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《フィガロの結婚》|藤堂清

figaro2016b二期会名作オペラ祭
モーツァルト《フィガロの結婚》

2016年7月18日 東京文化会館
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種( Kiyotane Hayashi)

<スタッフ>

指揮:サッシャ・ゲッツェル
演出:宮本亜門
装置:ニール・パテル
衣裳:前田文子
照明:大島祐夫
合唱指揮:大島義彰
演出助手:澤田康子
舞台監督:村田健輔
公演監督:大島幾雄

<キャスト>

アルマヴィーヴァ伯爵:与那城 敬
伯爵夫人:増田のり子
ケルビーノ:青木エマ
フィガロ:萩原 潤
スザンナ:髙橋 維
バルトロ:長谷川 顯
マルチェリーナ:石井 藍
ドン・バジリオ:高田正人
ドン・クルツィオ:升島唯博
アントニオ:畠山 茂
バルバリーナ:全詠玉
花娘1:辰巳真理恵
花娘2:加藤早紀
ハンマーフリューゲル:大藤玲子
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

二期会における《フィガロの結婚》の上演は今回で17回目となる。そのうち最近の4回が宮本亜門演出の本プロダクション。2002年に初演、2006年、2011年と再演、今回5年ぶりの再演からは《二期会名作オペラ祭》と銘うち、何年かに一度、キャストを変えながら上演していくこととなった。
《フィガロの結婚》における宮本演出は、読み替えによって役の性格を変更しておらず、長期間にわたる継続的な利用に適している。レチタティーヴォの省略が少ないことも特徴といえる。第四幕でカットされた二つのアリア(ドン・バジリオとマルチェリーナ)の直前まで残されていた。
舞台装置は手の込んだものではないが、照明によってさまざまな表情をみせる。各幕の場面自体、主役の心象風景として作られていたとも考えられる。第一幕から順に、スザンナ、伯爵夫人、伯爵、フィガロといったように。たとえば第二幕の舞台奥の壁は人の出入りを拒否するような造りだが、その上部には「のぞき窓」のような少し思わせぶりなところもある。

今回の指揮者、サッシャ・ゲッツェルはウィーン生まれの45歳、オペラ、コンサートで活躍している。2013年より神奈川フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者をつとめるなど、日本との関係も深い。
早めのテンポで、響きを長くしない古楽的な演奏を指向していた。それもあって、せかせかした演奏という印象。声の入る部分だけでも、ふくらみをもたせられればよかったのだが。オーケストラのコントロールという点では大きな問題はなかった。

歌手はそろっており、安心して聴けた。
伯爵夫人の増田は、前回の公演でも歌っており、役が手に入っている。スザンナらとの重唱でも中心となっていた。スザンナの高橋、声は少し細めだがきちんと響いている。言葉のわかりやすさも評価できる。今後、第1幕のマルチェリーナとのやり取りや、第4幕で伯爵夫人の扮装でのフィガロとの重唱などでの「声の演技」を工夫してもらいたい。若手と思っていた萩原も40代、さらなる成熟を期待したい。与那城の伯爵、歌でも演技でも、この自己中心な役柄を表現しており、聴きごたえがあった。

二期会の《フィガロの結婚》、しばらくはこの形で楽しむことができることだろう。今回も宮本が関与したが、それが困難な場合に演出を継承する方法、人材などについて考えるべき時期にきているように思う。二期会の組織として考えていっていただきたい。

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