自選<ベスト・レビュー> &<ベスト・コラム>(2017年)
自薦<ベスト ・ レビュー> →自選<ベスト・コラム>
本誌2016/12/15 号〜 2017/11/15 号掲載のレビュー より、レギュラー執筆陣 10 名 が自薦 1作を挙げたものである。なお、 自薦ベストには自分が行った公演のベストを挙げた執筆者と、評文の自己評価ベストを挙げた執筆者が混在していることをお断りしておく。
1. 大河内文恵
アンドレア・バッケッティ ピアノ・リサイタル
2016/12/15号 vol.15
アンドレア・バッケッティ ピアノ・リサイタル|大河内文恵 (2016/12/15)
演奏会との出会いは一期一会。始まるまで、いや終わるまで何があるかわからない。レビュアーにできるのは、一瞬一瞬、真剣に向き合い、言葉にすることだけ。それができているかどうかは神のみぞ知る、のかもしれない。
2. 大田美佐子
Ensemble ZAZA 2016 コンサート 消された声
2016/12/15 号 vol.15
Ensemble ZAZA 2016 コンサート 消された声|大田美佐子 (2016/12/15)
その場だからこそ成立する音響、環境を通して、奏者も聴者も五感が開かれ、場と共鳴し合い、音楽の聴き方が変わるのを感じるという希有な体験をしました。皆様にもぜひ訪れて頂きたい現場でした。
3. 丘山万里子
小賀野久美 ピアノ・リサイタル〜三善晃に捧ぐ〜
2017/08/15号 vol.23
小賀野久美 ピアノ・リサイ タル|丘山万里子 (2017/8/15)
この時間が何であるか、あったか、を考え続けたコンサート。筆はいきおい、感受と思念の間を探るように進んだ。作品と奏者の投げかけるもの 、コンサートを貫くもの を掴まえ、言語化 しようと努め「追憶・因果・意志」に辿り着いた 時の明度 。
4. 片桐文子
東京春祭歌曲シリーズ vol. 21 エリ ー ザ ベト・ クールマン
2017/05/15号 vol.20
東京春祭歌曲シリーズ Vol.21 エリーザベト・クールマン|片桐文子 (2017/5/15)
クールマンの圧倒的な歌唱と身体表現の豊かさ、曲目構成の創意工夫。そしてピアノのクトロヴァッツの独特の存在感。忘れがたいコンサートだった。東京春祭の歌曲シリーズでは、今が旬のパワフルな歌手のパフォーマンスを、東京文化会館の小ホールという親密な空間でじっくりと味わえる。創造的なプログラムの組み方も尊敬に値する、贅沢な企画。
5. 小石かつら
KCM Concert Series at Osaka Club No. 108 プラジャーク・クヮルテット
関西弦楽四重奏団〜弦楽四重奏の祭典〜
2017/01/15号 vol.16
プラジャーク・クヮルテット関西弦楽四重奏団|小石かつら (2017/1/15)
このレビューを読み返してみたとき、まざまざと演奏会の様子が蘇り、音楽が聴こえてき
た。忘れっぽい私故、 1 年前の演奏会の記憶はなかった。音楽を文章化する、という意味
において、恥ずかしながら自画自賛。
6. 齋藤俊夫
ラトヴィア放送合唱団
2017/06/15号号 vol.21
ラトヴィア放送合唱団|齋藤俊夫 (2017/6/15)
作品・演奏の解説とその感想・印象を越えて、音楽との出会いの感動を表現できたレビューだと自分でも評価できます。ロマン主義的な色が濃いのも自分の個性だと思い、これをベストレビューとします。
7. 谷口昭弘
全国共同制作プロジェクト プッチーニ 歌劇《蝶々夫人》
2017/03/15号号 vol.18
プッチーニ歌劇『蝶々夫人』|谷口昭弘 (2017/3/15)
音楽評論というものについて、未だにどういうものが良いのか、自分はどういう方向性で書いているのかが分からないまま試行錯誤が続いている。その中で、何となくではあるが、多少書いていることに手応えを感じ、一つの形を見出すことができたものとして、これを掲げたい。ただ、今後の精進をも必要と感じた上での選択であることはご了承いただきたい。
8. 藤堂清
