BBC 交響楽団来日公演|藤原聡

BBC交響楽団来日公演

2018年3月8日 ミューザ川崎シンフォニーホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:サカリ・オラモ
ヴァイオリン:アリーナ・ポゴストキーナ

<曲目>
ブリテン:歌劇『ピーター・グライムズ』より4つの海の間奏曲 Op.33a、パッサカリア Op.33b
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35
(ソリストのアンコール)
チャイコフスキー(グラズノフ編):『なつかしい土地の思い出』~メロディ(オケ伴奏付)
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68
(オーケストラのアンコール)
シベリウス:『ペレアスとメリザンド』~間奏曲

 

私事で恐縮だが、大概のメジャー・オーケストラは実演に接したことがある中でBBC交響楽団はその限りではなかった。ブーレーズのシェーンベルクやアンドルー・デイヴィスによるヴォーン=ウィリアムズは愛聴盤であるし、異色の名演であるバーンスタインのエルガーなども良く聴いたものだ。最近の演奏ではビエロフラーヴェクのマルティヌーも素晴らしい。それらを聴いた限りでは、他のロンドンのオケにも共通する特色とも思うがオケ自体に強烈な個性というか自己主張が見られぬ代わりに非常に高い機能性と柔軟性を備えた優秀な団体という印象がある。実演への期待が高まるが、指揮は2013年から同オケの首席指揮者を務めるサカリ・オラモ。

1曲目は彼らにとってのお国ものたるブリテンだが、これがユニークな演奏であった(間に『パッサカリア』を挟む構成もまた)。<夜明け>よりテンポはやや速め、レガートというよりもスタッカート気味に楽器を発音させ、荘厳な神秘性やスタティックさを感じさせる、いうよりはもっと現実的な音楽となっていた感。これは3曲目の<月の光>も同様で、静謐さ、もっと言えば表面的な美しさの底に潜む不気味さやオペラの内容(結末)を暗示させるような象徴性にはいささか欠ける音楽となっていたように感じる。このような演奏傾向だけに終曲の<嵐>はダイナミックに金管群を鳴らし凄まじい迫力を聴かせたが、オケは粗い。ここでオケの印象を記せば、弦楽器群はシルキーというよりも独特のザラツキ感があるが上手く、これに対して木管群の技術的水準はこの日の演奏を聴く限りではさほど高くはない。吹奏が安定しておらず音の揺れが散見され、音色も洗練味を欠く(但しその音自体は個性的なものであり――特にクラリネットとオーボエ――、単に「上手くない」と言うにはなかなかに魅力的な音色)。金管群は水準が高いが、ここでも洗練というよりは豪放な魅力で聴かせる、という具合。とにかく音が大きい。ロンドンの他のオケに比べて、技術水準はいささか劣るが音自体は他にない個性を持つ、という印象(これは録音では感じなかった点)。まあ技術水準で言えば連夜のコンサートによる疲れなどもあろうし、定点観測的に何度もこのオケの実演を聴いている訳ではないのでこれ以上のことは言えぬが。

2曲目はポゴストキーナを迎えてのチャイコフスキーだが、これは相当な名演。この人の音色には繊細な変化があり、その音は入念に練り上げられていて美しいが、それでいて低音の迫力にも欠けることがない。ミューザ川崎シンフォニーホール2階前列席はバランス良い音が飛んでくる反面、演奏によっては音の直接的な迫力に欠けその輪郭がぼやける事がないとも言えないが、しかしこの日のポゴストキーナの演奏ではそのようなことがまるでなかったのが驚きである(ここで聴くヴァイオリン・ソロは多かれ少なかれ「遠い」印象があるのが通例なのだ)。よほど「鳴らし方」が卓越しているのだろうが、中でも第2楽章の凛とした美しさが絶品。サポートのオラモ&BBC響もブリテンとは打って変わった洗練を聴かせる(勿論曲想の違いからそう聴こえるにせよ)。既に繰り返し共演しているポゴストキーナがソロということもあるだろうが、ここでのオラモの伴奏は実に卓越しており、ソロのちょっとしたルバートや音量、ニュアンスの変化に即座に対応して余すところがない。このような演奏ゆえ、全体にはサッパリとしたクール系の演奏でありながら音楽的に全く物足りなさを感じなかったのである。この曲の実演で久しぶりに感銘を与えられた。アンコールにはオケも加わってのチャイコフスキー『メロディ』、これもまた美演。

休憩を挟んでのブラームスは正々堂々の横綱相撲的演奏。「オラモ色」を感じせたのは相当に重々しい第1楽章序奏と終楽章コーダの「溜め」位で、他の箇所は至ってオーソドックス。しかし、木管群と金管群の音色の個性と音の大きさゆえ、通例聴かれるこの曲の音響バランスから突出してそれらの動きが明快に聴こえて来る箇所も散見されたのが面白い(オラモの「解釈」ではなくオケの個性だろう)。それにしても余りに朗々たる終楽章の有名な例のホルン吹奏には驚かされた。この骨太さがBBC響の魅了なのかも知れない。アンコールにシベリウスの『ペレ・メリ』から間奏曲、愉悦感に満ちた快演。

当夜のコンサート、全体に派手に大向う受けするような内容ではなかったが、良い音楽を聴かせてもらった、と思う。

 (2018/4/15)