フルート・コンソートで奏でるイギリス・ルネサンス|片桐文子
2017年7月1日 近江楽堂
Reviewed by 片桐文子(Fumiko Katagiri)
〈出演〉
ソフィオ・アルモニコ
前田リリ子(ルネサンス・フルート。以下同)
菊池かなえ
菅きよみ
国枝俊太郎
相川郁子
佐藤亜紀子(ルネサンス・リュート)
〈曲目〉
ヘンリー8世,J.ダンスタブル, T.モーリー, J.ダウランド, A.ホルボーン,O.ギボンズ, T.ウィールクスなど、イギリス・ルネサンス期の作曲家たちの作品
ソフィオ・アルモニコは、2008年、前田、菊池、菅、国枝の4人のフラウト・トラヴェルソ奏者によって結成され、ルネサンス期のフルート作品の発掘、演奏習慣や奏法の研究、そしてその魅力を伝える啓蒙的コンサートを息長く続けてきた。2016年に初のCDをリリース、そして今春は「東京・春・音楽祭」に出演と、着実に活動の幅を広げている。
ルネサンスの多声(ポリフォニー)音楽は、後代のような主旋律/伴奏といった区分けがなく、すべての声部(パート)が対等の重みをもつ。各パートが近づいたり離れたり、前に出たり後ろに引っ込んだりと絶え間なく変化しながら、不思議な調和を保っている。ソフィオ・アルモニコ(「調和の息吹」)の名前も、ここから来ているそうだ。このコンサートは、そのようなルネサンス音楽の魅力を存分に味わえるよう、細やかに工夫が凝らされていた。
当時大流行した同族楽器のコンソート(合奏)で、総勢十数人にのぼる作曲家の作品を次々に紹介していく。プログラムはいくつかのブロックに分けられていて、開幕はヘンリー8世(1491-1547)とその宮廷音楽家たちの作品。次に、ルネサンス文化が開花したエリザベス1世(1533-1603)時代の音楽。ジョン・ダウランド(1563-1626)の作品。シェイクスピア(1564-1616)の劇中に登場する音楽。最後は、バロック音楽の先触れのような表現が見え始めた、ジェームズ1世(1566-1625)の同時代の作曲家たち。
曲ごとに低音から高音まで大小さまざまの楽器が登場し、2人、3人、4人……と奏者の顔ぶれが変わる。時おり加わるルネサンス・リュートも、変化の彩りを添えていた。同族楽器の合奏はともすると単調に聞こえてきてしまうものだが、飽きさせないよう工夫されている。
合間にはさまれる解説は、各奏者が入れ替わり立ち替わり、時代背景や宮廷の様子をユーモラスに語ったり、関連する文献を朗読したり。決して教養講座のようなお堅い内容ではないので、客席からくすりと笑いがこぼれる。初めて聴く曲も多いはずだが、聴衆の集中がとぎれないのに感心した。ソフィオ・アルモニコの活動に共鳴し、継続して聴きにきている人も多いのだろう。それぞれの曲の面白さとともに、終始くつろいで、温もりのある雰囲気が心地よく、忘れがたいコンサートだった。