アンサンブル・ノマド 第58回定期演奏会|梶野聡・劉奇琦

アンサンブル・ノマド 第58回定期演奏会
~照らし合うものVol.3:中国・四川の香り〜

2017年2月26日 オペラシティ リサイタルホール
Reported by 梶野聡 ( Satoshi Kajino )
Feedback by劉奇琦 ( Liu Qiqi )/Translated by花田和加子(Wakako Hanada)
Photos by 林喜代種( Kiyotane Hayashi)

<演奏>
アンサンブル・ノマド:木ノ脇道元(fl)、菊地秀夫(cl)、花田和加子(vn)、甲斐史子(vn/va)、菊地知也(vc)、佐藤洋嗣(cb)、稲垣 聡(pf)、宮本典子(perc)佐藤紀雄(cond)
ゲスト:毛Y(古箏)、フォンターナ・ディ・ムジカ(chor)、川口静華(vn)

<曲目>
張旭鯤:彩雲(2015) Zhang Xukun:Clouds
昌英中:雪景図(2013/2016) Chang Ying Zhong:The Pictures of Snow-coverd Landscape
宋名筑:四川静音(ちんいん)の香り(2014) Song Mingzhu:Flavor in “Sichuan Qingyin”
劉奇琦:ディメンション(2015) Liu Qiqi:Dimension
郭元:ト音の上(2004) Guo Yuan:On the Note G
楊曉忠:蜀江錦の絵(2010) Yang Xiaozhong:Painting of Shu Brocade
敖翔:古の響きの韻(2015) Ao Xiang:The Charm of GuQin

 

2009 年秋の海外公演を契機に四川の作曲家とアンサンブル・ノマドとの交流が始まり、2015 年にはシリーズ「現代中国の作曲家たち」として四川省成都在住の郭元、宋名筑、楊暁忠、昌英中4枚のCD が刊行された。この CD 群を聴いたときこれまでのノマドとは何かが違っていると感じた。それは単に合唱曲や民族楽器(古箏)が加わっているからでも、4人の作曲家が各々に個性的(蛇足だがその個性は各CD ジャケットに絶妙に呼応している)だからというのでもない。「音響が出現する前と後の音空間、音響が爆発する瞬間と証明する瞬間に重きを置く」(郭)「非線形回帰の作曲法としての可能性とその実践を通じ、独自の音楽言語と作曲様式を確立する」(楊)といったことは既に近藤譲や石田秀実らの音盤で織り込み済みだし「西洋の伝統的な構成の上で展開される中国の伝統的な音階や節回し」(宋)や「チベットやネパールの文化に立脚した独自の視点が唯一無二の時間」(昌)をつくったとしても、わたしたちはすでに『めぐる~MEGURU 』を経験している。何よりもひとりひとりの演奏家の音はこれまで同様に明確に聴こえてくる。では何が違うのか。そんな思いのまま先の 4人に張旭鯤、劉奇琦、 敖翔が加わった第 58回定期演奏会―照らし合うもの Vol.3 ―「中国・四川の香り」は始まった。

