新国立劇場 プッチーニ:オペラ《トスカ》|藤堂清

新国立劇場 開場20周年記念 2017/2018シーズン
ジャコモ・プッチーニ:オペラ《トスカ》全3幕〈イタリア語上演/字幕付〉

2018年7月15日 新国立劇場 オペラパレス
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 寺司正彦/写真提供:新国立劇場
   (撮影:6月29日ゲネプロ、トスカ:キャサリン・ネーグルスタッド)

<スタッフ>
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ
美術:川口直次
衣裳:ピエール・ルチアーノ・カヴァッロッティ
照明:奥畑康夫
再演演出:田口道子
舞台監督:斉藤美穂

<キャスト>
トスカ:小林厚子
カヴァラドッシ:ホルヘ・デ・レオン
スカルピア:クラウディオ・スグーラ
アンジェロッティ:久保田真澄
スポレッタ:今尾 滋
シャルローネ:大塚博章
堂守:志村文彦
看守:秋本 健
羊飼い:前川依子
合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団/びわ湖ホール声楽アンサンブル
児童合唱:TOKYO FM少年合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

すばらしい舞台。これぞオペラ!
音楽が引き締まり、歌手もそろい、演出面も無駄がない。

新国立劇場の演目の中でも、長寿命のこのプロダクション、2000年以来7回目の上演となる。今回は、初演のときの指揮者、マルチェッロ・ヴィオッティの息子、ロレンツォ・ヴィオッティがタクトをとった。ロレンツォは28歳、すでに何度も来日し、東京交響楽団の定期公演などを指揮している。また昨年、ザルツブルク音楽祭へのデビューを果たしている。

演奏面でまずあげるべきは、そのロレンツォの指揮。
出だしの3つの和音からオーケストラの響きに強い凝縮力を感じる。全体的に遅めのテンポだが、まったく弛緩することがない。あるべき音があるべきところにと、徹底している。スコアを読み込み、慣習的に行われてきたルバートやテンポの変化を拭い去り、新鮮な音楽を聴かせてくれた。歌唱面でも同じように楽譜に忠実にという要求をしていたのだろう、歌手の歌に引き延ばしたり走ったりといったところがなく、言葉の一言一言がくっきりと浮き上がる。

この日は、主役の一人トスカを歌う予定であったキャサリン・ネーグルスタッドが体調不良で降板、カヴァーの小林厚子が出演した。彼女は、この公演と同じ時期に同じ舞台で行われていた、平成30年度 高校生のためのオペラ鑑賞教室「トスカ」でタイトルロールを歌っており、歌唱だけでなく演技の点でも準備は万全であった。第1幕でのカヴァラドッシへの愛情と嫉妬の表現。彼の描いている女性像をみて “Chi è quella donna bionda lassù?” と問い詰める口調、彼の説明を受け入れ、出ていくときの “Ma falle gli occhi neri!…” というつぶやくような響き、トスカの感情の振れ幅の大きさを表現。第2幕のアリア〈歌に生き、愛に生き〉も、彼女の苦しい気持ちが伝わる歌唱であった。
ほかの主役二人も高水準。とくにスカルピアのクラウディオ・スグーラの悪役ぶりには感服した。大きな声で威圧するのではなく、スタイリッシュに歌いながら、言葉の表情だけで相手を屈服させる。第1幕でトスカの嫉妬心をあおる場面の、いかにも親切心から言っているという歌い口、続く “Va, Tosca!”からテ・デウムでの力感。カヴァラドッシのホルヘ・デ・レオン、持役としてはラダメス、ドン・ジョゼといった重めが中心だが、柔らかな声を持ち、この日は指揮者の要求に的確に応えていた。

演技面では、再演演出の田口道子が18年前の舞台を活かしきった。この日が最終日ということもあったのだろう、ソリストや合唱の動きも自然に感じられた。新しさや驚きはないけれど、こういったプロダクションで継続的に上演できるということが、劇場の基礎力になっているのではないか。
新国立劇場がオープンして間もない時期に作られた装置は、その舞台機構を存分に使っていて、第1幕、第3幕では上下や左右の舞台転換があり効果的。だが、それが他の劇場での上演を困難にしている。この《トスカ》は、びわ湖ホールでの公演が予定されており、新国立劇場以外の劇場との共同制作がさらに拡がっていくことを期待したい。

関連評:びわ湖ホール・新国立劇場提携オペラ公演『トスカ』|能登原由美

(2018/8/15)