Back Stage|第一生命ホールで、オペラ!?|田中玲子

室内楽ホール de オペラ「林美智子の『フィガロ』!」

text by 田中玲子(Reiko Tanaka)

いよいよ2年後に迫った東京オリンピック・パラリンピックの、選手村ができる場所はご存知ですか? 銀座から晴海通りを海へ向かって車で10分、高層ビルが建つ人口の島、現在建築工事が始まっているその中央区晴海にあるのが、第一生命ホール(客席767席)。私たち認定NPO法人トリトン・アーツ・ネットワークは、このホールで、「音楽でつながり、音楽と共に生きる社会の実現」をビジョンに掲げ、ホール主催公演と、ホール周辺地域でのコミュニティ活動を実施しています。
主催公演で取り扱う公演は、室内楽から、ホール専属の小編成のオーケストラまで様々、またお客さまは、ホール周辺の湾岸地域で増え続けている小さなお子様をお持ちのご家族からシニア層、はたまたホールの入るオフィスビル勤務の方まで幅広く、対象者別にシリーズを分けてお届けしています。そんな中で、クラシック初心者からオペラに詳しいファンを自負する方まで、誰もが楽しめる!と自信を持って、この春おおくりするのが「室内楽ホールdeオペラ~林美智子の『フィガロ』!」です。

過去の様子(林美智子90分の『コジ』!より)
(C)三次真二

2年前にメゾソプラノ歌手の林美智子さんのセルフ・プロデュース作品「林美智子90分の『コジ』!」(モーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」)を上演した時のこと。これはすでに他のホールでも上演したものを第一生命ホール用にアレンジした作品でしたが、聴覚的にも(ホールの音響が、生の歌声を聴くのにちょうどいい!)、視覚的にも(舞台だけでなく客席でも歌って演技をする歌手が、どの席からも見えるサイズ感!)あまりにホールにぴったり、ぜひまた続けてやりたいですね、ということになり、2年越しの準備を経て、今年3月に、同じくモーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」を基にした新制作「林美智子の『フィガロ!』」を上演することになったのです。

過去の様子(林美智子90分の『コジ』!より)
(C)三次真二

「オペラ」といっても普通に想像するような、舞台美術や大道具などはありません。シンプルな木の舞台にあるのは、椅子が数脚とピアノのみ。照明も色をつけたりせず基本的に「地明かり」です。そこに、日本のオペラ界を代表する歌手たちが現れると、あら不思議! たちまちそこが豪奢な邸宅の中や、海辺の庭園に早変わり、昼にも夜にもなります。もうひとつ、場面づくりに重要なのが、河原忠之さんのピアノ。林さんが「ひとりでオーケストラのようなピアニスト」と絶賛する河原さんの手にかかると、音楽から本当に、波がそよぐ様、登場人物の心臓がドッキンドッキンする音が聞こえてきて、どんな場面にも瞬時に移り変わります。
歌は原語のイタリア語。ただし、前回の「コジ!」のスタイルを踏襲して、なんと歌われるのはアリアではなく、複数の登場人物が歌う「重唱」のみです。有名な「恋とはどんなものかしら」も「もう飛ぶまいぞこの蝶々」もありません! アリアでひとり心情を歌う時ではなく、人物が集まって歌いあう時こそドラマが動く、というのが林さんの信条だからです。
「恋とはどんなものかしら」がない「フィガロ」なんて!と思われる方もいらっしゃると思いますが、心配ご無用です。前回の「コジ」では、重唱に導かれて物語がどんどん進み、あっという間に大団円、アリアがなかったことを思い出したのは終演後、という方も多かったと思います。そして、重唱の数々の美しかったこと…!音響の良い室内楽ホールでこそ堪能できる、まさに「歌の室内楽」、よくご存じのファンの方も、大きな劇場で見るオペラとはまた違った、モーツァルトの音楽のすばらしさに改めて気づかれることでしょう。
重唱以外は日本語のセリフで、こちらは林美智子さんの書き下ろしです。どうやら、有名なアリアのモチーフがセリフにも(例えば鼻歌になったりして)ちりばめられているようですので、通の方は、それを見つけるのも楽しいかもしれません。
ちりばめられているようです……って、そうなんです。この原稿を書いている時点では、「フィガロ」については、林さんが、一度書かれたオリジナルの台本を何度も推敲している最中。まだ林さんの他は、誰も見ていないというわけです。

