Just Composed 2018 in Yokohama~現代作曲家シリーズ~ バンドネオン新時代|大河内文恵

Just Composed 2018 in Yokohama~現代作曲家シリーズ~ バンドネオン新時代~タンゴからコンテンポラリーまで~

2018年2月25日 横浜みなとみらいホール 小ホール
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 藤本史昭/写真提供:横浜みなとみらいホール

<演奏>
三浦一馬(バンドネオン)
中野翔太(ピアノ)
上野耕平(サックス)
沢田穣治(コントラバス)

<曲目>
ピアソラ:オブリビオン(忘却)
     アディオス・ノニーノ
     『天使の組曲』より「天使のミロンガ」
     バンドネオンのためのコンチェルトより第1楽章
武満徹:映画音楽『燃える秋』より「タンゴ」
ピアソラ:レオノーラの愛のテーマ
     孤独の歳月
     エスクアロ(鮫)

~休憩~

沢田穣治:Relationship (Just Composed 2002委嘱作品)
ペルト:断続する平行
薮田翔一:祈りの情景(Just Composed 2018 委嘱作品・初演)

 

バンドネオンという楽器をご存知だろうか?アコーディオンに似ているが、鍵盤はなく、左右についているボタンを使って演奏する、タンゴには欠かせない楽器である。日本では小松亮太が最初期にバンドネオンを一般に広めたが、その弟子の出世頭が三浦である。すでに第一線で活躍する三浦がピアソラを始めとするタンゴと現代曲を演奏するということで、いそいそとみなとみらいまで出掛けていった。

結論からいうと、ピアソラも武満もペルトですら、薮田の新作の前座でしかなかった。それほど、今回の新作の衝撃は大きかった。バンドネオンはその構造上、奏法が限られている。もちろん、多彩な表現は可能だが、いわゆる特殊奏法といった現代音楽特有の手法は使えない。現代音楽で使われているさまざまな音楽語法のうちで、バンドネオンでも使えるものを洗い出して、それを紡いでいった沢田作品とはまったく異なる方向性をもつ作品だった。

7つの部分から成るこの作品は、第1曲がバンドネオン(以下B)とピアノ(以下P)、第2曲はPソロ、第3曲が再びB&P、第4曲がBソロ、第5曲がサックスとP、第6曲と7曲が三重奏となっている。まず第3曲で、ピアノのトレモロとバンドネオンの音との相性がここまでよいのかと驚いた。こんな音響は初めて聴いた。続くソロ曲では、今度はバンドネオンが笙のような響きを奏で、非常に息の長いフレーズが続く。バンドネオンは実は日本の楽器だったんだよと言われたら、うっかり信じてしまいそうになるくらいである。

第5曲では、サックスの音が聴こえてくるのだが、奏者の姿は見えない。だんだん近づいてきて、ようやく上野がステージに姿をあらわす。遠くから近づいてくるという手法は、ライブでなければ味わえないものであると同時に、サックスからイメージするよりもマットな音で演奏され、そのロングトーンにピアノが絡むと揺れて聴こえるのがなんとも不思議であった。最後の第7曲は、第3曲のトレモロと第5曲のうねりを両方使い、非常に贅沢な音空間が広がった。

前半についても触れておこう。三浦のバンドネオンはどの曲も絶品で、1曲目から聴き手の心の扉をぐぐっと開けた。中野は元々クラシックの奏者であるゆえか、三浦と一緒に弾いているときはノリがいいのだが、1人で弾いている部分にクラシックっぽさが見え隠れしてしまうのが少々残念だった。それでも、バンドネオンとの音のバランスに非常に繊細に気を遣っているのが見て取れたし、何より後半のプログラムは彼なしには成立しえなかったのは間違いない。

前半の中で敢えて挙げるとすれば、『孤独の歳月』と『エスクアロ』が白眉であった。武満の『タンゴ』は、たしかに日本人作曲家のバンドネオンの曲の代表なのだろうが、敢えて入れる必要があったのか疑問である。これだけを聞けばいい曲なのだが、ピアソラに挟まれてしまうと、どうしてもニセモノのタンゴに聞こえてしまうのが残念だった。

1999年に始まって、来年で20回を迎えるこのシリーズ、ぜひとも長く続いて欲しいと願いつつ、みなとみらいを後にした。

(2018/3/15)