サイモン・スタンディジと仲間たち|大河内文恵

サイモン・スタンディジと仲間たち

2018年2月12日 所沢市民文化センターミューズ キューブホール
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 村越慧/写真提供:スタンディジと仲間たち

<演奏>
サイモン・スタンディジ(ディレクター/ヴァイオリン)
広瀬奈緒(ソプラノ)
フランチェスコ・コルティ(チェンバロ)
天野寿彦(ヴァイオリン、ヴィオラ)
迫間野百合(ヴァイオリン)
丸山韶(ヴァイオリン、ヴィオラ)
吉田爽子(ヴァイオリン、ヴィオラ)
懸田貴嗣(チェロ)
島根朋史(チェロ)
西澤誠治(コントラバス)

<曲目>
A. ヴィヴァルディ:2つのヴァイオリンと2つのチェロの為の協奏曲 ト長調 RV 575
J. S. バッハ:チェンバロのための協奏曲 BWV 1052 ニ短調
H. パーセル:『妖精の女王』より組曲とアリア

~休憩~

G. ヴァレンティーニ:4つのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための協奏曲 作品7第11番 イ短調
J. S. バッハ:ヴァイオリンのための協奏曲 BWV 1042 ホ長調
G. F. ヘンデル:合奏協奏曲 作品6第12番 ロ短調

~アンコール~
G. F. ヘンデル:オラトリオ《ヘラクレス》より アリア「私の胸は優しいあわれみに満ちる」

 

正直にいうと、このコンサートのタイトルだけを見たとき、期待していい演奏会なのかそうでないのか、非常に迷った。「○○と仲間たち」といったタイトルから想像されるのは、どちらが上かは別としてメンバー間に上下関係が存在することを連想させるからだ。

だが、今日のコンサートはそうではなかった。スタンディジがディレクターではあるのは確かだが、他の仲間との関係はあくまでフラットであるように見えた。どうやら杞憂だったようだ。

スタンディジのヴァイオリンの音色が艶やかで魅力的なのはもちろんだが、他の奏者もそれに負けない魅力を放っていた。2曲目のバッハのチェンバロ協奏曲は、終始黒子に徹していたチェンバロ奏者コルティが唯一、表舞台に登場した曲である。聴きなじみのある曲のはずなのに、「こんなに面白い曲だったっけ?」と何度も首をかしげたくなった。チェンバロソロの素晴らしいこと。とくに装飾音は絶品だった。また、2楽章の途中のゲネラル・パウゼの絶妙さ。こういうところに奏者の力量がでる。

つづくパーセルでは、ベルベット・ヴォイスの広瀬が聴かせる聴かせる。その一方で、“ああ、泣かせてください”では、スタンディジの合いの手が絶妙で、歌より泣けるという具合。休憩後のヴァレンティーニでは、最初のアダージョでうっとりし、4人のヴァイオリン奏者のそれぞれ異なる個性に酔いしれた。全員で弾いていると気づかないのだが、4人が4人とも持っている音色が違っていて、しかもみんな巧い。

後半2曲めは、スタンディジのソロでバッハのヴァイオリン協奏曲。彼が「過去の人」ではなく、まだまだ「現役」であることを如実に示した演奏だった。最後のヘンデルのコンチェルト・グロッソを経て、アンコールのヘンデルのアリアまで、幸せな時間が続いた。

この日は別の古楽コンサートと重なっていたためか、所沢という少々都心から遠い場所だったためか、客席には空席がみられた。非常にもったいなかったと思う。どんなに力のある演奏家でも年齢を重ねれば体力の低下は免れえない。さらにスタンディジの音楽が良い意味で正統派であることが影響したのかもしれない。

今日の舞台の上で繰り広げられたのは、派手さはなくとも実のある誠実な演奏をする巨匠と、その音楽に感化され目の前でどんどん巧くなっていく若手との、目に見えない魂の交歓とでもいうべきあたたかい交流であった。このホールは西武線の航空公園の駅から少し歩くのだが、帰りはほくほくと温まった心を抱えて家路についた。

(2018/3/15)