アラン・ギルバート首席客演指揮者就任披露公演 都響スペシャル|藤原聡

アラン・ギルバート首席客演指揮者就任披露公演 都響スペシャル

2018年7月15日 サントリーホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
東京都交響楽団
指揮:アラン・ギルバート

<曲目>
シューベルト:交響曲第2番 変ロ長調 D125
マーラー:交響曲第1番 ニ長調『巨人』(クービク新校訂全集版/2014年)

 

2011年7月におけるアラン・ギルバートの都響初客演。各変奏のキャラクターを明確かつていねいに描き分けたブラームスの『ハイドンの主題による変奏曲』、そしてともすると力ずくになる可能性なしとしないところを極めてしなやかに各声部の絡みが織り成す響きの彩を掬い取ったブラームスの『第1』。この2曲の実演に接した聴き手はアランと都響の音楽的相性の良さを感じ取ったことだろう。最初の共演からこのように緊密な音楽を聴かせることはそう多くはあるまい。その後の客演はしばらく間が空いての2016年1月、次に7月(この時のマーラー『第5』の凄演は筆者が聴き得た都響の実演中でも最高のものの1つだ)、そして2017年4月の共演を経ての首席客演指揮者就任。本公演はその就任決定後のいわば「お披露目公演」であり、ここにアランが再びマーラーを持って来たことについては、このレパートリーに関してのアランの並々ならぬ自信の表れと捉えてよかろう。『マラ5』を越える演奏を聴かせてくれるのか、どうか。

そのマーラーの前にはシューベルトの交響曲『第2番』が取り上げられた。実演ではなかなかお目にかからない曲だが、素晴らしい曲だから是非聴いて欲しい、とのアランの希望のようだ(アランの当曲の「お気に入り具合」はニューヨーク・フィルのウェブサイトで同フィルを指揮したライヴ音源が公開されていることからも伺える。Spotifyでも聴取可)。演奏は極めてオーソドックス、編成は12型で対向配置を取る。両端楽章で連続する弦楽器群の走句にはやや重々しさを感じ、この辺りはピリオド楽器による演奏やより小ぶりな編成による演奏を聴き慣れていることによるものかも知れない。とは言え、殊に内声部の刻みを際立たせることにより壁塗りにならない立体的な弦楽合奏を生み出していたのはさすがアランである。総じて曲の美しさを素直に感知させる演奏になっていた。

後半は件のマーラー。都響側からの当初のアナウンスによれば使用楽譜はウニヴェルザール社のウェブサイトを参照し「1893年ハンブルク稿/『花の章』を使用とあったが、結果的にはスコアの表記に従って「クービク新校訂全集版/2014年」と呼称する、とのこと。いわゆる「ハンブルク稿」とこの「クービク新校訂版」の違いは、プログラムの寺西基之氏の解説を参照させて頂けば1893年10月に初演された稿(これが一般にハンブルク稿と言われているもの)にその後の改訂が採用されたもの、ということだ。これは聴いてはっきりと分かるような相違であり、例えば第1楽章冒頭の弦のフラジオレットはハンブルク稿にはないがクービク新校訂版にはある。9小節目の狩の音型はハンブルク稿では舞台上のホルンだがクービク新校訂版では舞台裏のホルンであるし、第4楽章(決定稿では第3楽章)の冒頭もハンブルク稿では独奏チェロと独奏コントラバスのユニゾンであるが、クービク新校訂版では独奏コントラバスのみとなる。編成で言えば3管編成から4管編成に拡大され、ホルンも4本から7本に増やされている。より決定稿に近付いたのがクービク新校訂版ということになろうか(この辺りを深堀りするのが本稿の目的ではないのでこの話題は切り上げるが)。

さて演奏そのもののことを。比較するのもどうかと思うけれども2015年に接したヘンゲルブロック&NDRエルプ・フィルの同使用楽譜に基づく実演では現行版に比べていかにもオケが鳴らな過ぎて貧相、音響も平板と思ったものだが、その責任の大部分は指揮者にあったとこのアラン・ギルバートの演奏を聴いてたちまち理解できた。前半こそ抑制された響きを聴かせていたものの、終楽章へ入るや否やその力感を大きく開放する見事な演奏設計。現行版に遜色ない響きの質量は見事なものであるし、随所で入るルバートやテヌート、アッチェレランドの効果も抜群である(但しこの辺りのテンポの動かし方は現行版では見られぬものであり、これがクービク新校訂版のスコアに記譜されているものなのかアラン独自の解釈なのかは判然としないが)。オケは金管がいささか不調であったし(『花の章』でのトランペットの不安定さ…)、弦楽器も第2楽章で合奏がバラけるような瞬間がありはしたが、総じて指揮者の音楽を高いレヴェルで具現化していたと思う(筆者が聴いたのは15日だが、翌16日は恐らくより練れた高レヴェルの演奏となっていたことだろう)。
とは言え、先述した2016年7月のあの奇跡的な一体感とハイテンションを見せ付けた『マラ5』に比べればその燃焼度と完成度、正確性では劣る、というのが偽らざる思い。元々の期待値が高いからということはあろうが、アラン&都響のコンビならもっと「飛べる」はず。今後の彼らには本当に期待している(尚、この日のオケの金管群と木管群の配置はいつもの都響と異なり、前者ではホルンとトランペットが右側、トロンボーンが中央、さらにはテューバが左側。木管ではファゴットが左でクラリネットが右。後者はコンセルトボウ管と同じである)。

 (2018/8/15)