東京フィルハーモニー交響楽団 第905回 オーチャード定期演奏会|谷口昭弘

東京フィルハーモニー交響楽団 第905回 オーチャード定期演奏会

2018年3月11日 Bunkamura オーチャードホール
Reviewed by 谷口昭弘 (Akihiro Taniguchi)
Photos by 上野隆文/写真提供:東京フィルハーモニー交響楽団

<演奏>
東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:アンドレア・バッティストーニ
ピアノ:小曽根 真
エレクトリック・ベース:ロバート・クビスジン
ドラムス:クラレンス・ペン

<曲目>
フリードリヒ・グルダ:《コンチェルト・フォー・マイセルフ》
(アンコール)
Makoto OZONE: MY WITCH’S BLUE
(休憩)
セルゲイ・ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 Op. 27

 

前半のグルダ作品はオーケストラとジャズ音楽家の共演ということで、耳の方は、どちらの音楽ジャンルがどのように提示され他方に関わっているのかを気にしつつ聴いた。冒頭はクラシック的要素。モーツァルト風の颯爽としたリズムと優しいピアノに対し、オーケストラは彩りと厚みをつけていく。小曽根の独奏は少しずつそれを、舞台前方に並ぶエレクトリック・ベースとドラムスへと橋渡ししていく。やがてジャズ的なサウンドが、小曽根を含めた3人から立ち上がる。ピアノというのは、ジャズとクラシックの2つのジャンルのどちらにも使われる楽器だから橋渡しがしやすいということもあるが、小曽根のやリ方から2つのジャンルの違いがリズムだけでなく、旋律のハーモナイズにあることが分かってくる。いかにジャンルの異なるジャンルのミュージシャンたちが仲良くやるかを大切にした第1楽章だった。
第2楽章は、ポピュラーでは一般的なスタンドプレーによるオーボエ独奏で始まる。ドラムスはブラシを中心に音色的な機能を果たしていた。ベースはオーケストラが主導する旋律に対しオブリガートを美しく乗せていく。しかし後半、瞑想的になると、少しずつドラムスがリズム的な支えとなり、オーケストラが休止するとピアノもスイングし、オーケストラも彼らのジャズ路線に参加していく。微妙なスタイルの移行を小曽根は敏感に感じ取っていく。
第3楽章は独奏ピアノが楽器の弦を直接弾いたり、弦を抑えながら鍵盤を押さえたり、マレットで弦を叩いたりという内部奏法に加え、ボディを叩いたり。やがて通常の奏法を交えて激しいリズムの追い上げとともに、ピアノは巨大な音響体へと変貌する。続いて演奏される第4楽章は、幸せな6/8拍子のファンファーレから、熱狂のフィナーレへ。大まかな外枠はオーケストラで、中身はジャズのトリオでという方向性だっただろうか。

筆者はこの曲をグルダ自身がピアノで弾き振りする動画を見たことがある。今回はバッティストーニが指揮を司った。彼は情熱的にタクトを振っていたのだけど、全体の熱狂はステージ前方の3人のミュージシャンが行い、オーケストラはそれをやさしく祝福する形の音楽になっていた。これを予定調和的と批判することは可能かもしれないと思いつつ、ジャンルを跨いだコラボレーションの妙技として暖かく受け入れることも悪くはないだろう。

後半はフルオーケストラの実力を楽しむラフマニノフの交響曲。冒頭からバッティストーニは、低弦・木管楽器群・高弦の3つをくっきり描き分けていく。色と明るさがぐっと出ては消えて行く冒頭。ソナタ主部に入るとホールの音響のおかげかもしれないが、アットホームでふくよかな、室内楽的なサウンドが聞こえてくる。展開部にしてもセンセーショナルなドラマをことさら強調するのではなく、一筋の滑らかな線として音楽がつながってくる。とはいえ再現部に至る部分では一気に緊張の山を作り興奮させ、素早く鎮めていった。
第2楽章は、前楽章に引き続き中低音域の膨らみがあり、そのふわっとした雲のような音空間に弦楽器や金管楽器の光が差し込まれてくる。要所要所の切り替えは明確だが、各声部のクリアさは、もうすこし欲しいところ。ただ豊かな残響に混ざり合う音響はやせておらず、テンポの早い箇所では、思い切って一息咳き込んだ前のめりの拍節感がスケルツォを前進させる。
第3楽章は優しく包み込む弦楽に乗せて細やかに伸びるクラリネット独奏が美しい。感情はすぐに乗ってきて、楽章全体を貫く流れが作られる。しかし感情が高ぶりすぎて息詰まってしまうような瞬間がなかったのはかえって安心して聴くことにつながり、好感を持った。
フィナーレでは、静かな箇所におけるヴァイオリンの緩やかで、しかししつこくない音運びが印象に残る。またオケ全体がヴォーカル・アンサンブルの延長で捉えられ、音楽の本質が歌にあることを改めて認識させてくれる。団子状になっている箇所もあったかもしれないが、最後はアクセルを踏んで一気呵成に畳み込み、こちらもすっかり乗せられてしまった。

(2018/4/15)