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豊嶋泰嗣&中野振一郎 デュオ・リサイタル|佐伯ふみ

%e3%83%90%e3%83%ad%e3%83%83%e3%82%af%e3%83%87%e3%82%a3%e3%82%aa豊嶋泰嗣&中野振一郎 デュオ・リサイタル

20161125 ハクジュホール
Reviewed by 佐伯ふみFumi Saeki
写真提供:Hakuju Hall

<演奏>
豊嶋泰嗣(Vn)
中野振一郎(Cemb)

<曲目>
ヴィヴァルディ:マンチェスター・ソナタ 第5番 変ロ長調 RV759
ビーバー:無伴奏ヴァイオリンのためのパッサカリア ト短調
J.S.バッハ:ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ 第4番 ハ短調 BWV.1017
「バロックの悪魔と天使」
タルティーニ:ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ト短調 「悪魔のトリル」
フォルクレ:クラヴサン組曲 第1番 ニ短調 より
Ⅰ. ラボルド Ⅱ. フォルクレ Ⅳ. ベルモン Ⅴ. ポルトガルの女(Cembソロ)
ルクレール:ヴァイオリンと通奏低音の為のソナタ ニ長調 op5-8

「デビュー30周年記念! 初共演バロック・デュオ」と銘打たれた、珍しい顔会わせのコンサート。曲間のトークで、「同じ年の同じ月に生まれた」と中野。桐朋では同級生で、今年がデビュー30周年というのも同じ、近年2人とも京都市立芸大で教えていて話す機会が増えたのをきっかけに、50歳を超えて初めて共演が実現した、とのこと。「デカ&チビコンビ」(中野)の微笑ましくも真剣勝負のデュオで、もうお腹いっぱいの聴き応え。

中野は飄々とした立ち居振る舞いの中にそこはかとないユーモアがあって、演奏後に客席に挨拶をしたり、豊嶋と前後を譲り合って袖に引っ込んだり、そういった当たり前の挙措動作が、なぜだか可笑しい。最初はくすりと笑い声がもれるくらいだった客席がだんだんとぬくもっていって、最後には笑顔で手を大きく頭上にあげて喝采を送るお客さんがたくさん出現した。相方の豊嶋はひたすら演奏に専心、曲間のMCも中野にお任せだったが、大きな身体をこごめるようにして袖にひっこんでいく豊嶋の姿まで、だんだんとユーモラスに見えてくるのが不思議。演奏はもちろん非常に質の高いもので、加えて奏者の人柄のあたたかさや2人の肝胆相照らす絆の強さが垣間見えて、好感度抜群。聴いていて嬉しくなってしまうコンサートだった。

前半と後半に、1曲ずつソロが入った。豊嶋のソロは、全曲を通して繰り返される「ソ-ファ-ミ-レ」の音型が印象的なビーバーの『パッサカリア』。終盤の盛り上がりに圧倒された。中野はフォルクレのクラヴサン組曲から4曲。なかでも「フォルクレ」「ポルトガルの女」はとても大胆な作曲で面白かった。

豊嶋のヴァイオリンは久しぶりに聴いたが、艶やかで繊細な美しい音色も、唖然とするほどの巧さも、まったく変わらない。対する中野は、緩急自在、曲想に応じてくるくると表情を変え、多彩な表現力と躍動感が素晴らしい。そうだった、バロックの音楽はこうした強いコントラスト、振幅の大きな激しい表出力が特徴なのだったと、改めて思い出す。開幕の『マンチェスター・ソナタ第5番』は緩・急・緩・急の4楽章、夢見るような出だしの「前奏曲」から、最後のドラマティックな「コレンテ」まで一気に駆け抜ける。バッハの『ヴァイオリンとチェンバロのソナタ第4番』の特に最後の「アレグロ」の無窮動を豊嶋が見事に制御するのに惚れ惚れした。

後半の3曲は「バロックの悪魔と天使」と題されていて、タルティーニの『悪魔のトリル』から始まり、その変人ぶりから「悪魔」と恐れられたフォルクレの作品、最後は「天使のように美しい演奏」と称えられたルクレールのソナタOp.5-8。第3楽章アンダンテで、上段の鍵盤を駆使するチェンバロがまるでギターのような味わいだったのが印象的だった。

アンコールは2曲。ルクレールの『タンブラン』はよくアルコールで弾かれる、劇的な作品。もう1曲のプーランクの『愛の小径』は、ヴァイオリンとチェンバロという異色の組み合わせでも、意外や面白い。洒落たアンコールになった。

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