ナタリー・デセイ&フィリップ・カサールデュオ・リサイタル
2017/05/15号号 vol.20
ナタリー・デセイ&フィリップ・カサール|藤堂清(2017/5/15)
演奏家に対するリスペクトが明らかになるように書けた評である。コンサートの内容に具体的にふれること、また筆者の聴いたときの感情を表現すること、さらに、この演奏家の、今まで、現在に言及し、今後への期待を述べること、これらをバランスよく盛り込むこと今まで、現在に言及し、今後への期待を述べること、これらをバランスよく盛り込むことができた。
9. 能登原由美
ハイナー・ゲッベルス × アンサンブル・モデルン 『 Black on White 』 エドガー・アラン・ポーとモーリス・ブランショのテキストに基づく音楽劇
2017/11/15号 vol.26
ハイナー・ゲッベルス×アンサンブル・モデルン|能登原由美(2017/11/15)
音楽を前にして「何も語れない」と思った初めての経験だった。
硬直した身体、閉じた耳ーそれまでの私自身の音楽への向き合い方が激しく問われているように思えた。
もっと開放したい・・・体の内から涌き上がる言葉をしたためたもの。
10. 藤原聡
札幌交響楽団 第604回定期演奏会 エリシュカ&札幌交響楽団
2017/11/15号号 vol.26
札幌交響楽団 第604 回定期演奏会|藤原聡(2017/11/15)
コンサートは言うまでもなく一回性の出来事で、ただ音楽を聴くのみならず、その「場」のアトモスフェアを丸ごと心と体で受け止める場だと思う(ベンヤミン的に「アウラ」と言ってもよいが)。そのような一回性を読む方が文章上で追体験できるようなものを一応は目指して書いているつもりなのだが、このエリシュカ 札幌交響楽団のコンサート(エリシュカの日本のファンへの告別コンサート)は、通常のコンサートにも増して特別なものであり、それをそれなりに文章上に定着させることが出来たと思われたのでこれを自薦とした。誠に感銘深いコンサートであった。
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自薦<ベスト・エッセイ>
本誌2016/12/15号〜2017/11/15号掲載のコラムより、レギュラー執筆陣が自薦1作を挙げたものである。
1. 丘山万里子
いわきの《ボクとわたしとオーケストラ》
2017/03/15号号 vol.18
カデンツァ|いわきの《ボクとわたしとオーケストラ》|丘山万里子 (2017/3/15)
感情移入過多の原稿だが、その時の正直な筆であり、こうとしか書けなかった。記録としても残しておきたい気持ちが強く、ベストとした。
2. 林喜代種
撮っておきの音楽家たち|スティーブ・ライヒ
2017/03/15号 vol.18
撮っておきの音楽家たち|スティーブ・ライヒ|林喜代種
関連評:スティーブ・ライヒ 80th ANNIVERSARY 『テヒリーム』|藤原聡(2017/4/15)
スティーブ・ライヒの
80 歳記念公演 で、ライヒ自身も演奏者として加わった「クラッピング・ミュージック」他、素晴らしいステージだった。 2006 年第 18 回高松宮殿下記念世界文化賞受賞時、他の受賞者と並んだ貴重なショット(絵画の草間彌生、演劇・映像のマイヤ・プリセツカヤら)も加えている。
3. 松浦茂長
女の力 誘惑の構造
2017/02/15号号 vol.17
パリ・東京雑感|女の力 誘惑の構造|松浦茂長(2017/2/15)
西欧の芸術で、最も精神的な作品から強烈な官能の香りが立ち上りどきっとすることがある(たとえば、ベートーヴェン、ミケランジェロ)。
その源泉を中世の神秘主義にたどるエッセイをいくつか試みたが、クラーナハのなぞ解きをするうち、キリスト教世界よりはるか昔にもう一つの源泉を見つけられたように思う。旧約聖書の中に隠れていた女神の救済力を発掘したのはフェミニズム聖書学の功績。コレージュ・ド・フランスでたまたま耳にしたタマルの物語の解釈が、なぞ解きのヒントになった。
(2018/5)