一曲目の張旭鯤『彩雲』からノマドの演奏は全開だった。目前で音と音のインタラクションや音から音への変化が繊細な音響空間をつくっていく。変化するひとつひとつの音に演奏家自身がお互いに耳を澄まさなければならない。そして緊張したコミュニケーションが全体として流れる雲のように変化していった。
続く昌英中『雪景図』、宋名筑『四川清音の香り』は CDに収録されているが、会場での空間的広がりは圧倒的である。わたしは題名も含めてコンサートでことばを気にすることは余りない。プログラムノートすら読まないことがある。音楽そのものを聴くことが出来ればいいと思っているからだが、今回はことばが必要なようだ。
劉奇琦『ディメンション』。作曲家がdimension としてその多様性を探れば探るほど演奏者間の音のコントロールや正確性が要求される。それを易々と実現させるノマドの真骨頂には馴染みがあるのだが、なお違和感は払拭できない。
そうしたなか郭元『ト音の上』はCD には収録されてはいないが簡潔な表現で安定して聴くことができた。日本で教育を受けたことが影響しているのかもしれない。妙な云い方になるが、落ち着くのである。
楊暁忠『蜀江錦の絵』は毛Y の中国古箏独奏。この曲は技巧もさることながら独特な「間」が実に面白い。
そして最後の敖翔『古の響きの韻』。この激しい曲を聴き、そしてプログラムノートを読んだとき、それまで感じていた違和感が融解した。敖はこう記す。「古代中国の演奏家は、楽器を奏でる際、彼らの感覚やその場の状況に応じて音の長さや強弱、ヴィブラートのスピードや長さなどを選ぶ。演奏家が己の自己鍛錬の成果を表現する際は、 それぞれに異なった、 洗練された技法が用いられることになる。」
佐藤紀雄はその「感性に素直に従って自由に創作する喜びを謳歌している姿」に「先入観を軽々と裏切っていく愉快な驚き」を感じたのだ。そしてCD や演奏会で佐藤が目指したものは「そこに四川を現わす」ではなく「そこを四川にすること」ではなかったか。中国西南部に位置する四川省は「天府の国」といわる豊饒な自然と、 3000 年に及ぶ文明の歴史があり、また様々な少数民族が共生しているところでもある。そうした「風土」を表現するには、音楽空間そのものを「四川にする」しか方策がない。アンサンブル・ノマドは常に進化を続けている。
                       梶野聡

<Nomad乐团反馈>

1、乐团整体演奏水平一流,乐手之间的配合与默契度很高,态度严谨。乐手对于作曲家的乐谱非常尊重,极尽所能的完善乐谱上的演奏要求和情绪处理,并能准确的理解和把握作曲家的意图,以作品的风格、创作特点为基础,让作品的呈现更加清晰和完美。

2、音乐厅的声场效果非常棒,共鸣和分辨度都达到国际一流水平,每位作曲家都对自己的作品能在这样的环境中演奏感到非常满意。

3、受众群体的欣赏水平都很高,场内非常安静,每首作品都带给了听众截然不同的音响感受,在中场休息和音乐会结束后,听众能对作曲家的作品提出独特的见解与建议,让作曲家对现代音乐的研习和创作更加充满信心和希望。

Nomad feedback

The performance was remarkable and the performers fit one another tactically. They showed necessary respect to the scores and played with rigorous attitude. What’s more, the performers followed the scores strictly and emotionally. Their accurate understanding of the composers is based on the very style and nature. Therefore, the works were revealed clearly and perfectly.
The concert hall’s sound field is fantastic. The resonance and resolution are the state-of-art level too. All composers enjoyed the environment with the sense of accomplishment.
The audiences were well music-educated. Each piece of works gave the audience very different sound feeling. At intermission and after the concert, some of the audiences gave advices and unique opinions to the composers. They were powered by the real-time feedback to study and compose modern music more confidently.

アンサンブル・ノマド定期演奏会フィードバック

この日の演奏は、演奏家たちが見事にアンサンブルを作り上げ、素晴らしいものとなっていた。彼らは楽譜に敬意を払い、それと真摯に向き合っていただけでなく、譜面を技術的にも表情的にも忠実に表現していた。彼らの理解の深さは、彼らの持つ素質と姿勢によるものであり、それによって全ての作品が鮮明に、且つ完璧に表現されていた。
会場の響きも素晴らしかった。残響や響きの融け合い具合もトップレベルのものであり、出席した作曲者全員がその音響空間を堪能した。
聴衆の音楽的な意識も高かったと思う。それぞれの作品が聴衆に異なった印象を与えていたようで、休憩の時や終演後に、聴衆の中から作品についてのアドヴァイスや貴重な意見が作曲者たちに伝えられた。このようなリアルタイムのフィードックが今後の私たちの勉強や、より自信を持って現代音楽を作曲する上でどれほどの励みになったことかと思う。
                     劉奇琦(翻訳:花田和加子)


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編集部註)本公演は執筆予定の執筆者が当日急病で欠席のアクシデントのため、聴衆の方からのレポートと作曲家の方からのfeedbackを掲載させていただきました。