歌い手は、林美智子さんの他、前回も出演した鵜木絵里さん、澤畑恵美さん、池田直樹さん、黒田博さん、望月哲也さんという日本を代表するオペラ歌手に、さらに今回、加耒徹さん、竹本節子さん、晴雅彦さんの3名が加わるという豪華さ。衣裳は黒を基調に、小道具も、それぞれ持ち寄ってくださいます。舞台上の椅子にいたっては、なんと林さんが通信販売で手に入れたものだとか……。舞台をよく知る歌手の皆さんがひとつひとつ愛情こめて用意してくださったセットというのが、またいいですね。
「出演される皆さんは、私が心から信頼する、オペラ愛にあふれた方ばかり。歌ももちろん素晴らしく、さらに高い演技力も兼ね備えた歌手たちが集まってドラマが大きく進んでいきます。昔はオペラ歌手というと、声が命で、舞台ではあまり動かないというイメージもあったかもしれませんが、もう時代は変わっているということをぜひご覧いただければ。」と林さん。大阪からわざわざお呼びする晴さんのアントニオは、林さんのケルビーノとともに物語を進める上で重要な役割を果たすそうで、こちらも楽しみです。

ふつうクラシック音楽は、すでに出来上がっている作品の再現芸術なので、どんな舞台が出来上がるのかリハーサルが始まってみないと全く分からない、という状況は私たちスタッフにとってもあまりないことです。でも前作の「コジ」の抱腹絶倒のおもしろさ、室内楽ホールで聴く声のアンサンブルのえもいわれぬ美しさ、音楽に対する愛と尊敬に満ちた演奏家の方々といっしょにひとつのものを創り上げていく喜びを知っているからこそ、今回も楽しみで仕方がありません。
予備知識なくふらっとホールに来た方も、フィガロには一家言ありというファンの方も、どなたにも楽しんでいただける舞台になること請け合いです。この音楽の楽しさを味わっていただき、「音楽でつながり、音楽とともに生きる社会の実現」につなげられたらと思っています。ぜひ第一生命ホールでしか見られない「室内楽ホールdeオペラ」へお運びください!

田中玲子(認定NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク/エグゼクティブプロデューサー)

(2018/1/15)

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公演情報
室内楽ホールdeオペラ~林美智子の『フィガロ』!
“アンサンブルのみで構成されたモーツァルト「フィガロの結婚」ダイジェスト版”
2018年3月18日(日)14:00開演(16:00終演予定)
2018年3月21日(水・祝)14:00開演(16:00終演予定)
出演
林美智子:メゾソプラノ/ケルビーノ、バルバリーナ&日本語台詞台本・構成・演出
加耒 徹:バリトン/アルマヴィーヴァ伯爵
澤畑恵美:ソプラノ/伯爵夫人
黒田博:バリトン/フィガロ
鵜木絵里:ソプラノ/スザンナ
池田直樹:バス・バリトン/バルトロ
竹本節子:メゾソプラノ/マルチェリーナ
望月哲也:テノール/ドン・バジリオ、ドン・クルツィオ
晴 雅彦:バリトン/アントニオ
河原忠之:ピアノ
料金 ■S席¥6,000 ■A席¥5,000 ■B席¥2,000 ■ヤング¥1,500(小学生以上、25歳以下)
※B席は舞台が非常にご覧になりにくい2階席サイドです。

公演詳細
http://www.triton-arts.net/ja/concert/2018/03/18/2520/