯電話)で簡単に日常を撮る時代。そもそもカメラもフイルムからデジタル化となって久しく、機能の進化も驚異的なレヴェル。そういう時代だからこそ撮り手の情熱は必要不可欠で、林氏の写真から感じる熱量は音楽の現場そのもの。長きに亘って撮って来られた“瞬間”は、楽壇史であり、時に言葉以上の力を持つ。(上田弘子選考委員)
http://www.nssmc.com/common/secure/news/20190305_100.pdf

筆者は林さんとは長いお付き合いだ。
1981年9月、第2回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバルを取材した時、掲載に必要な写真を受け取りに荻窪駅で落ち合ったのが最初だと思う。
写真家ってどんな感じなんだろう、と駆け出しの筆者はいくらかどきどきしたものだ。
挨拶と封筒手渡しで、あっという間のことだったが、気さくな方でほっとした。
99年に音楽批評紙『ブリーズ』を発行した時『撮っておきの男たち』コーナーを受け持っていただいた。
どうして林さんが引き受けてくださったのか、今となっては思い出せない。
ただ、「なぜ、男たち、なんですか?」と聞いたら、「僕は男しか撮らないの」だった。
目くじら立てることではない。何を対象にするかは、表現の自由だ。
発行した3年間は、今のように写真をパソコンで送れるような時代ではなかったから、お互いに便利な西荻窪駅の改札口で受け取るのを月2回繰り返した。いやはや。
2004年にウェブマガジンJAZZTOKYOに携わるようになった時もお願いし、今度は『撮っておきの音楽家たち』とタイトルも「音楽家たち」に変わった。男のみ、だったのが女も含む、となった経緯は知らない。女性アーティストの登場はやはり少ないけれども。
最後が『#110. マルティン・シュタットフェルト』となっているから、その数110回。すごい。
http://www.archive.jazztokyo.org/column/hayashi/110.html#
むろん、公演写真もお願いしたのだから、厚かましいこと限りない。
さらに本誌となったわけだが、『撮っておき』のほか、レビューの写真、しかも時には10点近く(絞りきれない、とのこと)掲載できるのは全く僥倖というほかない。

氏は一昨年、個展を開いた。『響 Ⅱ』である。
2004年に第1回を開催、筆者はそれにも行った。
ずらり並んだ大御所・中堅・若手演奏家のショットに「うわあ」と、頭がクラクラするようだった。一葉一葉から、一人一人が話しかけてくるのだ。
『Ⅱ』では、ユジャ・ワンの愛くるしい笑顔を見つけ、「これ、見たことない笑顔!さすがですねえ。」と感嘆すると、「そうそう、彼女のこんな顔、珍しいでしょ。僕、気に入ってるの。」と嬉しそうに笑った。
ユジャの笑顔、筆者のコラムにご提供いただいている。
http://mercuredesarts.com/2018/05/14/cadenza-how_about_yuja_wang-okayama/

この個展をご紹介するため、後日、ディナーを共にしながらのうちとけ時間を持ったのだが、ちゃんとお話を伺ったのはこれが初めて。
「相手のことを理解しなければ、いい写真は撮れない」が氏の信条、と記事に書いたが、
自分が自分が、という気持ちを消してこそ、ユジャの笑顔も生まれたのだと思う。
ぜひお読みいただきたい。
http://mercuredesarts.com/2017/04/13/pick-up_kiyotane-hayashi/

Webで気軽に粗悪な写真がばらまかれる時代になった。
被写体になるアーティストもどんどん神経質になり、撮影をシャットアウトしたり、掲載用写真のチェックも厳しくなった。
肖像権は当然であるが、一方、こうした規制により、フリーの写真家が自由な活動をしにくくなっている現況を筆者は憂えている。
これから、この種の規制は増してゆくだろう。
それは、氏のように、「相手の気持ちを理解すること」を大事にするために必要な人間的な触れ合いの場が減ってゆくことでもある。
写真とは、一期一会、との氏の言葉のように、その瞬間を切り取るために何が必要か。
どれだけのエネルギーの互いの交換がそこで行われるか。
それは「1回限りの歴史的事実」、アーティストと撮影者の「邂逅」の記録であり、そこに私たちは時代の精神をも読み取る。

林さんの仕事が今回のような形で評価・表彰されることを心から喜びたい。

林さん、おめでとうございます!

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なお、林さんご自身が2018年のベストとして選ばれた『撮っておき』とコメントは以下。

ニコラ・アルトシュテット(指揮&チェロ奏者)
2018/7/15 号 vol.34
http://mercuredesarts.com/2018/07/14/photos-nicolas_altstaedt-hayashi/

アイゼンシュタットを本拠とする「ハイドン・シンフォニー」を率いて来日、モダンなデザインの衣装とともに、指揮者として、チェロ奏者としての未来形を感じさせ、耳目を奪われシャッターを切った。クラシック界の新たな風雲児として注目したい。2019年1月読響とのラロ『チェロ協奏曲』が期待される。

撮っておきの音楽家たち

 (2019/3/15)